第130話 現代兵器チート

 俺たちは再びダンジョンをぶらつき始める。

 文字通りアテもなく彷徨っているので、道中は雑談が多くなった。


「なあ三崎。前回と同じルールかって御遣いと話してたよな。あれって要するに殺しはありかなしかって確認だけだったのか?」

「え? ああ、うん。そうだよ。参加者同士で協力するのもありだし、仲間のフリして後ろから頭かち割って殺すもよしのライアーゲーム。それがダンロワさ!」


 リピーターとしての知識を披露できているからなのか、三崎は得意げに語りだした。


「参加者同士で協力もできるけど、まあ裏切り推奨のゲームかな? 人数減らせば脱出できる可能性が高くなるんだから、他の参加者を殺すのは定石だし。チーム協力できるのも最大で5人だね。でも、さっきみたいにキャピエルが脱出者が出たって情報を流すから5人チームとかはその時点で分裂しちゃうね。メンバーが最大でも3人しか生き残れないことになるし。だから、あんまり大人数で組むことはオススメできないかなー」

「今回は2人同時に脱出……ってことは、どっかの誰かがコンビ組んでダンジョンの謎を解いたってわけか」


 仮にあと2人ぐらい脱出したら、残りの枠は1人になる。

 その時点でコンビ組んでる形になる俺や三崎は互いに殺し合うことが確定するわけか。


「でもお前、明らかに最初から謎解きする気なかっただろ。他の奴を殺すことだけしか頭になかったじゃねえか」

「うん。だって、このゲームは『5人が脱出するゲームじゃなくて、4人が死ねばいいゲーム』だから。例えば4人脱出した状態で僕が脱出できなかったとしても、他の参加者が全員死ねば勝ち残りが確定して、次のゲームに進めるんだ。僕は完全にそれ狙いだね。脱出すれば殺されることはないし安全地帯にいられるけど、僕は謎とかわかんないし。だったら自分より弱いのを殺した方が楽しいし、なにより簡単でしょ?」

「なるほど。言われてみれば確かにそうだな」


 三崎の言っていることは何一つ間違っていない。

 堅苦しい謎解きよりライバル全員を蹴落とす方が早いに決まっている。

 敵は全員死んで、自分たちが生き残る……考え得る限りの理想形だ。


「なんだ、三崎もちゃんと考えてたんだな」

「だからリョウジ! 人のことを全部わかったみたいに言うのは感心しないよ! それに、さっきからずっと気になってたけど僕のこといつまでも三崎三崎って。ちょっと他人行儀じゃない?」

「お前と下の名前で呼び合うほど仲良くなった覚えはないんだが……」

「むう。僕は親しみを込めてリョウジって呼ん――」


 言いかけて、先を歩いていた三崎が何かに気づいたように足を止める。

 嗅ぎ慣れた臭いが漂ってきたので、その理由は俺にもわかった。


「死んでるな」

「死んでるねー」


 この先で通路の途中に倒れている人影が見える。

 こめかみのあたりから血を流していて、遠目からでも絶命しているのがはっきりわかった。

 あの特徴的な丸い傷跡は……ひょっとすると銃で殺されたのか?


