第17話 ボムボムぷりん 後編
3人が借家に戻る頃にはすっかり日が落ちていた。すると隣家の入り口の前でダンボールを前に困り果てているおばあさんがいた。大家さんだった。
「おや? あんたたちはインフェルさんとこの」
コビドたちの存在に気づいた大家さんが声をかけた。
「えっと、どうも……」
地球人との会話に慣れていないサズがぎこちない挨拶を交わす。
「丁度いいところに来てくれたね。悪いけど、これ運ぶの手伝ってくれないかい?」
サズと違い彼女らがサイコロリアンだと知らない大家さんはとても気さくにコビドたちに話しかける。
「それ運ぶのか? だったら力持ちのマズちゃんに頼むといいんだぞ!」
「あ、ちょっと!」
自分たちの正体がバレるような軽率な行動は避けるべきだと、サズがコビドの不用意な発言を止めようとする。しかし、何も考えていないマズは興味を示し一度に3つのダンボールを持ち上げてしまった。
「ひゃー。こりゃ驚いた。最近の子どもは力持ちなんだねー」
「えへへ~。マズちゃんホメられた~♪」
「子どもじゃないんだぞ。あたしとマズちゃんは19なんだぞ。リッパなレディなんだぞ!」
「おやおやそうなのかい」
大家さんは子どもの冗談として真面目に取り合わなかった。
コビドと荷物を抱えたマズは大家の家である隣家にダンボールを運び込む。そんな様子を見て大家に不審がられなかったことにホッと胸をなでおろすサズだった。
「ところでこれは何なんだぞ?」
コビドは玄関に置いたダンボールの中身に興味を示した。
「これかい? これは実家から送られてきた野菜だよ」
そう言って大家は箱を開けて中を見せた。中に入っていたのは大量のじゃがいもだった。他の箱はそれぞれにんじん、玉ねぎだった。
「おお! これはじゃがいもだぞ! こっちは玉ねぎでこっちはにんじんなんだぞ!」
「あ~。さっきマズちゃんがつぶしたやつだ~」
それを見てさっきの出来事を思い出したマズが悲しそうな表情を浮かべた。そんなマズを見て大家が何かあったのかと訊ねた。コビドはインフェルに頼まれて買い物に行ったが失敗したことを大家に話した。
「そうだったのかい? まあ、あんたたちくらいの歳じゃ買い物に失敗しても仕方ないねえ。……ああ、そうだ! だったら今日はみんなでカレーにしないかい?」
「え!? いいんだぞ!?」
「いいの~!?」
「もちろんだとも。インフェルさんにはいろいろと世話になってるからね。そのお礼だよ。ささ、あんたたちはそのことをインフェルさんに伝えておくれよ」
「わかったんだぞ!」
2人は急いでインフェルの元に向かい事情を説明するのだった。
…………
その日の夕食は大家の家の庭で特製カレーが振る舞われた。
コビド、インフェル、サズの3人が庭に運び出した椅子に並んでカレーを食す。
「おおー、これがカレーなんだぞ? なんかう○こみたいだぞ! こんなもん食うとか信じられないんだぞ?」
「コビドちゃん……相変わらず例えがアレだね……」
「ほんとよ! 何で食事のときにクソみたいな話しすんのよ!」
「サズちゃんも人のこと言えないんだぞ。 ――うん。見た目はう○こだけど味はうまいんだぞ!」
コビドはそのまま一気に平らげおかわりをもらうために席を立ち、すぐに戻ってきてまた食べ始めた。
「地球人はいつもこんなうまいもの食ってるなんて信じられないんだぞ。大家さんも優しいし、地球はいいところなんだぞ!」
コビドは口の周りにカレーを付けながらバクバクと食べる。
「ちょっとアンタ。まさかとは思うけど自分の目的忘れてないわよね?」
「うん? 大丈夫だぞ。ママの言いつけはちゃんと守るんだぞ」
「コビドちゃん、口」
隣に座るインフェルがナプキンでコビドの汚れた口の周りを優しく拭き取る。
「もう1回もらってくるんだぞ!」
「よく食べるわね、アンタ……」
サズは呆れていた。
そんな中マズは少し離れたところでぷりんと名付けた猫と一緒にカレーを食べていた。
「さあ、ぷりん~♪ ごはんのじかんですよ~♪」
