18、今日こそ告白しよう


 告白するに当たっての懸念けねん事項。


 おかか研の部長、剥不さん。


「お」


 午前の授業の休み時間。


 俺は珍しく剥不さんと鉢合はちあわせた。白衣を着た彼女は、歩いていれば、いやでも目立つ。俺の顔を見るなり、トコトコと近づいてきて言った。


「質問」


「なんですか?」


「三船二葉を見なかった?」


「……いや、見てないですよ」


「そうか、じゃあ、昼休みに」


 肩をすくめると、剥不さんは去っていった。


 まずい。

 今日に限って、来ないでくれとは願っていたが、この様子だと間違いなく、剥不さんはやってくる。


 告白しようと言う時に、邪魔が入るのは勘弁して欲しい。


 となると、俺が頼りにできるのは、一人しかいなかった。


「鷺ノ宮」


 隣のクラスで、グループの中で談笑する鷺ノ宮を、そうっと呼び出す。振り向いた彼は、驚いたような顔をした。


「鐘白?」


「ちょっと良いか」


「あぁ、良いぜ」


 呼び出した鷺ノ宮を、なるべく人のいない廊下の隅に連れていく。彼は俺を見ながら、物珍しそうな顔をした。


「お前から来るなんて、意外だな」


「実は、ちょっと頼みがあるんだが」


「あー、金は貸さないよ」


「違う違う」


「じゃあ、剥不部長のことだな」


 鷺ノ宮の言葉にうなずく。


「深刻そうな顔してるからな。どっちかだろうなとは思っていたよ」


 剥不さんと金貸しが同等の部類とは、なかなかヒドい話ではある。


「何のお願いだ?」


 腕を組んだ鷺ノ宮が、言った。

 あんまり気は進まないが、背に腹は変えられない。鷺ノ宮に頭を下げてお願いする。


「剥不さんを、今日一日……いや、昼休みの間だけでも屋上から遠ざけてほしい」


「あー……それは金貸す方がよっぽど楽だな」


 苦い顔で鷺ノ宮は言った。


「最近の部長は、動物園から脱走したサル……いや、ゴリラみたいなもんだ。見張っていても、いつの間にか屋上に侵入している」


「頼むよ。遠ざけてくれるだけで良い。だますのでも、ふんじばってくれるのでも良い」


「縄抜けはこの前やられたんだよなぁ」


「なんでも良い。縄だろうが、鎖だろうが」


「鎖か。分かった」


 廊下の柱に寄りかかった鷺ノ宮は、ウンウンとうなずいて言った。


「良いよ。なんとかやってみる」


「助かる」


「……ちなみに理由は?」


「ん?」


「理由だよ。剥不部長を屋上から遠ざけたい理由。あるんだろ?」


 まじまじと俺を見つめた鷺ノ宮は、答えない俺をみて、何かを勘付いたのかニヤリと笑った。


「あの人か。良いよな。確かに可愛い」


「勝手に察するなよ」


「むしろまだ付き合ってなかったのか」


「……そうだよ」


いなぁ。よし友達の頼みだ。一肌脱いでやろう」


 ポンポンと自分の胸を叩いて、鷺ノ宮は言った。


「さー、本気出すかぁ」


 意気揚々いきようようと言った感じで、鷺ノ宮は教室に戻っていった。若干不安は残るが、剥不さんのことは彼に任せるしかなかった。


 ……あれ?


 そもそも、いつの間にあいつと友達になったんだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る