どうやら異世界ではないらしいが、魔法やレベルがある世界になったようだ~スピンオフ~

ボケ猫

1 嫁目線


まったくあの男は、働くっていうことを知らないのかしら?

昔は自衛官だったとか言ってるけど、全然ダメじゃない。

何をしても適応できない。


バカなのかと思うけど、頭はいいのよねぇ。

お金がなきゃ、何もできないじゃない。

私の友達のチカちゃんなんて、旦那がイタリアンシェフだわ。

10年ほど海外を回って帰って来て、今は恵比寿でお店を出してるけど、芸能人もよく利用したりしてるって聞く。

一番の出世頭ね。

それに比べてウチの旦那は・・・ダメね。


旦那の親がそこそこお金を持ってるから、私たち生活できてるようなものだけど、私のバイトで成り立っているようなものよ。

ほんっとにダメな男ね。

凛にはしっかりと教えておかなきゃ。

こんな男とは、決して一緒になってはいけないと。


時間は19時前。

あ、そろそろ〇〇シの番組が始まる。

嫁はそう言ってテレビをつける。

『・・さぁ、お待たせしました。 今日の出演は・・』

〇〇シが紹介していた。


「おい嫁さん、チビたちお風呂入れたけど、どうぞ」

旦那ことテツが聞いて来る。

「嫁さん・・」

「うるさいわね! 聞こえないじゃない。 お風呂なんて入りたいときに入るわ、ほっといてよいいところなんだから!」

嫁は食器の洗いものを途中で終えて、テレビに集中している。

「じゃあ、食器洗っておこうか?」

「ほっといて、水が流れる音がうるさいから!」

テツが聞くと嫁はうるさそうに答え、テレビの前で正座して見入っている。


ほんっとにわからない旦那だわ。

せっかくの私のいい時間なのに・・あ、予約してお風呂入ろ。

嫁は番組を録画し、食器を片づけてお風呂に入る。

・・・・

・・

すべて終わり、子どもたちも寝たようだ。

私も寝よう。


嫁が寝ていると、何やら声がする。

な、なに?

今、何時?

嫁はそう思って時計を見る。

まだ朝の6時じゃない!

何なのよ・・。

ブツブツ言いながらリビングへ起きて来た。

すると、旦那が変なことを言っている。

ステータス画面がどうとかこうとか・・。


朝からゲームの話?

もっと他の時間にしてくれ。

でも、子どもたちは嬉しそうな顔しているわね。

え?

ステータスオープンって言うの?

はぁ?

嫁がそう思った瞬間、目の前に半透明のパネルが現れた。

「うわ、なにこれ? びっくりした。 なにこれ・・」

嫁は驚いて動けない。


旦那や子供たちを見ていると、どうやら自分の現状がわかるという。

それでまるでゲームのような画面だとか。

それに家の外には魔物がいるとか何とか言っている。

わけがわからないわ。

それに私のステータス画面を見たけど、レベル2って何?

私だって小さい時には少しはゲームしたわよ。

でも、レベル2は低いのはわかるわ。


話を聞いていると、世界システムが変わったとか雨戸を閉めろとか、わけのわからないことを言っているわね。

それで何か旦那が中心でレベル上げるとか言ってるけど、ゲーム・・じゃないわね。

変なパネルが見えたし。

私には何が起こっているのかわからないけど、夢じゃないみたいね。

なんか旦那が昨日と違って、活き活きしている感じがする。

バカじゃない?

何がレベルよ。

でも、実際旦那の動きなんて見えなかったわ。


とりあえず、今の世界が夢でなければ普通の世界じゃないのはわかったわ。

・・・・

・・

しばらくして、直接頭の中に『レベルが上がりました』『経験値を獲得しました』って聞こえたわ。

すぐにステータスパネルを見たけど、確かにレベルの数字が上がっている。

これが上がって行くとゲームのように強くなるのかしら。

でも、強くなってどうなるのかな?


