第131話

 ――現世へ向かう一年前。


 魔境では、黒騎士と共に現世へ行く事が出来る者が選定されていた。黒騎士統括である桜鬼の指示の下、魔境内で力に自信がある者達が集められている。そんな中に混ざり、周囲の者に視線を向けられていた双子の姿があった。

 

 それが、右近と左近である。


 だが選定される為には、周囲に居る者達を倒さなければ選ばれる事はない。逆に言えば、倒してしまえば選ばれる。という実にシンプルなものだ。

 容易いと考える者も居れば、容易くないと意気込む者も居る。そんな中、右近と左近は緊張を感じている様子は無かった。それどころか、体格が小さいにもかかわらず堂々としている。


 やがて戦いは始まり、無事に右近と左近は現世へ着いて行く事を許可された。そして、焔鬼率いる黒騎士達の補佐役として立場を獲得した。

 だがしかし、成功かと思われた結果を残したにもかかわらず、左近は納得している様子ではなかった。


 「お姉様はともかく、何故私は補佐役として任命されたのでしょうか?」

 「……兄様の出した決断に、貴女はご不満ですか?」

 「い、いえ、そんな事は……ですが、私ではその……分相応ではないかと」

 「つまり貴女は、自分では役不足だと。力不足だと言っているのかしら?」

 

 桜鬼の問いに対し、左近は小さく頷いた。その反応を見た桜鬼は、呆れたように溜息を吐きながら言った。


 「確かに分相応ね」

 「っ……」

 「兄様がせっかく認められたというのに、そのお気持ちを無碍にするとは……愚かな行為。万死に値する行為ですね」

 「!?ち、違います!私はただ、自分ではない誰かが相応しいのではないかと」

 「それが分相応な考えだと言っているのですよ、左近。貴女は何事にも姉である右近と比べ、そして自分を過小評価する癖を直しなさい。貴女は補佐役に相応しい存在です。それは決定事項であり、兄様がお認めになった事実です。もし、それでも自分が無価値だと言うのであれば……――貴女を信じた兄様と私、そして貴女の姉をも否定するという事よ」

 「っ!!」

 「誇りなさい。何を心配しているのですか?大丈夫ですよ、貴女は強い。何故なら貴女は――」


 その時に告げられた言葉を、左近は心に刻んだ。

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