第32話

 突如として出現した餓鬼とそれを率いる黒騎士達。幽楽町を覆い隠すように広がり続けている暗雲あんうんは、それを助長させるかのように絶望という牢獄を作り出していく。

 昨日までの平和が偽りであると知らしめるかのように、それは突然と世界を覆っていくのだ。それはいつだって、忘れた頃に全身を覆い尽くして行くものだと人々の心に刻まれる。


 「くっ……」

 『んだよ、もう終わりか?さっきまでの勢いはどうしたんだ?あぁ?』

 

 そんな中、幽楽町から少し離れた森の中でボロボロとなったハヤテの姿があった。彼の背後には、同じくボロボロとなっている魅夜の姿もある。それを見据える男は、ニヤリと笑みを浮かべながら二人を見下ろしていた。

 魅夜を庇うように立つハヤテを見下ろしながら、その男は首の骨を鳴らしながら近寄っていく。やがて呆れた様子でしゃがみ込み、ハヤテと同じ目線にしてその男は言った。


 『まだオレ様とやる気なのか?いい加減諦めたらどうだ?あぁ?』

 「ここから先に行かせる訳にはいかないっスねぇ。俺がお前を抑えなきゃ、いけない気がするんスよ」

 『満身創痍になってる奴が何を言ってやがる。まぁ、聞いていた通りの諦めが悪い奴みてぇだからなぁ。もう少しだけ遊んでやるよ』

 「――っ!?」


 そう言った瞬間、男はハヤテの真上から叩き込むように拳を突き出した。それを回避したハヤテは、後ろに居た魅夜を抱えて男から距離を取った。ある程度の距離を作ったハヤテは、再び魅夜に言うのであった。


 「魅夜、早く行くっスよ」

 「ボクも一緒に戦う。戦えるよ?だから」

 「駄目っスよ。お前一人加わった所で、状況は変わらないっス。なら、俺だけでも奴の相手をした方が気が楽なんスよ」

 「……っ、ボクは邪魔?」


 そう呟いた魅夜に対し、ハヤテは武器を構えながら小さく言うのであった。


 「あぁ、邪魔っスね」

 「ぐっ……分かった。すぐに戻るから、それまで耐えてて!絶対だから!」

 

 そう言い残して町へと移動をし始める魅夜を見届けながら、ハヤテは小さく口角を上げて息を吐いた。肩を竦めつつ、目の前に追い着いて来た男を見据えて口を開いた。


 「……そう簡単に殺られる程、俺はやわじゃないっスよ」

 『鬼ごっこは終わりか?』

 「そうっスね。今気合を入れ直した所なんで、第二ラウンドと行こうじゃないっスか!」


 妖気を解放したハヤテに対し、男は見据えるように目を細める。腰に手を当て、後頭部にもう片方の手を添えながら呟いた。


 『良いぜ。掛かって来いよ、三下さんしたぁ』

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