第78話  全てを知った友人のきれいごと

「この国は反逆と謀反で歴史ができていると言っても過言ではありません」


俺達は、地上続く長い階段をコツコツと音を立てて登っていた。


恐らく俺の元に来るまでに、魔王が倒したのであろう門番らしき人間の死体が度々転がっていて、こんなかわいらしい姿をしていながらやはり実力も性根も魔王様なのだなと実感した。


「裏切りとは最もこの王が恐れるものなのでしょうね。王はとにかく反逆が起きないような政策を行っていました。身分によって区分けしたり下層の区から魔法を奪っているのもそれが理由です」


今の生活に耐えかねて、下層の民が反逆を起こさないようにしているのか。

優秀な魔法が使える騎士が揃っている王都でも人数が多い下層は相手にしたくないのかもしれない。


そういえば、チルハの武器コレクションを見る限り、この世界には銃や爆弾などの武器が発達していないようにも見える。魔法を持たない人間からは徹底的に武力を排除していたのだろう。


「今、あの光の勇者が負わされている、反逆の抑止力としての役目は本来私が負っていました。転生者を意図的に呼び寄せることができ、不死であり、洗脳まで使える。洗脳により魔物を生み出すこともできます。つまり割とこの世界では最強の存在だったわけです」


事実として聞くとやはりチート級の存在だ。気絶だけとは言ってもよくあそこまで追いつめることができたな。天音のやつ。

皮肉だが、魔王という存在のみになり、民の共通の目の前敵ができたことで民の団結力のようなものが高まっていたのは否定できないだろう。この世界に不満がありストレスがあるやつも自己顕示力が高いやつも魔物を倒して成果を上げることで発散することができる。魔物を倒す、騎士という仕事があるにより、上級国民が仕事を失うことも無い。被害を被るのは魔物が多く発生する第5区などの下級層のみだから。


なるほど、よくできた上級国民のための国だ。


「なので、私は王都と契約していました。魔物を量産し、騎士に仕事を与えつつ反逆という気持ちを沸かさない程度の世界を維持するために影で共謀していたのです。王都の騎士団はもとより洗脳などされていませんよ。」


薄々勘づいていながらも、小さな希望を信じていた天音やアランの顔が浮かぶ。アイツらは王都の騎士団が利用されているだけで本当は良い奴らだと思いたがっていた。


もう最初からこの国は腐っていたのだ。怒りが沸々と湧いて出る。


「しかし、そこにあの馬鹿が現れました。まぐれとはいえ私を倒す実力があり、王が喉から手が出る程欲していた魔法を持つ転生者。桐生天音が」


大きな魔力を持ち、裏切りを看破できる魔法を持つ天音。

"神"という言葉を使って全世界に見せびらかすことで、天音を強い存在として認識させる。

魔王といういつ裏切るかわからない危険な存在よりも危険性が低いアイツを傍に置くことで、魔物を使わずとも、下級層の犠牲がなくとも、反乱を防ぐことができる。


「他人に魔法を移すという魔法を持つものが王都にはいるのですが、どうやら条件があるらしく人によっていくつ魔法受け入れられるかは魔力の器の大きさによって違うらしいです」


つまり、転生者である天音は器が大きく、魔王以上に神として適正な体質だったというわけか。

……天音が知らないわけがない。自分が神としての役目を背負わされること。

いずれ裏切らないように傀儡にさせられること。天音の魔法を持ってしてわからないわけがない。


「何か腑に落ちないようですね。私はアイツと違って貴方の心が読めないので察せませんが」


魔王はじっと俺の瞳を見つめる。洗脳された時の事を思い出して目を思わず目を逸らす。


「何故天音はこんな状況を受け入れているのか。気になるのでしょう」


知っているのか?!天音の考えていること?

俺は逸らした目を魔王に戻し、詰め寄る。


「せっかちな駄犬は嫌いですよ。私だってあの女の綺麗ごとは虫唾が走るので口にするのも憚られます」


そう言って俺の口のあたりに人差し指を当て大人しくさせた。


「新たな神の存在により、この政権が安定し、災害が無くなり、冤罪も犯罪も少なくなり、不要な犠牲も無くなります。この世界の民にとっては願ってもいない存在なのでしょう。反社会的な王であった私と違って、アイツは神様なのですから。きっと、それを理解して全部ひとりで背負いこむ気でいるのでしょうね」


魔王がそう言った時には、いつのまにか外に出ていた。

外は暗く、城に侵入してから24時間立ったのだろうということがわかった。


「あぁ、全く虫唾が走ります。自己犠牲なんて本人の自己満足でしかないのに」


案外お前とは意見が合うらしい。天音の自己犠牲の上になりたった世界なんて気持ち悪くて立ってられない。


魔王は俺の反応を見ると満足そうに数ミリだけ口角をあげた。

それから、月を背にして魔王は軽やかに飛び上がる。


目の前に見回りの騎士がいたらしい。

俺がそれに気づいた時には、三角締めを決め、騎士を気絶させ終わった後だった。


「それでは行きましょうか。虫唾の走る綺麗ごとをぶち壊しにいくために、貴方の仲間を共犯者にするために」


なんて頼もしい味方なのだろうか。

なんでも一人で背負い込む馬鹿野郎をぶん殴りに行く仲間として、信頼できすぎるぐらいの仲間だ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る