第344話

 「うぅ……痛っ……」


 どれくらい気を失っていたのだろう。森だったのに、周りの景色が更地になってしまっている。妖力による爆風を受けたからか、それともそれ以上の攻撃があったのか。あるいはその両方か。

 いずれにしても、かなりの者達がその爆風に巻き込まれたのは事実だ。かくいう私も、その巻き込まれた中の一人だ。他の皆、鬼組の妖怪達の中には死んでしまった者も居るようだ。

 

 「……っ」


 酷い有り様だ。時代を間違えて、戦国時代にでもタイムスリップした気分だ。けれど、鬼化していた私すらも吹き飛ばす程の威力だ。生き残った私を含め、まだ気を失っているだけの者は運が良かったかもしれない。

 だけど、生き残ったとしても素直に喜ぶ事は出来ない。今すべき事は、ただ生き残った事を喜ぶ事じゃない。今すぐに彼等と合流して、共に覇鬼を倒す事が最優先事項だ。


 「……持って一時間、かな」


 妖力も体力も、彼女との戦闘で消耗している。それを考慮するならば、もう一度鬼化で戦える時間は少ない。けれど、それでも彼等の……いや、彼の役に立てるのなら構わない。


 「それじゃ……ほーくんの為にも、皆の為にも……もう一回行きますか」

 「貴女だけじゃ無理よ」

 「っ、サ、サクラちゃん?無事だったんだね」

 「咄嗟に守護陣を作ったのだけれど、防ぎ切れなかったわ。腐っても、あの方は魔境で最強の存在って事ね。もう札が数枚しか残ってないわ」


 ギリギリもいいところね、と彼女は言葉を付け足して肩を竦めた。溜息混じりに言っているが、諦めているような雰囲気ではない。それどころか、やるなら付き合うわよと言っているような眼差しだ。


 「――良いの?」

 「理由はどうであれ、あの方は私の気持ちを利用した。それだけで十分万死に値するわ」

 「あはは、サクラちゃんって結構根に持つタイプだね」

 「誰だって許せないでしょ、乙女の純情を踏みにじったんだから」

 「……そうだね。私も、ほーくんを利用した事は許せないかな」

 「なら答えはもう決まってるでしょ。報復よ。目には目を、歯には歯をって事よ」

 

 さっさと兄様と合流するわよ、と言いながら彼女は歩を進める。私もその後に続こうとした時、何かを思い出した様子で彼女は振り返った。


 「言い忘れてたけど、この戦いが終わったら覚悟してなさい。あんたには、絶対に負けないんだから」

 「っ!?」


 恐らく、いや……本気の目だ。その言葉と表情を見た私は、思わず口角を上げてしまった。だが、これが笑わずに居られるだろうか。だってそうだろう。昔馴染みとはいえ、共に肩を並べて、共に同じ相手に恋を抱いた者同士だ。

 勿論、互いに譲れない物はある。だけど、どちらが勝っても恨みっこなし。正々堂々と正面から挑まれる感覚は、負けたくないという気持ちと同時に込み上げてしまうのだ。


 「望むところ、楽しみにしてる」

 「ふん、そんな余裕があるのも今のうちよ」


 そう告げた彼女は中空に拳を差し出した。私はその拳に、自分の拳を合わせたのである。

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