第304話

 魅夜と狂鬼を屋敷へ向かわせた焔鬼は、酔鬼と共にある気配の主を目指して移動中だった。黒いフードを深く被ったままの焔鬼に対し、酔鬼は小首を傾げて焔鬼の隣に並びながら問う。


 「どうして顔を隠す必要がある?あんたなら、その辺の奴等に負けないだろうに」

 「それはオレに化けてる奴が居るのに、堂々と歩き回る訳が無いだろ。状況の知らない奴が見れば、お前と行動してる現状で周囲が動揺に包まれるぞ。敵なら良いが、味方まで騙すつもりはオレには無い」

 「それはお優しい事だなぁ。それで?やっぱりあの人に会いに行くのかぁ?」

 「あぁ……少なからず妖力を感じているのなら、あの二人なら気付くはずさ」

 「あの人はともかく、もう片方の奴はどうでも良いんだけどなぁ。そいつも協力すると思うのかぁ?」

 「さぁな」


 焔鬼は目を細めて呟く。もう少しまともな返答が来ると思っていた酔鬼に対し、移動している姿勢のまま振り向かずに言葉を続ける。


 「――だから会って話すのさ。もしかすれば、オレは殺されるかもしれないけどな。何せ、随分と待たせちまったからな」

 

 速度上げるぞ?と言葉を付け足した焔鬼は、地面を蹴って移動速度を上昇させた。その速度に感心しつつも、酔鬼も口角を上げて地面を蹴る。同じ速度となった所で、酔鬼は可能性の話を投げた。


 「もし、協力を拒否したら……どうするんだぁ?」

 「無力化する。その時はお前に任せるが、勝手に殺すなよ」

 「了解だぁ。気絶させて手厚く保護してやるよぉ」


 酔鬼の言葉を聞いた焔鬼は、前を見据えて告げたのである。


 「近いぞ、準備しろ」

 「あいよ」

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