第3話 頑固ドワーフ
空を飛翔しながらナナリは色々な事を教えてくれた。
彼女はフェニックスの体の背中に乗っていながら、さほど恐怖感を抱いていなかった。
それはそれで逞しい事だと感じる。
「この世界は沢山の種族で溢れていますわ、ですが遥か北に行くと、人間の領地がある。そこで魔王軍は一生懸命に侵略戦争をしている。先程言われた勇者などが魔王と戦ったりする。そういう世界なのですわ、ですがあたくし達には関係のない事ですわ、しかしいつかは干渉する必要があるでしょう」
「そうだね、僕は沢山の種族と共存したい。なぜそう思うのか分からない、もしかしたらフェニックスの思考パターンなのかもしれないけど、いつかは人間もここに招き入れたいと思っている」
「その為の前準備は必要かと思われますわ」
「ナナリさんはなんでコボルトなのにそこまで詳しいのですか? それ以前にナナリさんの顔はコボルトとは少し違うようだ」
「そうですわね、あたくしの母親は人間なのです。村長である父はそれを隠していますが、顔の形なのですぐにバレますわ」
「ここだけの話にしておきましょうか」
「そのほうが助かりますわ、さて、到着しましたわ」
「よし着地するか」
その後僕とナナリはドワーフの村の広場に着地した。
沢山のドワーフ達がパニックを引き起こす。
そも前はコボルトの村と同じ光景であったが、2人の男性が立ち上がった。
1人は巨大な斧を握りしめており、1人は巨大な槌を握りしめている。
今から城壁でも崩しに行くのかと思われる重装備でありながら、2人の若者のドワーフ達はこちらを睨みつけている。
「ちょっと待ってくれ、僕は喧嘩を売る為にここに来た訳ではない」
そう言いながら僕は辺りを確認する。
頑丈な柵そのものはドワーフの村を守る為にあるのだろう。
家々は頑丈な作りになっており、コボルトの村のような不完全な作りではなかった。
巨大な鍛冶場があり、沢山の武器やらが貯蔵されているようだ。
全ては強すぎる鑑定結果だ。
建物の中まで見通せるこの鑑定には相変わらず驚きを隠せない。
「なら何用で来たのじゃ」
「答えによっては焼き鳥じゃぞ」
「僕はフェニックスであり、国を作りたい、だから君達の力が必要だ」
「それでわしらになんのメリットがある」
「それは完全なる平和だ」
「どんな世界にも平和はある。だが平和は崩れるものじゃ」
「その通りじゃ、兄者も平和なドワーフの村を作ろうとして何度も近くのモンスターと戦争じゃ」
どうやら2人のドワーフの若者がこの村の村長的な立場のようだ。
2人のドワーフの周りには沢山のドワーフが集まってきている。
コボルトのナナリが手を上げると、2人はようやくコボルトもいる事に気付いた。
「ならこうしませんか、コボルトの村とドワーフの村を合体させ、鉱物をふたつに領域を分けていましたが、1つにするのは? ドワーフの村が発展すれば、コボルトの村も発展する。そのように考えてはどうでしょうか?」
すると頑固爺さんとは言えない若い2人のドワーフ達は歯を食いしばって考えている。
なぜ考えるのに歯を食いしばるのかは謎だが、2人はきっとごくりと生唾を飲み込み。
「じゃが、2つの村を繋げるには、道を作る必要があるのじゃ」
「そうなのじゃ」
「なら地下を作ればいいのでは? 僕の世界には地下街というものがありました」
「地下なのじゃ?」
「それは考えていなかったのじゃ」
2人のドワーフが腕を組みながら盛大に頭を振りだすかのように頷いていた。
「決まりじゃ、ナナリ殿よ御父上によろしく頼むじゃ」
「頼むじゃ」
「はいですわ」
「それと伝説のフェニックスよ、そなたに自己紹介しよう、ラングそれがわしじゃ」
「ジングそれがわしじゃ」
「わしの名前はラングで兄じゃ」
「わしの名前はジングで弟じゃ」
2人はえへんといばりながら、顔は真っ赤に染まっている。別にお酒を飲んでいた訳ではないようだが。それでもどこからどう見ても酔っ払いにしか見えないのは、不思議な事だった。
ドワーフ達はさっそく地下通路こと地下街を作り始める為に動き出した。
きっとこの世界では地下の街とは想像もつかない事であり、僕の発言により想像がついたので実行に移したのだろう。
僕の世界とこの世界のギャップを改善出来たらいいなと、この時の僕は思うようになっていた。
人形に変形すると、ナナリさんと一緒にドワーフ村を観察する事にした。
ドワーフ村はどうやら多量の砂地やら石やらの平地で成り立っているようだ。
何より畑とかは崖下にある訳ではなかった。
ジングさんは地下街の建築に取り掛かる事でいなくなったが、ラングさんは隣にいた。
やはり兄というのは自己責任が強い人が多いのだろうかと思わされた。
「畑はどこにあるのですか?」
「わしらは畑を必要としていないのじゃ」
「それは飯とかはどうするのですか?」
「鉱山から取れる食べられる鉱物と狩でなりなっているのじゃ」
「その食べられる鉱物とは?」
「これはドワーフだけの秘密じゃったが、これからはコボルトとも共存しなくてはいけないのじゃ、その為には心を開こう、それは【エレルダフィッシュ】という鉱物でな、水に当てるだけで、食べる事の出来る鉱物になるんじゃ、栄養価はとてつもなく高くて、口当たりもよくどことなくフルーツに似ているのじゃ」
「今食べる事が出来ますか?」
「もちろんじゃ」
ラングさんは大きながっしりとした小屋から2つの塊を持ってきた。
それはまさに宝石のように綺麗であり、水筒から水を灌ぐと、みるみるうちに柔らかくなっていく。
ラングさんはそれを提供してくれる。
僕とナナリさんはゆっくりとかみしめる。
口の中に広がるどろっとしたぶよぶよ、どことなくグミに似ている。
そこからは味わった事のないフルーツの味が口の中に広がっていく。
気付くと僕は無我夢中で食べていた。
こんなに不思議な味わいを感じた事がない、これは秘匿にすると僕も頷ける話であった。
「狩では、猪やウサギなどのモンスターを倒して調理していおりますのじゃ」
「了解した。では僕はコボルドの村に戻るから、どのくらいで開通できます?」
「2日くらいじゃ。あちらの村長にも事情は説明してくれると助かるのじゃ」
「それはもちろんだ。それにしてもドワーフとは逞しいものだな、たった2日で山と山の間に道を作ってしまうのだから」
「本来ドワーフが優れているのは鉱山ですじゃ」
「それもそうだな、では僕はそろそろ行くよ」
「色々と良い話をありがとうですじゃ」
「それでは」
「ごきげんよう」
ナナリを背中に乗せて、人形から鳥型に変形すると空を飛翔していた。
僕はなぜか怒涛の勢いで国を作ろうとしている。
そんな気がしてきた。
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