スキルゼロ剣士、捨て駒された後に魔龍が進化したダンジョン攻略 ―そして魔龍由来の特殊スキルで成り上がる―
ミレニあん
第一章 スキルゼロ剣士と魔龍ダンジョン
第1話 白い目、落ちこぼれ、そして……
小さい頃から、俺はスキルや魔法が好きだ。
この世界のハンターなら当たり前に持っている能力で、実際に村に来たハンターが見せてくれたことがある。それ以来、幼かった俺はそういうのが好きになってしまった。
何故かというと、面白いからというのもある。本来非力な人間が強力な能力を使う……そういったところが魅力に見えたのかもしれない。
それに人によってスキルの違いがあったりするのも面白い。
小さな村で育った俺はステータスを知る術はない。知るにはハンター試験の際に、能力解析をされるとか何とか。
自分がどういうスキルなのか、どういう魔法を持っているのか。
そういう好奇心に駆られて、俺はハンターになることを目指した。ついでにお金がガボガボと入るし、まさに一石二鳥だ。
俺がハンターになると言うと、最初両親は苦い顔をしていた。息子が危険な職業に就くのだから当然だ。
それでも何とか2人を説得して、ハンターになることを許された。それからは毎日、身体作りと剣術訓練の日々だ。
独断で近くに現れた熊型の魔物を倒したりもした。
そうしてハンターになると宣言してから4年後、17歳になった俺は木こりをしている村人よりもたくましく、そして強くなったと思う。
「どんなスキルが付くのかな……」
そんなことを考えながら身支度を始めたものだ。
それで故郷を出たあと、ハンター稼業が盛んな街へと向かった。
ハンターというのは『ハンターズギルド』という組合に申請し、色々と検査など受けたあとになれるらしい。
もちろん、俺は街に到着してすぐにギルドに足を運んだ。
ここで重要事項へのサインをしたあと、ステータス解析を出来るという特殊な石板の前に立たされた。いよいよ自分のスキルや魔法が分かるのだ。
安直な言い方だが、胸がドキドキした。
自分がスキルや魔法というのが身に付いて、しかもそれを行使できる。
ワクワクしないはずがない。そもそもそのつもりでハンターになったのだから。
「ではフユマ様、石板に手をかざしてください」
女性職員に名前を呼ばれて、俺――フユマはその石板に手をかざした。その石板に光る文字が浮かび上がる。
どんなスキルが付くのかな。どんな魔法が使えるのかな。
それはもう、有頂天になって報告を待っていた。
そう、待っていたんだ。
*********************************
「くそっ……何だってこいつが……!!」
リーダーの言葉は俺の代弁だった。
薄い桃色の鱗を持った大蛇だ。
背中にはコウモリのような翼を生やして、瞳は宝石のように黄色に光っている。名前は『ヴィーヴル』。
「この辺にいるなんて聞いてねぇぞ!! 何やってたんだギルドは!!」
仲間が叫ぶ。実をいうと、こいつは討伐対象でも何でもない。
そもそもこの一帯を荒らしまわる『ジャイアントリザード』討伐が、今回課せられた仕事だ。とっくのとうにそれを終わらせて、戦利品の牙を持ち帰ろうともしていた。
するとどうだ。急にヴィーヴルが現れて俺達に襲いかかってきたのだ。
リザードの匂いに嗅ぎ付けられたのだろうか。
いずれにしても俺達にとってはイレギュラーな事態だ。
《シャアアアアアアア!!》
ヴィーヴルが吠えながら毒液を放ってきた。
仲間の1人が盾で防ぐと、みるみるうちに溶けていく。仲間が慌てて捨てたあと、盾がいびつな金属塊になってしまった。
「撤退だ、撤退するぞ!!」
ここでリーダーが指示をしてきた。
「元々こいつと戦闘する予定なんてないんだ! これ以上は被害を生むだけだ!」
「でもリーダー! ワープには時間がかかるんだぞ! 一体どうやって!!」
実は俺たちは、街からこの森にワープしている。これは仲間の一人が持っているスキルだ。
ただそのワープを発動するのに数十秒のタイムラグを要する。それに討伐の為の技術を持っているが、敵を撒く為の技術はほとんど持ち合わせていない。
それは恐らく皆も同じ……こういう時の為に身に付けるべきだった……。
「いや、エサを用意すればいい。そうだろう?」
エサ? そんなもの持っていたっけか。
なんて思っていた時、近くにいた仲間が笑っていたのが見えた気がした。
「えっ?」
そしてあろう事か、俺は彼によって突き飛ばされてしまった。
「ぐわっ!? えっ!?」
「光栄に思え。お前はこいつのエサになれるんだってさ」
見上げてみると、嘲笑を浮かべたパーティの姿があった。
何で……どうして? 今まで上手くやってきたのに、何でこんなことを……。
「理解していないって顔だな。お前を仲間に引き入れたのはこうする為だったんだよ」
「そうそう、俺たちを守る為に犠牲になれるんだ。光栄に思えよ、フユマ」
「そ、そんな!!」
何かの間違いだ……!! そんなことなんて……!!
抗議する間もなく、ヴィーヴルが大口を開けながら向かってきた。
何とか口から回避したものの、鋭い鱗に肩を抉られてしまう。浅くない傷から血が噴き出す。
「ううっ!! どうして……俺たちは仲間だったのに……」
「はっ、仲間? 俺たちは最初から捨て駒のつもりでお前を引き入れたんだ。勘違いも
そう言ってリーダーが、
「第一、お前は『スキルゼロ剣士』だからな。いてもいなくても変わりないだろうよ」
「……っ」
言い返せなかった。
そうだ……俺は、スキルも属性魔法もない落ちこぼれ。好きだったそれがいつまでも付かない敗北者。
何も言えなくて、俺はただ
《シャアアアアア!!》
「リーダー!」
「分かっている! じゃあ、精々足止めを頑張るんだな!!」
彼らはこの上ない笑顔で走っていった。
もちろん俺を置いて。
「ちょっと待ってくれ!! 置いて行かないでくれ!! おい!!」
必死に止めようとしたものの、彼らは振り返ることすらしなかった。
やがて森の中へと消えてしまう。残ったのは俺と、俺という獲物を狙っているヴィーヴルだけだ。
「…………」
《グルルルウウウ……》
絶望した俺の背後で、ヴィーヴルが低いうなり声を上げていた。
こいつもまた、俺のことを見下しているのだろう。さっきの奴らのように、取るに足らない奴だって。
「くそっ……」
俺をロングソードを握って、ヴィーヴルに振り返った。
俺を支配しているのは魔獣に狙われるという恐怖……ではなかった。
「くそおおおおおおおお!!」
スキルゼロの俺に出来ること。
ただがむしゃらに、ロングソードを振るうことだけだった。
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