第50話

 「フッ……」

 「兄様?」


 兄様が口角を上げ、微笑みながら頬杖をしている。その姿は何か無邪気に見え、悪戯心を芽生えさせた子供のようにも思えた。兄様が何故微笑んでいるのか、何を考えているのか。

 私では計り知れないだろう。天よりも高く、海よりも深い存在である兄様。そんな存在と肩を並べようと思うのは、我ながら傲慢ごうまんとしか言えない行為だろう。


 「どうかなさいましたか?兄様」

 「龍鬼が本気を出したようだ」

 「龍鬼が?……そうですか。あの子が戦うとすれば、恐らく相手は剛鬼かと」

 「だろうな。奴等の因縁を断ち切るつもりなら、ここで断ち切るべきだろうな。しかし、龍鬼が本気を出すのはあの時以来か」

 「そうですね。兄様に力を見せた時、直接兄様がお試しになった時ですね。あれから時が経ちましたが、兄様から見て龍鬼は如何でしょうか?」


 兄様は私の問い掛けに対し、再びニヤリと口角を上げて微笑んだ。その表情はとても整っており、目を逸らす事を忘れてしまう程に奪われてしまう。時を忘れ、このまま兄様の顔を眺めていたいと思う程に。

 

 「まだ若いが、才能はある。剛鬼の弟子という部分を除けば、これからの黒騎士には必要な人材だろうな。この戦い次第では、奴の黒騎士での立場を考えるつもりだ」

 「そこまで考えて下さるとは、少々妬けてしまいますね。(後で調教しようかしら)」

 「別に龍鬼だけではない。この戦いに参加している者達には、均等に褒美を与えるつもりだ。勿論、お前も含めてだ」

 「っ……」


 心の中で歓喜に震えながらも、私はそれを抑えて小さく呼吸を整える。本来ならば、この場で兄様に抱き着いてしまいたい所だ。だがしかし、今は戦いの真っ最中の為に自重しなければならない。

 私はそんな事を考えながら、兄様の前で頭を下げて言った。


 「勿体無きお言葉ですが、一つだけ我儘わがままを言っても宜しいでしょうか?」

 「お前の我儘か。久々に聞いたな、何を所望だ?」

 「そ、その……兄様ととこを共にしたい、と」

 「……――考えておこう」

 「(大分、というか随分と間がありましたが、まぁ良いでしょう)」


 兄様の返事を受けた私は、ニコリと笑みを浮かべて兄様の肩に触れるのである。


 「期待しております、兄様♪」

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