Ⅲ-16
ナズカが休もうと言ったのは日付が変わる頃だった。案内されたのは一階の事務室で、書類に埋もれた机が並んでいた。床にも書類の綴じの詰まった箱や鞄が置かれている。
「トイレと洗面台は隣の部屋。寝る場所は椅子でも床でもどこでもいいよ。でも木は動かさないで」
窓際の席や扉付近の狭い通路に細い影があった。背中に冷たいものを刷かれた気がした。
「何か知ってるかい、それ」
「ああ。外にもあった。いくつも――それに展示室にも」
「そうなんだ」
ナズカが言った。
「あっという間だったよ」
近くの比較的整理された席で休むことにした。椅子に手をかけるなり笑いが起きる。
「そこは僕の席だよ。大丈夫、使って」
背もたれに身を沈めて私は息を吐いた。長旅に加え、魔法を使った疲れが思ったよりも出ているようだった。
「外はどんな感じ? 復旧は進んでる?」
ナズカは手を伸ばし、私の目の前からノートを一冊取った。
「そうかもしれない――見た限りは」
瞼の裏に《狩りに向かう貴紳の肖像》の変わり果てた姿が浮かぶ。
「へえ。もう一週間ぐらいになる? 時間が経つほど戻りづらくなったりするのかな」
ナズカの声が遠くなった。相槌を打ったかも分からなくなる。
「一枚でも多く助けたかった」
眠りに落ちる前に、ぽつりとそう聞こえた気がした。
→ 21へ
https://kakuyomu.jp/works/1177354054914833066/episodes/1177354054917644465
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます