第28話 女騎士、再び
「それで、アナ殿……用とは?」
とりあえずアリアフィーネとシェリルを着替えるように二階へと向かわせたところで、クロノが用件について質問する。
誤解であると認めさせるための説明を必死にしたあとなので、その表情は若干疲れて見える。
「クロノちゃん、ギルドから依頼があるの」
「何? わざわざ吾輩にか?」
「ええ、実は最近、近隣の森の中でモンスターの活動が活発になっていてね、普段は森の奥に身を潜めているゴブリンが街道に出てきて、人を襲う例が多発しているのよ」
「なるほど、依頼はゴブリンの退治……そしてゴブリンが街道に溢れ出るようになった〝原因〟の駆除といったところか」
「話が早くて助かるわ。そう、ギルドはゴブリンが異常繁殖したか、あるいは森の中に住めなくなった原因が発生したと見ているわ」
クロノにコクコクと頷きながら応えるアーナルド。
しかし、ここで一つの疑問が生まれる。
「どうして吾輩に依頼するのだ? 他に高ランクの冒険者がいるであろう?」
……そんな疑問が。
「確かに、この都市ギルドにはAランクの冒険者パーティが存在するわ。でもね、彼らは今、別の依頼で他の都市に行っているのよ」
そんなわけで、ハイオークを一撃で倒すほどの実力を持つクロノに依頼しようと考えたわけらしい。
「しかし、アナ殿、森にはゴブリンが異常繁殖しているかもしれんのだろう?」
「あ、それなら大丈夫よん。都市の騎士団から騎士隊が派遣されることになっているから。騎士団の方から、腕のいい冒険者を見繕ってほしいって依頼だったのよん♪」
「なるほど、冒険者と騎士隊、合同で敵を駆逐するということか」
「クエストは明日の昼から、報酬もなかなかいいわよん」
そう言いながら、アーナルドが一枚の羊皮紙を取り出す。
確かに、なかなかの金額か記されていた。
クロノの実力をすれば、割のいいクエスト……そんな風に思えるような金額だ。
「そういうことでしたら、わたしも一緒に行きますね、ご主人様?」
「もちろん、わたくしもですわ!」
どうやら会話が聞こえていたようだ。
アリアフィーネとシェリルが会話に加わりながら、二階から降りてくる。
「二人とも、今回は少々危険かもしれん、できれば家で待っていてもらいたいのだが……」
アリアフィーネとシェリルの申し出を、クロノは断ろうとするのだが……その途中で、アリアフィーネとシェリルが悲しそうな表情を浮かべてしまう。
まるで、わたしたちは足手まといですか……? そんなことを言いたげな雰囲気だ。
「……わかった。決して吾輩から離れるなよ?」
アリアフィーネたちのもの悲しそうな表情に、クロノは折れた。
「ありがとうございます、ご主人様!」
「精一杯頑張りますわ!」
クロノの言葉を聞き、アリアフィーネとシェリルはパッと表情を輝かせるのだった。
「それじゃあ、明日のお昼にギルドで会いましょう。そこで騎士隊のみんなを紹介するわん♪」
クロノたちの話がまとまったと見ると、アーナルドは機嫌よくそう言って、クロノたちの家を後にするのだった。
最後にアーナルドが言い残した「騎士隊のみんなを紹介」という言葉に、なぜかクロノはイヤな予感を覚えるのだが……果たして――
◆
翌日――
「ふむ、どうやら騎士たちはまだ着いていないようだな」
ギルドの中を見渡しながら、クロノが呟く。
その後ろにはビキニアーマーを着たアリアフィーネと、バニースーツを着たシェリルも一緒だ。
天使のような見た目のクロノに、絶世の美少女エルフ二人が並ぶ様を、周りの冒険者たちが見つめている。
とりあえず、空いているベンチに腰掛けるクロノ。
すぐさまアリアフィーネとシェリルが両隣に陣取り、クロノにピッタリと密着してくる。
「あ〜あ、クロノ君が羨ましいぜ、あんな美少女二人とパーティ組めるなんて……」
「私はアリアフィーネさんたちが羨ましいわぁ。あんな小さくて可愛い男の子を好き放題……」
仲良さげのクロノたちの様子を見ながら、おっさん冒険者とお姉様冒険者が、そんな風にぼやいている。
そんな時だった――
ギルドの扉が大きく開け放たれた。
扉の方を見たクロノたち。
何人かの騎士の姿がギルドの中に入ってくるのが確認できた。
今回のクエストに同行する騎士たちであろう。
そして最後の騎士が入ってきたところで……事件は起きる。
「ま、まさか! そこにいるのは私のダーリンではないか!?」
「げぇ!? あの時の女騎士!?」
騎士の声に続き、クロノも思わず叫ぶ。
そう、そこにいたのはクロノがこの都市に来た時に、彼に対しトンデモナイことをしようとして、逆にビンタ一発でアレすることとなった女騎士――スミレだったのだ。
「ふはははははは! まさかこんなところで会えるとは、やはり私とダーリンは運命の赤い糸で結ばれていたのだな! さぁ、その可愛いお顔を舐めさせてくれ……!」
わけのわからない言葉を発しながら、ドシドシと早足でクロノのもとへと進んでくるスミレ。
そしてそのまま、彼のトンデモナイところに手を伸ばしたところで――
「やめろぉぉぉぉぉ!」
――そんな叫びとともに、クロノが反射的に平手を繰り出す。
そんなクロノが繰り出した平手の軌道に、スミレは〝自ら〟踏み込んでいった。
そして……パチンッ! とスミレの頬にヒットするクロノの平手。
「ひゃぁぁぁぁぁぁぁん!
凄まじい声をギルド中に響かせながら、スミレはその場に崩れ落ちていった。
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