第5輪 老 人 店 主

「到……着!」


 私たちは「キメラの羽根」を使って「始まりの村」に飛んできた。


「…………一瞬で景色が変わったが、本当に移動できているのか?」


「そのはずよ。私は前に一度使ったことあるんだけど、その時も一瞬で移動したから」


 周りを見渡すと、古びた民家が数軒と畑が広がっていて、いかにも田舎の村という感じだった。


「まあ、ここが『始まりの村』だろうがどこだろうがどうでもいい! チャクラムを置いている店があるのならな!」


 そう言うとダッシュで店を探しだすキリヤ。


「あ、待ってよ!」


 私もすぐに後を追う。…………でも、こんなさびれた村でマイナー武器のチャクラムを売ってるような店があるのかな……?


「あった! 武器屋だ!」


 そんなことを考えているとすぐにキリヤが店を見つけたようだった。


「ほんと? …………あっ…………」


 キリヤの指さす方を見ると、武器屋があった。…………とても狭くて、品揃えの悪そうな武器屋が。


「いらっしゃい」


 店の中に入ると、一人の老人が奥に座っていた。他に店員らしき人影が見当たらないことからすると、どうやらこの店はこの老人店主一人で切り盛りしているらしい。


「店主! この店にチャクラムは置いているか!?」


 鼻息を荒げて尋ねるキリヤ。…………いやいや、さすがにこんな店にマイナー武器のチャクラムなんて……。


「あるぞい」


「あるの!? チャクラム、あるの!?」


 完全に予想を裏切られて、デジャブを感じるリアクションをとってしまった…………。


「そうか! あるか! あるんだな!? どこにあるんだ!? 一体どこに!?」


「裏にあるからの。今、取ってくるわい」


 キリヤの変態的なテンションを意に介さず、店主は店の奥へと歩いていく。


「ふふふ……聞いたかリミア? ついにチャクラムとのご対面だぞ! 鼻血が出てくるな、おい!」


 キリヤは笑顔で鼻血を垂れ流しながらくるっと私の方を向く。


「いや、私は出ないからね? 鼻血。……あと気持ち悪いからその状態で近づかないでね?」


 そうこうしているうちに店主が店の奥から戻ってくる。店主が手に持っている物。あれが…………。


「待たせたのう。チャクラムじゃ」


 刃が円形に曲げられて、持ち手が付いている。ただそれだけのシンプルな武器。これがチャクラム……。


「…………チャクラム、チャクラムだ! これだよこれ! これを待ってたんだ! 手に取っていいか?」


「ああ。だが、持つときは刃に気をつけるんじゃぞ」


 店主からチャクラムを受け取るキリヤ。その目は血走り、受け取って眺めるなり頬ずりをし出した。二つの意味で危ない。


「はあ、はあ……。ついにこの手にチャクラムが! この形状! このサイズ! この世のいかなる物の追随を許さない、圧倒的な『美』! いや、『美』という概念を超えた存在! やばい、どうにかなってしまいそうだ……!」


「どうにかなってしまえばいいのに…………」


 予想はしてたけど、過去一のやばいテンションを繰り広げる勇者を間近で見て、相対的に心がすん、となっていく。


「あー、おじいさん? これ買います。買い取らせていただきます」


 正常な思考ができなくなっている勇者に代わり、私が店主とやりとりする。そうして、正式にチャクラムが勇者キリヤの装備となった。


「まいどあり。気をつけるんじゃぞ、勇者と補助役の娘よ」


「どうも」


 私は何も耳に入っていないキリヤを引っ張りながら店の外へ出る。この変態的なテンションが落ち着くまでしばらく村を見て回るか……ん?


「……あれ? なんであのおじいさん、私たちが勇者とそのサポート役だって知ってたんだろ? 何も言ってないのに…………」


 ちら、と武器屋の方を振り返る。


「ま、いっか。大方おおかた街で装備を整えるのを忘れた勇者がこの村であの武器屋を訪れることが何度かあったんでしょ。まったく、その勇者のサポート役はとんだおっちょこちょいね……。私とちがって。私とちがって!」


 自分の有能さを噛みしめながら、私はとりあえず宿を探すことにした。

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