第18話 青色の空
クリアの魔法と違って、デリートの魔法に目に見える変化はなかった。そもそもカヅキとユリカが恋人同士だという事実は本人たちが隠しており、コヂカが2人の関係が消滅したことを確かめる術はないのだ。それでもコヂカの心はすっきりとしていた。自分の好きな相手が失恋したような、そんな心地に似ていた。
青空の下で、透明なコヂカとヲネは学校の屋上に寝そべった。一度やってみたかった、アニメやドラマで見る、青春を具現化したようなワンシーンである。
「ヲネちゃんはいつまで私の願いを叶えてくれるの?」
「うーん、コヂカちゃんの心が満たされるまでかな?」
「私の心が満たされるまで?」
「うん、コヂカちゃんずっと悩んでるよね。周りの、同じくらいの年の子たちとの『心のズレ』について」
「……ヲネちゃんには何でもお見通しなんだ」
コヂカは右肩を下にして、身体ごとヲネのほうに寝転んだ。そして小さくため息を吐き出すように言った。
「私の心って何なんだろう。みんなが楽しいと思っていることを私は素直に楽しめないし、逆にみんながつまらないとか、汚いとか思ってるものを私は好きになっちゃう。天邪鬼っていうか、ひねくれ者っていうか。私はそんなつもりないんだけどな」
「じゃあコヂカちゃんが一緒にいて本当に楽しい人だけと、仲良くすればいいんじゃない?」
そう言うとヲネも左肩を下にしてコヂカと向き合った。
「そんな人いないよ。みんなに合わせて生きないと、私はまた一人ぼっちになっちゃう」
「どうしてそう思うの? こんなにもたくさん人間がいるのよ。一人ぐらい息が合う子が見つかるかもしれないじゃない?」
「ううん、いないよ。私だって今までそういう相手をたくさん探してきた。カヅキくんは年下だけど本当に尊敬してるし、カンナやマリと一緒にいると退屈な時間はなくなる。でもみんな私の心を満たしてくれるわけじゃない。複雑に入り組んだ私の、心のパズルピースにかっちりはまる友達はいなかった」
コヂカは両肩を床に付けて空を仰ぎ、続けた。
「そうだ。やっぱり弟がいれば、よかったのかな。年も近いし、血がつながっているから話も合いそう。母さんたちなんて名付けるつもりだったんだろう。一度でいいからその名前、呼んでみたいな」
「ふーん」
ヲネはそう言っただけであとは何も言わなかった。静かに風が廃墟から抜けていく。コヂカは雲の流れをただ目で追っていた。
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