第10輪 魔 法 少 女

「ばいばい! キリヤお兄ちゃん、リミアお姉ちゃん!」


 次の日の朝、私たちはライナちゃんと女将さんに挨拶をして、宿を発った。長いようで短いようだった「始まりの村」での生活も終わり、いよいよ本当の冒険が始まる。


「それで、次の目的地はどこだ?」


 森を歩きながら、キリヤが尋ねてくる。


「よくぞ聞いてくれました! 次の目的地はタールズという街よ。王国でも有数の大きな街で、人も物も情報もたくさんある! 何をするにもとにかくここを目指さなきゃ!」


 私はサポート役としての完璧な下調べに我ながら恍惚こうこつとする。


「なるほどな…………ん? 街への道中、ひとつ村があるようだが。しかもそれほど遠くない」


 キリヤは地図を見ながら言う。私は思わず地図をキリヤの手から奪い取る。


「あ、ほんとだ! ちっちゃくて全然気づかなかった…………。『始まりの村』と同じくらいじゃない? 大きさとしては」


「そうだな。せっかくだし寄っていくとしよう。……何か、ありそうな気がするしな」


「? 大したものは無いと思うけど、まあ、ずっと歩くのも疲れるし、途中で休むのもいいかもね」


***


 「始まりの村」を出発して約2時間。私たちは、さきほどキリヤが地図で見つけた村の近くまで歩いてきていた。


「この辺に村があるはずだけど…………あ! あっ……た……?」


 私が見つけた村の入り口は、何やらにぎやかで。


「ていうか、魔物がいっぱいいる!」


「とりあえず行くぞ! リミア!」


「う、うん!」


 小さな村が魔物に襲われて壊滅…………なんてニュースはそこまで珍しくない。あれだけの魔物に襲われたら村はひとたまりもない。助けなくちゃ!


「…………ん? あれ、誰かが魔物と戦ってる! …………しかも一人で!」


 近づていくと、戦っているのが一人の少女だということが分かった。


「すごいな! …………肉弾戦で魔物と渡り合っている」


 少女は魔物と素手で渡り合っていた。だとしたら、たぶんあの少女は武闘家だ。


「でも、魔物の数が多い! このままじゃ……!」


「ああ、加勢するぞ!」


 そう言うとキリヤはチャクラムを投げ、少女と戦っていた魔物を背後から打ち倒す。


「! あなたたちは……?」


 魔物の中を走り抜け少女に並んだ私たちに、少女が問いかける。


「冒険者だ。ちょうどこの村に寄ろうと思って歩いていてな。…………お前は一人でこの村を守っていたのか?」


「うん、そうだよ。……でも、正直このままだと危なかった…………あなたたち、一緒に戦ってくれる?」


「ああ、もちろんだ!」


 武闘家にチャクラム使い、それに僧侶の私がいれば、戦闘の幅がぐっと広がる。きっと残り数体の魔物を倒すのだってそれほど苦労はしないはず…………って、あれ?


「ね、ねえ。あなたが持ってるのって、杖? あなた、武闘家じゃないの?」


 少女は杖を持っていたのだ。でも、これは私のと同じ僧侶の杖じゃない。これは…………。


「ううん、ちがうよ。私は…………。私は、魔法使いだよ」


 魔法使いの杖だ。


「魔物が来た……いくね! はあっ!」


 少女は魔物に突っ込んでいき、素手での戦いを始める。


「せい!」


 キリヤもチャクラムで魔物を迎撃し始める。

 

 それにしても、魔法使いならどうして魔法を使わないの? 広範囲魔法なら対複数でも問題なく戦えるはず。それこそ私たちが助ける必要もないくらいに…………あ、もしかして!


「MPが無いのね! 今回復してあげるわ!」


 私はMP回復のスキルで少女のMPを回復させる。


「MPは回復したわ! 魔法を使って敵を倒して!」


「え? あ……う、うん! 任せて! …………えっと、そっちの男の子は下がって!」


「ああ! 任せたぞ!」


 それにしても、魔法を使わずにあれだけ魔物と渡り合えるなんて……きっと凄腕の魔法使いにちがいない。こんな小さな村でこんな冒険者に出会えるとは…………そうだ! あの子、パーティにスカウトしようかしら!


「来い、魔物!」


 少女に向かって魔物たちが襲い掛かってくる。そして。


「フレア!」


 少女が杖をかざした瞬間、魔物が一瞬にして爆炎に包まれる。


「…………ふう」


 そして煙が晴れると、魔物はすべて地面に倒れていた。


「…………おお! お前、すごいじゃないか! あの数の魔物を一瞬で倒すなんて…………すごい魔法使いだ!」


「えへへ……そうかな。まあ、私は王国最強の魔法使いになるって決めてるからね!」


 たしかに魔物を倒したのはすごいけど、私には今…………。


「今、一瞬…………」


「ん? どうしたの、僧侶の人?」


「え? い、いや、なんでもないわ」


「なあ、お前、この村には詳しいか? よければ案内してくれないか?」


「ん? もちろんいいよ。助けてもらっちゃったしね。それに、ここは私の故郷なんだ。久しぶりに帰ってきたらたまたま魔物が村に入ろうとしてるのを見つけてね…………二人が来てくれてなかったらどうなってたことか」


「そうか、ここはお前の故郷なのか! それは、守れてよかった……!」


「えへへ、良い人だね、キミ。じゃあ、立ち話もなんだし、まずは私の家に来なよ、そっちの青髪の子も!」


「……え? ああ、うん」


「どうしたリミア? さっきから何かおかしいが。あ、もしかして人見知りか?」


「いやいや、私はコミュ力オーバーキルだから。子どもからお年寄りまでマブダチだから!」


「なら問題ないな、いくぞ」


「うんうん、それじゃあ案内するね!」


 私たちは少女の後をついていく。


「…………」


 あの時。この子が魔法を使った時、ポケットから魔物に向かって何かを放り投げたように見えた…………。あれは……見間違え、だったのかな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る