第2話 おめかしと へんそう

「ったく、いい加減ボタンくらい自分ではめられるようになれよなぁ!」


できるよ。できるけど オーガストみたいに てきぱき できない だけだもん。


「何いっちょまえにふくれてやがるんだよ。ええ?」


いいながら オーガストが ぼくの ほっぺたを つついた。


「そうしてると余計ブサいぜ」


いわれて ぼくは あわてて りょうてで ほっぺたを つつんだ。ブサい? ぼく やっぱり ブサい?


と オーガストは くっくっと わらって それから ぼくの きがえかけの シャツに てを のばした。そうして てばやく ボタンを とめていく。


「いいから早く着替えろ」

「モラ、まだ支度出来てないの? 僕も手伝おうか?」


ジュンが ひょこっと かおを だして こえを かけてくれた。けれど オーガストは ジュンを ひとにらみして するどく いいはなった。


「いい。……俺がやる」


ジュンは いっしゅん びくっとして それから そおっと ドアを しめた。


「よし、完成だ!」


ぽん と かたを たたかれて ぼくは しゃんと せすじを のばした。


しろい おおきなエリのシャツに きんいろのボタンのあかいコート くろいズボン それから かみのけも ととのえて かがみの なかの ぼくは なんだか べつのひとみたい。


「用意は出来たー?」


おかしらに よばれて ぼくは あわてて たちあがった。と オーガストが しあげに ぼくのあたまに おおきな はねかざりのついた くろいぼうしを ぼふっと かぶせた。


「それじゃ行くとしますか、坊ちゃん」


にやりと わらって オーガストは しんぴんの くろいうわぎを ばさり ひるがえしながら おおまたで へやを あとにした。ぼくも そのあとを こばしりで ついていくと あたまのうえ リリに おいぬかされた。



◆◆◆



ぼくと おかしらと オーガストは さんにんで ふねを おりた。


みなとどおりを ならんで あるく。おかしらは カツカツと たかい くつおとを ひびかせながら ぼくに なんども ねんをおした。


「いい? 余計な事は言わなくていいからね。話はあたし達がつけるから、アンタはしおらしくうな垂れてるんだよ」

「うん」

「それから、左手はこすっちゃ駄目よ。薄くなったら困るから」

「うん」


いわれて ぼくは また ひだりてを みた。みかづきの かたちをした くろい もようが かかれている。


クレイに もらった けしょうひんを おかしらが ぬってできた にせものの アザだ。マイクは「いっそ刺青しちまえば?」って いってたけど それは ハッサンに とめられた。 



この しまについて にどめの ゆうひが みなとに おちる。ぼくが まぶしくて めのまえに てをかざしたら オーガストが おやゆびを いっせきの ふねに むけた。


「あの黒薔薇の海賊旗が見えるか? あれはJの船だ」

「じぇい?」

「ああ、誰も奴の本名を知らない。ただ、『J』だ」

「若いけど、相当やり手の海賊よ。ウチの船とも何度かいろいろあったわ」


おかしらも しんけんな めになって そう つけくわえる。


「アイツと俺はどういう訳か縁が切れなくてな……俺の狙った獲物は必ずといっていい程アイツも狙ってる。だが、今回ばかりは譲るわけにいかない」


と オーガストは ぼくをみて ドアをノックするみたいに ぼくの おでこを こつんと たたいた。


「そんな訳だ、よろしく頼むぜ」

「今回はモラにかかってるからね。頑張ってよ!」

「う うん」


どうしよう ちょっと こわい。

でも がんばろう。

ぼく せいいっぱい がんばろう。



いっぱいの ふねを とおりこして いっぱいの おみせを とおりこして おうちや おやしきも とおりこして ぼくらは ずっと あるいた。そうして しばらく さかみちを のぼったところで おかしらが ゆびを さした。


「あそこよ」


そこには おおきな じょうへきが そびえていて そのおくに たかい やねの たてものが みえた。


これ ぜんぶ ひとりの おうちなの!? すごい なんだか のみこまれそう。


どきどき してきて ぼくが てのひらを ぎゅうって したら そのてを おかしらが にぎってくれた。それから もう かたほうの てを オーガストが にぎってくれた。


「おかしら。オーガスト」

「俺達がついてる」


まっすぐ まえを むいたまま たったひとこと。けど それだけで ぼくの むねの どきどきは ちょっと しずかになって かたかた ふるえてた おくばも しずかに なった。


ふたりの てを ぎゅうって にぎりかえす。

こうすると こわいきもち おかしらと はんぶんこ。

それから オーガストと さんぶんこ。


「行くよ」


おかしらに いわれて いっぽ ふみだして。

ついに ぼくらは おおきな もんを くぐりぬけた。

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