第7輪 戦 輪 投 擲
「………とはいえ、いきなり実戦は厳しいわよね。とりあえず木を標的にしてチャクラムの練習でもしてみたら?」
「ああ。ついにチャクラムをこの手で扱う瞬間が来たか」
いくら異世界人のステータスのポテンシャルが高いからといって、キリヤは戦闘経験のないレベル1の人間だ。いきなり魔物と出くわしても上手くできるとは思えない。その場合、負担がかかるのは回復役の私なわけで………。
「それじゃ、あの木に向かって投げてみて」
チュートリアルによるとチャクラムは投擲武器。投げて相手に当てて、戻ってきたらキャッチしてまた投げる。その繰り返し。
「よし、いくぞ!」
さあ、勇者のポテンシャル、見せてもらおうじゃないの!
「……………」
見せて、もらおうじゃないの!
「……………」
「………あの、キリヤ? どうしたの?」
まったく投げる素振りを見せないので、話しかけてみる。
「……怖くなってきた……」
「…………は?」
「いや、投げたら戻ってくるだろ? キャッチできなかったら、死が待っているわけで……」
え? うそ、何言ってるの?
「いやいや! それをキャッチするのがチャクラム使いでしょ!? あんたチャクラム使いだよね!? チャクラム使いならチャクラム使いこなしなさいよ!」
「確かに……確かに俺は今まで何百、何千時間とチャクラムとともに旅をしチャクラムを極めてきたチャクラム使いだ。だが、こう、実際持って投げてみるとなると……勇気が、な…………」
「はあ!? いつもの変態的なチャクラムへの愛はどこに行ったの!? 返ってきたチャクラムを抱擁して迎えるくらいの勢いでいなさいよ!」
「くっ…………まったくもってリミアの言うとおりだ! チャクラムに自分から当たりにいくくらいの気概でないといけない! そのはずなのに! 生物としての死への根源的な恐怖がチャクラムとの愛を邪魔してくるんだ!」
「バカ! あんたのチャクラムへの愛はその程度か! 愛で恐怖を乗り越えろ! チャクラムを愛せ!」
あれ? なんだろう。今、キリヤがまともで私が変人みたいになってる気がする。…………気のせいだよね?
「リミア…………。そうだ、俺のチャクラムへの愛はこんなものではない! いくぞ!」
「そうだ! いけー!」
「おおおおおおおおおお!」
キリヤの気合とともにブンッ、という音をたてながら放たれたチャクラムは…………標的の木を大きく逸れた。
「は、外した……!」
ショックを受けるキリヤ。いや、それより次は。
「キャッチ、キャッチ!」
木を通り過ぎていったチャクラムは、空中で回転してこちらへ戻ってくる。
「よ、よし来い!」
チャクラムを待ち構えるキリヤ。そして今、チャクラムがキリヤの手に…………!
「やっぱり無理だ! 避けろリミア!」
は収まらず、避けたキリヤを通過して私の方に飛んでくる。
「う、うそでしょ!? ……ひゃあっ!」
私は飛んできたチャクラムを避けようとして後ろに飛びのこうとする……けど、足がもつれてしまい、尻もちをつきながら倒れてしまう。
「…………う、うう……。 !」
目を開くと、私が倒れる前に立っていた地面にチャクラムがざっくり突き刺さっていた。
「リミア! すまない、怪我はないか!?」
「……あ、危ないじゃない! ちゃんとキャッチしてよバカ!」
「あ、ああ。すまない。……くそっ! 情けない。あれだけチャクラムへの愛を表明しておいてまったく満足に扱えないとは…………」
地面に突き刺さったチャクラムを見つめながら、キリヤは歯を食いしばる。
「…………せーの、えいっ! …………ほら」
「…………リミア?」
私はチャクラムを引き抜いて、両手で持ってキリヤに差し出す。
「まだ一回目でしょ。それっぽっちで諦められてたらサポート役の私が困るの。言ったでしょ? ガンガンいくって」
「リミア…………!」
「ほら、さっさと投げて。最低でも今日中に、私一人でも宿に泊まれるくらいには稼いでよね」
「…………ああ。やってやる! ありがとう、リミア」
こうして、勇者キリヤの猛特訓が始まった。
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