嫁はまだまだテツほど適応できていないが、夢ではないことだけは実感できたようだ。


そのうち私の母親の無事も確認できて、私のところ一緒に暮らすことになった。

まぁ、私たちの家に後一人くらい来ても問題ないわ。

それに私のお母さんだもの、全然問題ないわね。

でも、どうしてあの旦那、私のレベルをもっと上げてくれないのだろう。

ご近所さんとあまりに差があり過ぎたら困るとか何とか言ってたけど、別にいいじゃない。

私だってそんなことベラベラ言うわけないわ。

旦那のパーティに入れてくれているだけで勝手に上がるんでしょ?

だったら、そうすればいいのに・・ほんっとに使えない旦那ね。


嫁はイライラしているようだ。

私もレベル6になって、職種を選んだわ。

アーチャーというのがあった。

聞いてみると弓を使った職種らしい。

学生時代にアーチェリーをやっていたからぴったりと思ったわ。

それでお義父さんが私の武器を作ってくれて、初めて撃ってみたときは驚いた。

もの凄い威力だもの。

学生時代やっていたアーチェリーなんかとは違う。

魔物を倒すときに、優は平気で倒していたけど私にはなかなかできなかった。

優に注意されっぱなしよ。

でも、この子・・こんな狩りばかりしていて大丈夫かしら?


旦那は勝手にアニムとか何とか王様のところへ行って来るって言って、勝手に行ってしまうし。

それで帰ってきたら何もないところからものを取り出したり入れたりと、心臓が止まるかと思ったわ。


◇◇


かなりこの環境にも慣れてきて、今までの世界と全然違うと思えるようになった。

そんな時、旦那が見たこともない女の人を連れてきてたわ。

あんな透き通るような女の人を見たのは初めてだった。

エルフとか言ってたけど、どの芸能人よりも輝いていたわね。

すぐ私に偉そうに言ったけど、どうでもいいわ。

私は自分の家族を守るのに精一杯よ。

それにはお金がいるけど、今の世界でお金ってどうなっているのだろう。

使うところがない。


◇◇


旦那が住むところを帝都にすると言い出した。

変な女の人たちを連れて来たと思ったら、今度は王様を連れて来る。

王様がいきなり街を作ったとか言って、その街で住まないかという。

お母さんに聞いたら、賛成だと言う。

お義母さんも既に行く予定みたいだった。

私もお母さんが行くのなら、一緒に行ってみようと思う。


実際行ってみたら驚きっぱなしだったわ。

初めに泊まったホテル。

そう、ホテルがあったわね。

凛や颯が喜んでいた。

颯は番犬が死んだのがショックだったようだけど、スラちゃんやバーンが出来たから安心ね。

あ、そうそうホテルの話ね。

帝国ホテルかと思うほどの品のあるところね。

それに食事がとてもおいしかったわ。

え? 

そりゃチカちゃんの方がおいしいわよ。


それで帝都で生活するようになると、お金が円ではなくてギルというものが使えるってわかったの。

そう、今までと同じ貨幣価値で使えるわね。

スーパーエイトがこの帝都に出店してたのが助かったわ。

今までと同じ生活ができるのですもの。

お金をどうしてるかって?

