第5話 かいぞくの しごと

「降伏か死か、好きな方を選びな!」


おかしらが さけぶと どうじに みんなは いっせいに ドレスや ぼうしを ぬぎすてた。



ジュンとユーリが あいての ふねに いたを わたして その うえを けんをぬいた オーガストと オノをふりあげた マイクが かけのぼった。


ふたりが むこうの ふねに のりこんだ ときには つづいて おかしらと ミストが ロープを つたって むこうの ふねに とつにゅうした。それから コックのテルモや まだ ちいさい ミルまで いたを どかどかわたって いった。


ナナイが しろい みずどりが えがかれた きれいな はたを おろして かわりに まっくろな ドクロとリンゴの はたを たかだかと かかげた。とたんに だれかが「ノースフィールド号だ!」と ふるえた こえで さけんだ。


むこうの ふねの ひとたちは たいがいが ひめいを あげながら にげまどって いたけれど なかには けんを ふりまわして むかってくる おとこのひとも  いた。


けれど オーガストは ひるまずに それどころか にやりと わらって あいての けんを かるく ながした。

それから うでを ねらって いちげき。あいてが うずくまると こんどは ひだりから きりかかった おとこのひとを なぎはらう。すごい。オーガストつよい! かっこいい!


ぼくは ふねの へりから かおだけ だして みんなが たたかうすがたを まばたきするのも わすれて みていた。


マイクが たくましい うでで おのを ふりおろす。やわらかい きんぱつが ながれて それに めを うばわれて いるうちに かんぱんには さんにんもの ひとが たおれて いた。


しんじゃったのかと  おもって ドキッとしたけど よくみたら マイクのオノには ちが ついてなかった。やいばと はんたいの ほうで なぐったみたい。


くるしそうに うめく そのひとの こめかみに おかしらが ピストルを あてがった。


「抵抗するんじゃないよ! 」


ていこう なんて するはずが なかった。


おかしらが めで あいずをすると ジュンが てばやく ロープをとりだして こうさんした ひとたちを しばりあげた。ぼくは ぽかんと くちをあけて その ようすを ずっと みていた。と そのとき。


「モラ!」


するどく よばれて びくりと した。


はんしゃてきに ふりかえって もっと びっくりした。

いつのまに きたのか こわい おとこのひとが けんを かたてに  ぼくに むかって はしってきている!


「オーグ!」


おもわず さけんだのと おなかに ひびく じゅうせいが したのは ほとんど  いっしょだった。


おそるおそる めを あけると おとこのひとは うでから けんを おとして かたを おさえて うずくまる ところだった。むこうの ふねを  みると まだ じゅうこうから けむりの のぼる ピストルを こちらに むけたまま オーガストが ひくく いいはなった。


「ソイツに傷ひとつでもつけてみろ。今度は肩じゃ済まないぜ」


ぼくは おろおろ オーガストと おとこのひとを こうごに みたけど おとこのひとは もう けんを ひろおうとは しなかった。



◆◆◆



のりくみいんも じょうきゃくも ぜんいん しばりおわると おかしらは こしに りょうてをあてて まんぞくそうに うなずいた。


「さて、じゃあいただく物いただいてとっとと引き上げるよ!」

「アイアイ、キャプテン!」


ぜんいんが いっせいに そう こたえた。ぼくも みんなの まねをして あわてて こえを はりあげた。


ユリのもようのふねは ぼくらの ふねより おおきくて りっぱだった。


せんそうには たくさんの つみにがあって ぼくらは それらを あけて かくにんしながら じぶんの ふねに はこんでいった。


どれを もっていって どれを おいていくか しきをとるのは ナナイだった。ナナイは つみに いがいにも ふねの びひんとか ざいもくとかを はこぶように しじをしていた。


にはこびには ちっちゃなミルも くわわって ほぼ ぜんいんが さんかした。はこんで いないのは けがにんの てあてをしている ハッサンと つみにの うえで リンゴをかじっている おかしら だけだった。


「ハッサン ハッサン そのひと なおせる?」


ぼくに きりかかった あの おとこのひとの かたを てあてしながら ハッサンは ぼくに やさしく ほほえんだ。


「大丈夫ですよ、弾はかすっただけですから。さすがはオーガスト、腕がいい」


ぼくが ほっと いきをはくと コツンと だれかに あたまを たたかれた。


「おら、サボってんじゃねぇぞ! 運べ運べ!」


オーガスト!


ぼくが あわてて オーガストの あとに ついていくと オーガストは はやあしで あるきながら うわぎをなげすてて シャツの そでを まくった。ぼくも まねして シャツの そでを まくった。


せんそうに おりていくと にもつを かかえた ジュンと すれちがった。ジュンは ちょっとだけ ふりかえりながら ぼくに こえをかけた。


「あ、モラ! モラはまだ重い物運べないだろうから、ここじゃなくて客室の方にある貴重品類運んでくれる?」


ぼくが こくこく うなずくと ジュンは「インクがあったら持って来て! 僕のインクもうすぐなくなっちゃうんだ!」と いいながら あわただしく かいだんを のぼっていった。




ぼくは ジュンに いわれたとおり ふなぞこじゃなくて きゃくしつに むかった。せまい へやのなかに いちおう ベッドもあって やっぱり ちょっと りっぱだ。


ぼくは ナナイの しじをおもいだすと 「レース」と「宝石」と「甘い物」をさがして にもつを つぎつぎ あけていった。


と へやのおく ガタガタ おとがして ぼくは びくっと かたを すくませた。


だれ? だれかいるの?


「ミル?」


けれど へんじは ない。


ぼくは こわごわ おとのするほうへ すすんで いった。てんじょうから ぶらさげられている なにかが おおきく ゆらゆら ゆれている。


「トリ……?」


トリだ。


おおきくて まっしろな トリが ちいさな カゴのなか きゅうきゅうに おしこめられて ジタバタしていた。


ぼくは あわてて かけよると カゴをあけて トリを だした。 


トリは ぼくの てから とびたつと ひくい てんじょうを それでも とんで ながい しっぽを たなびかせた。それから もういちど ぼくの ところに かえってきて ぼくの かたに バサリと とまった。うわあ おもったより おもたい!


「オウムか?」


きづくと オーガストが きゃくしつの いりぐちに たっていた。


「オウム?」

「その鳥の種類だよ。なんか話し掛けてみな」


ぼくは うなずくと オウムにむかって あいさつをした。


「こんにちは」

「コンニチハ コンニチハ」


しゃべった! 

かわいい! 

かわいい!


ぼくは うれしくなって また はなしかけた。


「きみの なまえは?」

「オナマエ リリ リリ」


リリっていうんだ。かわいい。


「いっぱい話し掛けてやれば、どんどん言葉を覚えるぜ」


ひょいひょいと きれいな ドレスをかかえこみながら オーガストが いった。ことば。ことば。えーと。


「オーガスト すき」


リリが くりんと くびを かしげた。

ぼくは もういちど リリに いった。


「オーガスト すき。だいすき」

「……お前なぁ。他になんかないのか」


リリと ふたり ふりかえると オーガストは ながい くりいろの まえがみを かきあげて ぼくから めをそらして みじかく したうちした。

すこしだけ かおが あかかった。

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