試験への話し合い その3

 次の日。今日を含めて試験まであと2日。話し合いを行えるのもあと2回となる。


 今日の話し合いのメインは、試験に臨むにあたっての対策についてだろう。

 必要なことは俺から村田に伝えてある。あとはその情報をどう活かすのか、そこが肝となるはずだ。


「それではこれから話し合いを始めるわ。全員揃っているかしら?」


 柊のその言葉をきっかけに、一つだけ空いている席へ全員の視線が集まる。


「矢島くんがいないのね…。まぁいいわ、今日は彼抜きでやりましょう。それじゃあ、プレイヤーの人たちは私のところに、他の人たちは村田くんのところへ集まって頂戴」


 どうやらプレイヤーとその他で分けて説明をするらしい。まぁ悪くない手だろう。

 今回の試験はかなりややこしい。きっと、説明をされてもその本質が理解できない者も現れるだろう。


 そうなった場合、クラス全体の意思疎通を図ることは困難となる。

 そうならないためには、あらかじめ開示する情報を必要最低限にする必要がある。

 プレイヤーにはプレイヤーに与えるべき情報を、それ以外の者にはその役割に適した情報を与える。


 とは言っても、今回、両者に開示される情報は共通しているものが多い。その他の者はそれほどだが、大変なのはプレイヤーに選ばれた者達だろう。


 俺はとりあえず席を立ち、柊の元へと歩き出す。途中で村田と目があったが、爽やかな笑みを返された。

 どうやら柊にちゃんと説明をして大まかな方針が決まっているみたいだ。ならもう俺のすることはないだろう。


 そんなふうに思っていると、不意に後ろから声をかけられる。


「やっほー学!」


「ん?ああ、新名か。どうしたんだ?」


「どうしたんだ?じゃないよー。最近全然話してないし…」


 そう言って、新名はその小さな頬をぷくぅーっと膨らませている。新名はそう言っているが、俺の記憶では一昨日に新名と会話をした記憶がある。


「一昨日に話はしているだろう?一昨日は最近に入るんじゃないか?」


 そう事実を伝えたつもりなのだが、そういうことではないらしい。新名はより一層頬を大きくして俺を睨みつけてくる。


「むぅ〜〜。そういうことじゃないんだよなぁー。学とはさ、毎日話したいの!わかる⁉︎」


 いや、全くわからん。そう言おうかと思ったが、そんなに話したいなら電話でもすればいいんじゃないだろうか、とも思ってしまった。


「…なら、話せなかった時は電話でもしてくれればいいんじゃないか?」


 俺は何気なく思ったことを言う。が、新名からすればそれは驚くべきことだったらしい。キョトンとして俺の方を見上げている。


「ほ、ほんとに?い、いいの?」


「ああ」


 俺が迷わずそう答えて連絡先を教えると、新名は嬉しそうに飛び跳ねて喜んでいた。


 とりあえず用が済んだので直ぐに柊の元へ行こう…としたのだが、一つ確認したいことがあることを思い出し、新名へ声をかける。


「なぁ、今回のプレイヤーってどうやって決めたんだ?」


「え?んーっとね、確か、やる気のある人ー?って感じで村田くんが募集してたよ」


「能力とかじゃなくてか?」


「うん、そうみたい。私も立候補したんだけどねー。人脈だと南ちゃんに勝てないし、佐々木さんはすごくやる気あったから譲っちゃったよ」


「そうか、なるほどな。教えてくれてありがとう。それじゃあ行ってくる」


「うん、頑張ってねー」


 そう言われて俺は柊の元へと歩き出す。話し合いに頑張るも何もないと思うんだがな…。







 柊の指示で集まったプレイヤーは、そのまま話し合いの場所を教室から音楽室へと移動をしていた。


 確かにそこなら外に話し声が漏れることもないし、教師に監視をされにくくなるだろう。どうやら俺のアドバイスはちゃんと生かされているらしい。



 過程が評価基準になるからといって、それを教師側に聞かせたり見せたりする必要は全くもってない。

 その過程を見せずに、隠し通す。それもこの試験の過程である。


 第一、今回の試験で教師達に俺たちの情報や作戦を知られることは、絶対にあってはならないことだ。

 理由は簡単。それは「まだ試験がどういうものか確定していないから」である。


 下手な話、もし俺たちの作戦が全て教師側に筒抜けであれば、試験直前でルールの変更が行われる可能性がある。そうなれば予想外の状況に陥り、好成績を収めることは困難になるだろう。


 文句を言おうにも、「そうなることを想定していなかったお前達が悪い」などと言われてしまえばそれまでだ。


 これらはあくまで想定の範疇はんちゅうであるため、絶対に起こりうる訳ではない。

 しかし、今回のこの試験はそれらが最大の肝であることは疑いようもなかった。

 その根拠となるのが、中村先生の「素早い適応能力や状況判断、即興性も評価基準なのでな」という言葉だ。

 今まで考えてきた作戦や戦略を試験直前に潰される。これほど即興性を評価するのに適した状況はないであろう。

 となれば十中八九この予測は当たっているはずだ。



 …と俺が考えを整理している間にも、既に話し合いは進んでいたらしい。柊が俺に声をかけている。


「ちょっと聞いているの?」


「ん?ああ、悪い。もう一度言ってくれるか?」


「まったく、ちゃんとしなさいよ。…リーダーは誰がやるのかって訊いているのよ」


 そんなこと勝手に決めてもらって構わない。…とは言えなそうだな。でも、なぜ俺に訊くのだろうか?


「それ、俺に訊くのは間違っているんじゃないか?俺は助言をするために選ばれたんだろ?」


「だからその助言を訊いているのよ」


「そうだったのか…。とは言っても、俺から提案できることなんてないぞ?ここにいる人とは、関わりがない人もいるからな」


 俺がそう言うと、今度は蒼井が口を開いた。


「柊さんはやらないの?」


「…やらないわ。私としては…桜井くんに頼みたいのだけれど」


 どこか辛そうに、悔しそうに言う柊。その姿に違和感を覚えたのは俺だけなのだろうか。誰も指摘をしないまま、話し合いは続いてしまう。


「それ、私もいいと思います」


 そう言ったのは佐々木優だ。ここぞとばかりに攻めてくる。


 …こいつとは後で話をつける必要がありそうだ。



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話し合いは次回に続きます。



かさた


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