第300話

 「足、引っ張るなよぉ?猫」

 「うるさい。これが終わったらお前を潰すぞ」

 「おー、怖い怖い。俺のおかげであの人が戻って来たんだぁ。少しは感謝してくれても良いんじゃねぇの?」


 嘲笑しながらそんな事を言う酔鬼に対し、苛立ちを抑えながら隣に並ぶ魅夜は目を細める。刹那やハヤテに近い位置に立ち、攻撃よりも防御に徹するつもりだろう。

 口論をしていながらも、目の前に居るオレと対峙する覇鬼へと視線は向けられている。


 「あの二人、いつまで愚痴ってんだ?戦いに集中しろよ」

 「私に聞かないでくれますか?狂鬼さん」

 「……つうか、テメェは大丈夫なのか?」

 「何がでしょうか?」

 「怪我、完治してねぇだろ。その体で戦えんのかって聞いてんだ」

 「十分に戦えると言えば嘘になりますが、ある程度は戦えますよ。勿論、足を引っ張るつもりはありませんからご安心を」

 「っ、あぁそうかよ。なら死んだ方がマシだってくらい、死ぬまで使ってやるよ」

 「お手柔らかに」


 屋敷での治療によって完治までは行かないが、戦えるまでに回復した烏丸。そんな烏丸に負い目を感じているのか、やたらと妙に気遣う狂鬼の姿が気になる。だが、あの様子なら問題は無いだろう。

 あるとすれば、未だに頭の整理が出来ていないあいつ等だろうな。


 「いい加減、機嫌直せよ二人共。昨日の敵は今日の友、って言葉があるぞ」

 「ほーくんがそれを言っちゃおしまいだよ」「私達の気持ちも少しは考えて下さい」


 未だに不満気な表情を浮かべながら、オレ達と行動を共にしている。茜と桜鬼、彼女達が不機嫌な理由はここに来る少し前に遡る――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る