それぞれの幸せ ⑤
それからリュウは、迎えに来たトモの車で東京に戻った。
ハンドルを握りながら、トモはこの2日間の事を楽しそうに話した。
アユミは母親と同居しているので、トモは夜は実家に帰っているらしい。
「昨日な、マサキの学校が創立記念日で休みだったんだ。1日中、マサキと目一杯遊んだ。アイツ、ゲームめっちゃ強いんだよ。全然勝てなくってさぁ。すげぇだろ?」
「トモ……すっかり親バカだな……」
いきなり12歳の子供の父親になったと言うのに、トモはマサキとよほど気が合うのか、とてもかわいがっているし、マサキもとてもなついている。
「マサキさぁ……オレが父親なんじゃないかって、なんとなく勘づいてたらしい」
「そうなのか?」
「ゲームばっかしてたらアユちゃんに取り上げられてな、取り返そうと思って探してた時に、アユちゃんの引き出し開けたんだってさ。そしたら、オレとアユちゃんの付き合ってた頃の写真、見つけたらしい」
「へぇ……」
「それからずっと後に、夜中目が覚めたらな……アユちゃんが、その写真眺めて泣いてたんだってさ。マサキはアユちゃんにはなんにも言わなかったらしいけどな……。オレにだけ、コソッと教えてくれた」
「子供のくせに、親に気ぃ遣ってんだな……」
リュウはマサキの話を聞いて、小さい頃から自分の事をずっと見ていたハルを思う。
(子供って、見てないようで見てんだな……)
「リュウは2日間、何してた?ルリカさんの話ってなんだったんだ?」
何気なくトモが尋ねると、リュウは少し焦ったように缶コーヒーに手を伸ばした。
トモはその様子を見て、きっとハルの事に違いないとニヤリと笑う。
「リュウ、かわいい嫁は元気だったか?」
缶コーヒーを飲んでいたリュウは、トモの言葉に慌てふためいてむせ返った。
トモは楽しそうに笑って、左手でリュウの肩を叩いた。
「リュウ、めちゃくちゃわかりやすいな!」
「はぁっ?!」
リュウが手の甲で口元を拭いながら、運転席のトモを見た。
「ハルもいよいよリュウに嫁入りか?」
リュウは照れくさそうに首の後ろを押さえた。
「ハルはまだ高校生だからな……。大人になるまで、気長に待つつもりだ……」
ぽつりぽつりと答えたリュウの言葉に、今度はトモが驚いた。
「えっ……マジだったのか?!オレ半分冗談のつもりだったんだけど……」
「なんだよそれ……」
「だってさぁ……相手、ハルだぞ?18も離れてるし……リュウだってハルの事、娘同然だから有り得ねぇって……」
「そのはずだったんだけどな……。こんなオレの事ずっと好きだって言い続けてくれんの、ハルしかいねぇし……ハルを幸せにしてやれんの、オレしかいねぇんだってさ」
トモは穏やかに話すリュウを見て、こんなに幸せそうなリュウを見たのは初めてだと思う。
「愛されてんな、リュウ」
「オレはまともな恋愛してこなかったからさ。そういうの、ハルと一緒にゆっくり学んでこうと思ってな。こういうのも幸せだろ?」
「いいんじゃね?ルリカさんが姑になるんだから安心だな」
「マジでこえーよ……」
その頃、ユウはタクミと二人でバーにいた。
タクミと二人だけでお酒を飲むのは珍しい。
ユウがレナの見舞いを終えて病院を出た後、タクミから『一緒に飲まないか』と誘いの電話があった。
ユウは一度自宅に戻り、車を置いて、バーでタクミと待ち合わせた。
バーのカウンター席に並んで座り、ユウはビール、タクミはモスコミュールをオーダーして乾杯した。
「あーちゃんの具合どう?」
「なんとか大丈夫そうだ。もうすぐ退院できるって」
「その後、少ししたら出産か……。あーちゃん、いよいよママになるんだな」
タクミは楽しそうに笑う。
「最近、なんかいろいろあったな」
「そうだなぁ。あーちゃんが妊娠して、ハヤテが結婚して……トモが突然子持ちになって……」
「リュウもいろいろあるらしい」
「そうなんだ。リュウは自分の事、全然話さないからなぁ」
グラスを傾けるタクミを見ながら、ユウはタバコに火をつけた。
「タクミには浮いた話、ないのか?」
「ないね。オレは恋愛には向いてないから」
「リュウもそんな事言ってたな」
流れて行く煙を見ながら、タクミは微かに笑みを浮かべた。
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