マズはスプーンですくったカレーをぷりんの口元に運ぶ。ぷりんはカレーの匂いを少しかいで口をつけずにそっぽを向いた。
「もしかしてこれきらい~?」
マズは餌やりを諦め自分の口に運んだ。
「これはからいたべものだね~。マズちゃんもからいのニガテなのです~」
文句を言いつつもマズは少しづつカレーを食べ皿を空にした。
ちょっとしたカレーパーティーは終わり解散となった。
インフェルの作業はまだまだ続いていて彼女はカレーを食べ終えた後もずっと作業に没頭し、全ての爆弾が完成する頃には翌朝を迎えていた。
……………………
…………
早朝、コビドたち4人は大量の爆弾を持って車で倉庫に向かった。倉庫に到着してから手分けして犬と猫に時限爆弾付き首輪を装着し、それをトラックに積み込んでいった。
「おわかれだね~。ぷりん~」
マズは寂しそうにぷりんの頭を撫でて自らの手で爆弾の付いた首輪を嵌めた。
すべての犬猫をトラックに積み終えるとインフェルの運転で倉庫を出発した。なるべく被害が広範囲に及ぶように距離を空けながら1匹ずつ逃していった。
自分たちに被害が及ばないように時限装置は割と長めに設定し、それぞれバラバラの時間を設定した。そして、最後の1匹をトラックから逃し終えると4人は何食わぬ顔で家に帰った。作業開始から4時間ほど時間が経過していた。
部屋に戻ってきたインフェルがテレビをつけると、早速ニュースでとある町で謎の爆発が起きて火の手が上がったとの報道がなされていた。さらに、ニュースの途中でまったく別の場所で新たな爆発があったとの緊急速報が入る。
「遂に始まったんだぞ!」
「うん。ここからが本番だね」
動物を使って爆発を起こすことはあくまで軍を分散させるための行為。本命はその分散させた軍人間を個別に処理していくことで地球人殲滅を円滑に進めることだ。軍人たちを殲滅できれば後は戦うすべを持たぬ雑魚だけが生き残る。そうなればもう地球人殲滅は容易だ……と、この時のインフェルは信じて疑わなかった。
各所で爆発が相次いでいることが報道される。原稿を読み上げるアナウンサーの顔にも不安の色が見て取れる。
インフェルの狙い通り、混乱を収めるため警察や軍が各現場に派遣されたとの報道がなされる。
「そろそろ出発かな」
インフェルが頃合いだと上がる。
「作戦開始だぞ!」
「確認するけど、なるべく気取られないようにしなくちゃダメだよ。あと、何かあったときのために単独行動は禁止」
「はい。インフェルさん!」
「がんばろ~!」
4人は勢いよく家を飛び出した。すると、玄関先でしゃがんでなにかしている大家さんの姿があった。どうやら猫をあやしているみたいだった。
「おや、あんたたち。今日も一緒なのかい? 本当に仲がいいねえ」
大家さんが立ち上がると足元にいた猫の存在が明らかとなる。黒と黄色の毛が背と腹ではっきりと別れた特徴的なまるまると太った猫だった。
「あ~、みてみて~♪ ぷりんだよ~♪ マズちゃんにあいにきてくれたの~♪」
マズが大家さん足元にいる猫を見て駆け寄っていく。
「やっぱりそうかい? 散歩の途中で見かけてね。昨日あんたたちとこの子が一緒にいたのを見てたからもしやと思ってね。連れて帰ってきたんだよ」
「えっと……」
事の重大さに気づいたインフェルが引きつった笑いを浮かべる。
「マズ! ダメよ! 止まりなさい!」
同じく事の重大さに気づいたサズがマズを引き留める。
「ええ~? なんでぇ――」
マズがサズの方を振り返ったその瞬間、ぷりんが爆発した。
ぷりんはもちろん爆心にいた大家さんは爆弾の直撃を受けて散った。直ぐ側にいたマズも爆弾の衝撃をもろに受けた。
張り切っていたインフェルは通常よりも多めに火薬を盛っていたせいで、爆発の威力はかなりのものだった。家はもちろんの事、周囲一帯が近隣住民もろとも吹き飛ぶ。
コビド、マズ、サズ、インフェルは幸いにして死には至らなかったが、4人は巨大な爆風に煽られ遥か彼方へと飛んでいった。
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