第212話

 「諦める?――んな事する訳ねぇだろうが!」


 桜鬼が無数の方陣から出現した火球は、容赦なく杏嘉に襲い掛かって来た。それを見据える杏嘉は声を荒げ、片腕を思い切り握り締めて引いて構える。

 そんな杏嘉の行動に目を細め、桜鬼は彼女の動向を探る。構えを取った杏嘉は、引いている拳に妖力を溜め込む。周囲の空気が彼女に集まり、妖力がさらに上昇する様子を睨み付ける。


 「(どういうつもり?避けるならまだしも、何かしようとしてる。この数の火球をどうにか出来るつもりなの?)」

 「すぅ……はぁ……――っ!!!」


 やがて溜めたのか、杏嘉は集中させた妖力を放出するようにカッと目を見開いた。


 「――――ぶっ飛べっっ!!!有象無象っ!!!」


 力の限り突き出した拳と共に、膨大の妖力が空気となって前に放出される。凄まじい風圧が妖力を覆い尽くし、突き出された拳の威力も凄まじい物となっている。

 その風圧を目の当たりにした桜鬼は、自分へと向かって来る風圧から身を守るように『守護方陣・朧』を展開する。砂埃と妖力の風圧に視界を奪われている最中、目の前で何が起きているのかを見据えていた。

 気配で探った結果、桜鬼は目を疑う事になったのである。


 「チッ(あの量の火球をたった一撃で……吹き飛ばしやがった)」

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