ライセンスカードに勝手に入れてキャッシュカードのように使っているわ。


<帝都の住居にて>


嫁は友人のチカちゃんに、今まであったことなんかを話しながら、コーヒーを飲んでいた。

「アズさん、そんなことがあったんだ。 大変だったわね」

「そうなのよ。 でもチカちゃんも帝都に住んでいるなんて知らなかったわ」

「うん。 最近こっちに避難してきたの。 地上の実家は壊れていたから・・私の親は無事なんだけど、地上の方がいいって言ってね、私たちだけが移転したの」

チカちゃんは言う。

「そうなんだ。 まぁ地上も今は安全だしね。 えっとどこまで話したっけ?」

嫁はそう言うと、またチカちゃんに話始めていた。

「えへへ・・私、冒険者なのよ。 チカちゃんは何してるの?」

「私はまだ決めてないの。 旦那は料理しかできないしね」

「でも、料理ならどこかにお店出せばいいんじゃない?」

嫁は軽く言う。

チカちゃんは微笑みながら答える。

「そうね、できることならそうさせてあげたいけど・・ね。 あ、アズさんの旦那さんは何してるの?」

「うん、冒険者をしてて、今もどこかほっつき歩いてると思うわ」

「そうなんだ。 その冒険者ってお金とか稼げるの?」

チカちゃんがそう聞くと、嫁がニヤッとして答える。

「チカちゃん、それがねものすごく稼げるみたいなの。 私驚いたわ」

・・・・

・・

嫁との会話はまだまだ続く。


「そうそうチカちゃん、学校って興味ある?」

「学校?」

「そうなの。 いろんなことを教えてくれるの。 魔術や武術、いろいろ役に立つわよ」

「学校かぁ・・それいいかもね。 私も行ってみようかな? 旦那も行ってみると気分転換になるかもね」

チカちゃんは寂しそうな顔で言う。

「なるわよ」

チカちゃんの旦那は料理に自信を持っていた。

その実力も実績もあった。

だが、世界が変化してやる気をなくしているようだと言う。

その時に、新しいところでやり直そうということで、帝都にやってきたようだ。


邪神教団との争いの前だ。


「チカちゃん、うちの旦那が連れて来たエルフがカフェなんかやってるけど、案外いけてるものよ。 それに帝都の住人になると、定期的にお金が振り込まれるしね。 生活に困ることはないわ」

嫁が得意そうに言う。

「アズさんは前向きね。 私も見習わなきゃ。 あ、アズさん、私そろそろ行くね」

「うん、またねチカちゃん。 帝都にいるのならいつでも会えるね」

嫁がそう言うとチカちゃんはニコッとして歩いて行った。


まさかチカちゃんが帝都にいるなんてねぇ・・それにあのイタリアンのお店。

無くなったんだ・・そりゃショックよね。


嫁はそんなことを考えていると、ふとライセンスカードを見てみた。

そういえば、このカードにお金が振り込まれたりするのだったわね。

えっと、確かここをタッチして確認だったっけ?

・・・

!!

な、なにこれ?

いち、じゅう、ひゃく、せん・・億・・。

億っていったい、何?

ちょっとギルドへ行って確認してみよう。


嫁は即座にギルドへ移動。

ギルドで確認してみると、どうも旦那からの振り込みらしい。

旦那の指示で定期的に振り込まれているという。

だが、額が違い過ぎる。

何でもテツ様がギルドや帝都に多大な貢献をしているので、ご心配なくとギルドの人は言ってくれた。

その額は教えてくれなかったが。


驚いたわ。

まさかあの旦那がねぇ・・。

これだけのお金があれば、何にも困らないわね。

でも、今の生活ってほとんどお金を使うようなところもないけどね。

嫁はそんなことを思いながら家に帰って来た。

家の中で凛と颯の食事を作りながら何も考えれないでいた。


◇◇


あのテツのこと、顔を見たと思ったらすぐにどこかへ行ってしまう。

今度は南極がどうとかこうとか・・はぁ、もう好きにして。

それに何やら戦争が起こりそうだとか言ってたわね。

この帝都は結界で守られているから問題ないはずだけど・・。

それにしても、あの男は勝手に動き回って、少しは私たち家族のことを考えたらどうなの?

お金・・そういえば、お金はもう問題ないくらいあるわね。

・・・・

嫁はしばらく考えていた。

あれ?

あの旦那、お金以外に何かあったかな?