「死人が出たことはアナウンスされないんだな」

「うん。だから、誰かが既に死んでいるっていう情報は結構なアドバンテージだよ。これで最大でもあと3人殺せばいいってことがわかるし」


 要するに何も考えずに虐殺プレイしてれば、そのうち次へ進めるわけか。

 そりゃ三崎だって通り魔モードでダンジョンを彷徨うわけだ。

 最初からルール全部知ってたら、俺でもそうする。


「ねぇ、まーた失礼なこと考えてない?」

「いや、今のはちょっと俺と思考回路が似てるなって思ってた」

「へえ。僕とリョウジは案外、気が合うのかもね?」


 肩越しにまるで普通の女の子みたいな笑顔を向けてくる三崎。

 殺人鬼と気が合うなんて、ぞっとする話だが……まあ、確かに同類みたいなもんか。


「ああ、それと……あれやったの、たぶんだけどマント君だよ」


 死体を指差しながら、三崎があっけらかんと言う。


「マント君?」

「ほら、仮面をつけてたのがいたでしょ?」

「ああ、あの仮面チビ。もう一人のリピーターか」


 言われてみればマントをつけてた気もする。


「あの人、銃殺されてるでしょ? マント君は銃を使うんだ。そういう能力者みたいでね」

「ああ、確かに……そういえば持ってた気がするなぁ」


 俺の何の気なしのつぶやきに、三崎が首をグルンと回して超反応する。


「まさかマント君をなんかの鑑定スキルとかで視れたの!?」

「え? ああ、まあ視たぞ」

「ホント!? 内容教えて!!」


 三崎が目の色を変えて肩に掴みかかってきた。

 普段の飄々とした態度が嘘みたいだ。


「偽装レベルが高すぎて僕の鑑定スキルじゃわからないんだ。ねえ、頼むよ。僕はまだマント君に一回も勝ってないんだ。負けてもないけど……」

「うーん、なんだったかなー」


 視たには視たけど、覚えておくほどって気はしなかったんだよな。


「少なくとも『現代兵器チート』は持ってたな」

「『現代兵器チート』? なにさそれ」

「その名のとおりファンタジー異世界に銃とか爆弾を持ち込んで、現代兵器マジTUEEEをするためのチート能力だよ」


 現代兵器チート。

 異世界トリッパーが手に入れる能力としてはメジャーであるらしく結構な頻度で見かけるが、だいたいは『何かから兵器を創造する能力』である。

 もちろん俺も持っている。多くのチートホルダーから源理ちからを奪って融合させた結果、『写真から寸分違わぬ本物の兵器を数の制限なく弾薬満載の状態で取り出せる能力』となっている。

 アイテムボックスの中にある兵器カタログから直接兵器を取り出せるってわけだ。


 ちなみにバラして部品にすればクラフト&カスタマイズでオリジナル兵器を作ることも可能だし、なんなら後付けで弾薬無限にできる。

 アンス=バアル軍が採用しているようなSF兵器も『カタログの中の兵器がどこかの異世界で実在していることを俺が知っている』なら使用可能なので、もはやどこが現代兵器なのって話だ。

 俺の場合は写真さえあれば核兵器も惑星気化爆弾も使えるので強力には違いないが、魔法でなきゃ倒せない敵が珍しくない異世界だと最強には程遠い能力だし、俺の場合はやはり魔法を使ってしまったほうが手っ取り早い。

 だから強敵相手だとあんまり使えないけど、雑魚相手だとそれなりに無双が楽しめるというのが俺の評価だ。


「要するに銃器に特化した武器作成スキルってことかなぁ?」

「まあ、そんなところだ」


 厳密には違うんだが……ほとんどの異世界トリッパーはチート能力を異世界固有のスキルと混同して認識してることが多い。三崎もそうみたいだな。

 まあ、だいたいのチート能力はゲーム模倣型世界のステータス表示だとスキル扱いになったりもするし。むしろ、スキルの方がチートホルダーの間だとメジャーな呼び方かもな。

 でも異世界固有のスキルだと他の異世界と互換性がなかったりもするから、チート能力と混同しない方がいいって思うのは俺だけか?


「マント君が銃を使ってるのはわかってるんだから、それだと何の参考にもならないなぁ……他には?」

「うーん、俺もチラッと視ただけだからな。断言できる情報はない」

「むぅ、そっか……」


 三崎が残念そうに俺から離れて、口をすぼめる。

 確かにあの仮面チビは、もっとレアな能力をいくつも持ってたような気がするんだよなぁ。

 そのうちのひとつは現代兵器チートと組み合わせること前提っぽいのだった気がするけど、なんだっけ。

 俺の脅威にならないのはわかってたから、たいして気にも留めたなかったってのが実際。


「それはそうと、あの死体は調べないのか?」

「うーん……まだ近くにマント君が潜伏してる可能性が高そうだしね。近づかない方がいいんじゃないかな」


 俺にとって罠は食い破るものだけど、そりゃ普通は避けるか。


「じゃあ、俺が行こう」


 ここはひとつ、罠にかかってみるのも面白いかもしれない。

 相手側からリアクションがあればカウンターがいろいろできるし。


「えへへ……じゃあ、まかせるね!」


 何が起きるのか楽しみ! といわんばかりのキラキラの笑顔を浮かべながら、三崎は俺を送り出した。

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