第4話 ねらわれた じょうほう

「それじゃ、あの地図、取られてしまったの?」


こくんと おかしらが うなずくと セントは ながい ながい ためいきを ついた。あかい ドレスから のびる しろいあしを くみかえて セントは けだるげに ほおづえを ついた。


「どうりでJが慌てて出航した訳ね。それでジャヌアリー、貴女はどうするの?」

「そこなのよねぇ……」


おかしらは テーブルのうえに ずるずると くずれると セントより もっと もっと ながい ためいきを はいた。ふたりとも それきり だまってしまったので ぼくは つまんなくて さかばの なかを きょろきょろ みまわした。



ひるまの さかばは ちょっぴり しずかだ。

カウンターの むこうでは ふとった おやじさんが ベーコンを あぶっている。カウンターの こっちがわでは ふとった おかみさんが テーブルを ふいている。


おみせの なかには こわい かおをした おとこのひとたちが まだ おひさまも しずんでないのに おさけを あおって はなしこんでる。たぶん あのひとたちも かいぞくなんだと おもう。



「だって黒曜島と言えば『リドワーンの冠』の眠る島よ? その地図を諦めるなんて、あたしには無理よぅ……」

「リドワーンの かんむり?」


ぼくが ききかえしても おかしらは ためいきをついて つっぷしたままだった。と セントが おかしらの あたまを なでながら くすり わらって おしえてくれた。


「どんな願いもたったひとつだけ叶えてくれる、伝説の宝よ」


すごい! そんなのが あるんだ!


「ぼくも そのしま いってみたい」


おもわず そういうと おかしらは うっすら めをあけて とつぜん がばっと おきあがった。そうして ぼくの かたを つよく つかんで がくがくと ゆさぶった。


「モラ! アンタ、黒曜島の事知ってるって言ってたよね! じゃあ場所もわかるんじゃない!?」


はげしく ゆさぶられて ぼくは あたまが くらくら してきた。セントが くちびるの まえに ひとさしゆびを あてて おかしらの かたを そっと たたく。そこで おかしらは やっと ぼくを はなして かたをすくめて こしを おろした。


「ジャヌアリー。興奮すると声が大きくなるのは、貴女のあまり感心しない癖ね」


おかしらは ぺろっと したをだすと おきっぱなしに なってた ラムしゅを のみほした。それを たのしげに みつめながら セントが ほそいゆびを くみかえた。


「ねぇ、ジャヌアリー? 海賊なんて危険なこと、いつまで続けるつもり?」


とたんに おかしらが また おおきなこえを あげる。


「クレイもセントもおんなじ事言うんだから!」

「他はいいの。でも今回は話が違うわ」

「黒曜島の事?」


セントは かすかに うなずくと しゅういに しせんを むけてから こえを さらに ひそめた。


「今回の火事、事故や偶然じゃなさそうなの」


その ことばに おかしらの かおも しんけんに なる。


「……何者かが、地図を狙って?」

「この島に集うのは、Jみたいに真っ直ぐな人ばかりじゃないわ」


なんだか むずかしい はなしに なってきたみたい。

ぼくは また つまんなくなってきて こんどは まどぎわへ いってみた。



まどから かおを だすと かたむいた ひざしのなか くだものを たくさん つんだ やたいが さかみちを あがっていくのが みえた。ゆうひに ぴかぴか てらされて まっかな きのみが おいしそう。


ぼくは さかばの とびらを あけると やたいを おいかけて はしりだした。



「おじさん おじさん この くだもの なあに?」

「ん? これか? これはプラムだ」


プラム。


「美味いぞ。栄養もある」

「えいよう?」


じゃあ これ たべたら オーガスト げんきに なる?


「ちょうだい!」


ぼくが ポケットから きんかを いちまい だすと おじさんは にっかり わらって ぼうしの つばを おしあげた。



◆◆◆



ポケットに プラムを いれて ぼくは さかみちを おりていった。


りょうてにも いっぱい プラム。オーガストと おかしらと ふねのみんなで たべよう。しんこきゅう すると あまくて いいにおいが する。ぼくは ほっぺたが ぽかぽかして すこし はやあしで さかばへ むかった。そのとき。


「!」


ふとい うでが くらがりから にゅっと のびて ぼくの うでを つかんだ。それから つよい ちからで ひっぱられて おおきな てで くちを ふさがれた。ろじうら ひきこまれて ぼくの てから プラムが ぼたぼた こぼれおちた。


「シッ! 声を出すんじゃねぇ」


くびに つめたい かんしょく。

みれば のどもとに あてられていたのは ぎらぎら ひかる ナイフだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る