第19話
カイト達と離れトーリスの街まで戻ってきたシンは、ギルドから馬を借りてラングーンまでの復路を急いでいた。
「ハッッ!!」
掛け声と共に手綱を馬の体にうち下ろし更にスピードをあげる。
パカラッ、パカラッ、パカラッ、パカラッ。
……そうして夜の帳が降りた頃、シンは密かにラングーンの近くまで戻ってきていた。
馬をラングーンの手前の茂みの中に繋ぎ、肩に提げた袋の中から質素な白い服とフードを取り出して黒い甲冑を脱ぎ捨てそれに着替える。
シンは甲冑を袋に入れて肩から提げ、ラングーンの堅牢な門へと向かった。
門の前では騎士が二人で見張りを務めている。
近づいてくるシンに見張りの一人が誰何した。
「……こんな夜分に何者だ!
面を見せろ!!」
シンはその言葉に従い、ゆっくりと頭から被っていたフードを取り払った。
するとたちまち見張りの騎士は顔色を変えてこう言った。
「シン様ではないですか!!
どうも失礼いたしました!!
……それでこんな夜分にどうされたのですか?」
「些かヤボ用があったまでよ……。
見張りご苦労!」
シンはそう答えると、再びフードを目深に被ってラングーンの門をくぐり、街中へと姿を消した。
◆ ◆ ◆ ◆
クォーク・エル・グリドラは私室のベッドに腰掛け何やら思案していた。
「……わらわの正体にさては気づかれたか。……まあ、良い……。」
クォークの胸元には紫色の宝石のついたネックレスが下がっており、何とも言い難い妖しい光を放っている。
クォーク・エル・グリドラーーその正体は魔王軍側近の一人ナビスであり、彼女は本物のクォークを数ヵ月前人知れず暗殺し、今は得意の変化の術をもってして魔導騎士団参謀クォーク・エル・グリドラに成り代わっていた。
「……人間共め……。
……我らが恨み晴らさでおくべきか……。」
ナビスは決然と正面の壁を睨み付けたまま、
一人呟いた。
◆ ◆ ◆ ◆
ナビスのいるクォークの私室のドアの前では、リルの祖母キィール・クインが気配を悟られぬよう密かに聞き耳を立てていた。
「……やはり、そうじゃったか……。」
呟いたキィールは、しばらくの間佇んでいたがやがて足音を立てぬように気をつけながら自室まで戻っていった。
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