第85話

 杏嘉が場所を移動し、豹禍を連れて行った。その様子でタイミングを見計らい、餓鬼の間を擦り抜ける彼女。


 「……」


 彼女の名は鬼組の組員であり、諜報担当である烏丸からすまである。戦況の把握と周囲の状況を全て把握する為、幽楽町全体を見渡せる位置で飛んでいたのだ。

 戦闘能力が低いという事が懸念材料ではあるが、彼女なりに役目を果たしていると言えるだろう。そのおかげで町の住民を避難させる事が出来ており、餓鬼出現に迅速な対応が出来たのだから。


 「綾様、生きておられますか?」

 「…………」

 「っ!?」


 道に倒れていた綾を見つけた彼女は、倒れている綾を呼んだが返事はない。その様子に動揺しつつ、綾の心臓に耳を当てる。


 ――――ドクン――――――ドクン――――。


 間隔が長く音も小さいが、まだ微かに息をしている事を確認した彼女。すぐに移動する為、カラスを大量に呼び寄せて運ぶ事にした。

 

 『カー、カー!』

 「慎重に運んで。綾様を落としたら、お前達は明日の鬼組の夕食に並ぶと思え」

 『カー、カー、カー!!』


 それは拒否したいという声で鳴きながら、カラス達は綾を慎重に運び始める。念の為にと彼女が見届けるが、餓鬼程度であれば多少は戦える。そう思っていた時である。

 町の中から異様な気配を感じ、彼女はその気配を確認しようとした瞬間だった。


 「がはっ!?」

 「――っ、(何かが急に飛んで来た?一体何が)」


 突如として飛来してきた物体は、小さい声を漏らして建物に衝突した。ガラガラと瓦礫に埋もれた物体を見つめ、警戒しつつ接近する彼女。そんな彼女が覗き込もうとした時、瓦礫の中からそれは飛び起きた。


 「だぁ、クソが!オレ一人であんなのと戦うとか、無理難題を押し付けやがって」


 そんな愚痴を吐き捨てながら起き上がったのは、元黒騎士である狂鬼なのだった。

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