第232話

 桜鬼を初歩の妖術である縛で拘束する事に成功した茜は、拘束を解こうとする桜鬼の動向を探りながら術を操作し続けている。拘束を解こうとする度、妖力を練り直し続けて持続時間と拘束する威力を上げているのだ。

 強弱を交互に織り交ぜるやり方は、妖術の操作に置いて必要不可欠の行動だ。だがしかし、その行動を増やせば増やす程に妖力の消耗が激しくなってしまう。


 「……っ(何でこいつ、妖力が扱えてるの?記憶が無い状態じゃなかったんじゃないの?思い出してたとしても、不安定という情報は嘘?くっ、こんな状況を兄様に見られたら私の株が下がるだろうがっ……)」

 「っ!?(サクラちゃんの妖力が上がった?不味い、急いで妖力を練らないと)」


 初歩的な術とはいえ、茜はまだ記憶が戻ったばかり。朧気な記憶が鮮明になったばかりで、未だに記憶と気持ちの整理が出来ていない状態だ。そんなぶっつけ本番な状態で持続させるには、相手の力量に左右されてしまうだろう。

 

 「いつまでも、調子に乗ってんじゃねぇよ!!!クソがっ!!!!!」

 「――っ!?(やばっ、術が解ける)」


 急激に上昇した桜鬼の妖力に対して、縛の拘束力を上げようとした。だがしかし、予想していたよりも桜鬼の力が上昇していたのだろう。茜が術の威力を上げたと同時に、桜鬼の妖力が遥かに上回った。

 拘束が解けたと理解した茜は、刀を構えて桜鬼を警戒する。そんな茜に対し、桜鬼は怒りを露にして眉を寄せていたのである。


 「調子に乗るなよ、半端者が!お前は私を怒らせた。簡単に死ねると思うなよ」


 そう告げた桜鬼は、茜との距離を一気に詰めたのであった。

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