第80話 入れ物である友人が奪ったもの
俺達はアランの魔法で透明になり、堂々と城の中に入っていった。中に人は少ないが、全ての照明に明かりがついていて、舞踏会の後のような雰囲気だった。
「その魔法、大変便利ですね」
「君を倒すときも一役買ったぞ」
ウフフ、アハハとアランと魔王は不穏な会話をする。
「君はハニーはこの後大量の魔法を入れられて神になると言っていたが、魔法の受け渡しなどできるものなのか?」
「そういう魔法使いの騎士がいるのですよ」
そう言いながら、魔王はついでのようにすれ違ってこちらを見た兵士を殺した。
まるで日常のように人を殺す人だ。
「……姐さんがトールさんみたいな魔法使ってたのってもしかしてそういうことッスか…?」
そういえば俺達が侵入した時、天音は見たことも無い風を操る魔法で攻撃をしてきた。
「そういうことですね。これは推測ですが、何らかの理由で王に背信行為を働いた彼から魔法を奪ったのではないでしょうか」
奴は魔王と同じく天音に強い恨みをもつものの独りだろう。
卑怯なアイツのことだ。天音が一人でいるところを狙って攻撃でもしたのだろう。
それでも、魔法を奪われるのは哀れではある。この世界では職も失ったも同義なのだから。まさか町のチンピラ程度だった天音が神と同じような存在であるなんて俺達ですら思わなかったんだから。
トールにとっては生意気な下級騎士に焼きを入れるぐらいのつもりだったのだろうな
「ひわっ」
後ろから小さなチルハの悲鳴が聞こえた。
慌てて後ろを振り向く。
すると、チルハの両腕を掴み持ち上げる背丈の高い男が立っていた。
「ハハハハ!!透明化の魔法とは子悪党らしい!!だが、足音までは消せぬようだな!!」
普通の騎士とは違うワンランク上の装いから、あのすさまじい火力の魔法を使う騎士と同じ階級の騎士であることがわかった。
ウサギを捕えた狩人のように難なくチルハを持ち上げる。
その仕草はチルハが人質だということを示している。
それを理解しながらも攻撃の構えを作る魔王を諫めつつ、俺達は降参を示すように手を挙げた。
「理解力がある奴は好きだぜ!!!!このか弱い小動物が苦痛に歪むのは誰だってみたくねぇもんな!!」
「そうだな。その子は大事な仲間だ。お手柔らかに頼むよ」
「なぜあっさりと降参するのです。こんな男、貴方殴ればすぐにKOでは?」
いいんだよ。
だってあの男のチルハの持ち方を見て見ろ。
よりによって、両手が重なるような捉え方をしている。
男とアランが話しているうちに、チルハはひわわわわと焦っているふりをしながら、
両手にちゃっかり手袋のようなものを錬成し、黄緑色の毒々しい液体を手の中心からあふれ出させた
「熱っっ!?」
男は反射で手を離すと、チルハは男が状況を把握しないうちに、足首辺りに釘と針の間ぐらいのものを叩き込む。
途端、男が泡を吹いて倒れてしまった。
「びっくりしたぁ!」
一連の冷酷で冷静な攻撃をした人物だとは思えない、運動が苦手な女子がドッチボールで当てられて外野に来た時のような態度で帰ってきた。
「びっくりしたぁはこっちの台詞ッスよ!!何スか今の武器!?」
「毒をな、血管に入れたかったんやけど、戦闘中は血管見つける暇ないからぶっとい釘を直接打ち込むとええって、前にアマネちゃんと話してたんや~!」
「ひぃ、かわいい子同士がする会話だとは思えないッス!!」
帰ってきたチルハを男連中はよしよしと撫でる。基本的に俺達のパーティはチルハに甘めなのだ。
「足手まといかと思っていましたが意外と使えますね」
不穏な台詞を吐くな。お前に留めをさした武器の制作者だぞ。
「私も人を倒したら貴方に撫でてもらえるのでしょうか」
え
相変わらず感情の起伏が少なすぎてどういう意図があって言っているのかわからない。魔王は無表情で俺を見上げていた。
「では、私が華麗に戦うところ見ていてくださいね」
そう言って魔王は先頭に行ってしまった。
今のようなことが起こらないよう俺は最後尾につく。
待て、今の魔王の言葉ははどういう感情で言ったんだ。天音への当てつけか?
魔王は戸惑う俺など構わずズンズンと進んでいった。
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