人付き合いはそれほどない。

友人がほとんどいない。

旦那は、それでいいって言ってたわね。

強がってるんだと思っていたけど、そんなんじゃないわね。

それに子供たちに話している内容は、いつもわけわからないことを言ってるわ。

ニュース番組を見ていても、キャスターが言った言葉を取り上げて言うのよね。

言わないことは何かを探れ! って。

はぁ? 何言ってんのこの男って思ったわ。

旦那は、この世界に真実などあるはずがないが、言わないことが真実に近いと言っていた。


この男、やっぱりおかしいんじゃないかと思ったわ。

例えば原発事故。

最近その後の情報を言わなくなったわ。

私はあまり気にしないけど、旦那は違ったわね。

えて国民の目線を逸らすようにしているんだと言っていた。

毎日大変なことが現場では起こっている。

それに負の遺産の無限増殖。

その原発の維持や管理、処理費用に天文学的なお金と、10万年規模の時間が必要なんだから、ニュースでは触れないんだ。

だから原発をクリーン再生エネルギーなんて言ってる奴はクズだと言っていたわ。

私には、今の生活を考えるのに必死よ。

さて、ギルドや帝都から連絡が入ると思うけど、この場所・・移動したくないわね。


◇◇


邪神教団などというわけのわからない組織と戦争になるそうだ。

私たち一般市民は、少しでも安全な場所へ避難しろという。

優はレイアさんと一緒に戦闘に参加するっていうじゃない。

とんでもない。

・・・

私の説得も無駄だったわ。

帝都騎士団の人が、必ず守りますって言うし、戦闘には直接参加するわけじゃないという。

よくわからないけど、男の子って親の言うことなんて聞かないのね。

まぁ、お嫁さんもついてるしね。

無事を祈るだけだわ。


◇◇


避難した先では、戦闘の様子がわかるモニターがある。

一度だけ見たけど、映画じゃないのかって思ったわ。

こんなところに優が行っているの?

やっぱり力づくでも止めるべきだったわ。

でも、力じゃ負けるわね。


そのうち、無事戦争も終わり、邪神教団っていうのが滅んだという。

これで帝都に帰れるんだわ。

早く優に会いたい。

颯や凛も会いたいみたいだし。


◇◇


帝都に帰って来てみると、何やらザワザワしていた。

どうも戦勝パーティなどが行われるという。

何でもあの旦那が活躍したとか。

それに帝都から表彰されたりするという。

まさか・・あの金なしの男が。

ショックよ!

驚きだわ。


そんなことを思っていると、旦那いるじゃない。

何か声をかけづらい感じがするわ。

ええい、あの旦那よ。

「お、お帰りなさい」

旦那が驚いている。

どういうこと?

なんでそんな顔するのよ。

まぁ、いいけど。


◇◇


帝都でお祭りが行われるという。

旦那になかなか会えないわね。

そして、捕まえた時にとりあえず旦那に言っておかなきゃいけないことがある。

お金のお礼。

これを言っておかなきゃ私の立場が悪くなる。


旦那が前にいる。

なんか変な感じね。

旦那が先に言葉を発する。

「半年の間、子供たちをありがとう」


やられた。

先にこちらから言うつもりだったのに。

「こっちも、ギルドを経由してお金を振り込んでもらってたのね。 ありがとう」

え?

なんで驚いてるの?

私、何か変なこと言ったかしら。


私が驚いていると、旦那が分かれ話のようなことを言う。

どういうこと?

でも聞いていると、どうも分かれるんじゃなくて、自由にしてくれという。

はぁ?

わからないわ。

自由って何?

でも、子供たちが大きくなるまでは、今のままの感じで行こうですって?

何が今のままよ。

私ばかりに子供を押し付けておいて。

そりゃ、子供はかわいいわ。

でも、私も・・。


わかったわ。

仕方ないわね。

天文学的なお金を旦那は持っている。

そして、今や帝都の英雄だもの。

私が何を言ってもダメね。

それにあの美人のエルフがいる。

旦那は単なる相棒だっていうけど、フレイアさんは間違いなく好意を持ってるわ。

見た目じゃ絶対敵ぜったいかなわないし・・。

いいわ、とりあえず今のままで行くしかないわね。

そのうち私もどうなるか。

・・・・

あ、それよりも学校で魔術を学んで、若返りの方法なんて探ろうかしら。

そうね、それがいいかもね。

そうと決まれば、図書館で魔法を調べたりしなきゃ。


◇◇


やっぱり嫁はどこまで行っても嫁のようです。

もっと後悔してもらいたかったのですが、これくらいから始めて行くといいのかもしれませんね。

その先には叶わない望みを常に持ち、それでも軽く生きる嫁なんでしょうね。

ありがとうございました。

ボケ猫


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