第221話

 黄色のオーラで可視化出来る程の妖力が、灰色の雲を貫いている。その様子と同時に桜鬼は、目の前に居る妖力の主を睨み付けていた。

 九尾化し、微かな妖力だけで桜鬼の放った術を弾け飛ばしたのだろう。それが面白くなかったのだろう。妖術で宙に浮いた桜鬼は、見下した眼差しのまま口を開いた。


 「全く、往生際が悪いですね。あれだけ痛め付けられて、まだ戦うつもりですか?」

 「それが売りだからな。それに……ふぅ、ここで倒れたら合わせる顔がねぇ奴が居るんだよ。だりぃけど」

 

 肩を竦める杏嘉を見据える桜鬼は、苛立ちを覚えた表情を浮かべる。空中で浮遊している状態の桜鬼は、中空に手を掲げて火球を再び出現させた。それを警戒しつつ、杏嘉は身構えて妖力を搾り出す。


 「安心しろよ、これが最後の悪足掻きだ。……まぁ、精々油断しねぇようにな」

 「その悪足掻き、正面から粉砕してやるわ」

 

 出現させた火球は大きさが増し、やがて杏嘉よりも遥かに大きい球体へ姿を変えた。その様子を見て頬に汗が滴る杏嘉だったが、地面を思い切り踏んで拳を引いて球体を見据えた。


 「――妖術、火岩鉄槌かがんてっつい

 「(綾、これがアタイの悪足掻きだ。……)」


 『フッ、往くが良いわ、馬鹿狐』


 拳を振るおうとした瞬間、手に添えられた何かを感じた。一瞬だけ聞こえた声に動揺したが、そのまま杏嘉は拳を振り切る。凄まじい風圧が桜鬼の放った術と衝突し、杏嘉の視界が真っ赤な衝撃波に包まれたのであった。

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