中間テスト1ヶ月前 まであと2日
「ま、詳しいことはそこの桜井にでも聞くんだな。では今日も1日しっかり過ごせよ」
昼休み。中村先生の余計な一言でクラスメイトから質問攻めを受けた俺は、全ての手柄を矢島に押し付けて教室を飛び出した。
「ったく、余計なことすんなよ…」
思わずそう呟く。まったくもっていらない一言だ。絶対にわざとだろう。
しかしまぁ困ったものだ。俺の実力に少しながら気がついている者が出てきている。
矢島叶助、七海咲、石橋愛花、桐崎南、中村紗江。
今回、俺が動かせる手駒として用意したのは咲、愛花、南の3人。咲と愛花の場合は自由に動かせないだろうが、南は確実に操れるだろう。
この間よくわからない試験が幕を閉じたものの、1ヶ月後には中間テストが待っている。
これは先ほどの授業後に知らされたことだ。昼休みに入る前にそう告知された。
もちろんただのテストではない。赤点を取れば退学になってしまう。
そして、それだけではない。この中間テストの最中に、また別の試験が行われるのだ。
今回の試験は他クラスとの直接対決。一般生徒同士での戦いとなるため、俺たちEクラスが戦う相手はDクラスとなる。
ちなみに試験の内容は全く知らされていない。明後日がちょうどテスト1ヶ月前なので、その時に知らされるようだ。
試験内容が知らされるのは明後日となる。したがって、当然ながら試験開始も明後日となるのだ。
しかし中村先生は、あえて今回の試験が他クラスとの戦いであることを早めに教え、その相手がDクラスであることも教えた。
どうやらこの2日間でどう行動に移すか。それが今回の試験を乗り切る鍵になりそうだ。
俺はポケットからスマホを取り出し、メッセージアプリを開く。
数少ない連絡先の中から、スパムメール並みにデコられた名前の連絡先を選ぶと「今日会えるか?」という趣旨のメッセージを飛ばした。
すぐに既読がつき、「何時?」と返信が来たので、「5時、俺の部屋で。少し用がある」と送信してスマホを閉じる。
今後もこんな調子で試験をさせられていくのだろうか。もしそうなら、この先が思いやられそうだ。
放課後になり帰路についている途中、俺のスマホが震えた。送り主を確認すると…愛花からだった
「すみません。何がどうなってああいう結果になったのか、ちゃんと教えてくれませんか?
矢島君が…、とか言って誤魔化したら…。わかってるよねっ!♡」
気のせいだろうか。背中が物凄くヒヤリとしたんだが…。怖ぇな、このメール。何が怖いって、最後のハートだよな。笑顔だけど絶対目は笑ってないだろ…たぶん。
まぁこれはちゃんと説明をする時間を作るしかなさそうだ。いや、今メッセージで済ますか。
5分程かけて、今回の試験で起こした行動やその理由を掻い摘んで打ち込んでいく。
多少事実を改竄し、無事打ち終えると、それを愛花と咲、そして南に送った。
これで他の2人からも聞かれることはないだろう。
時刻は5時になった。すると俺の部屋にベルの音が鳴り響く。初めての来客だ。まさか初めて来る客がクラスの女子になるとは…。思いもしなかったな。
すぐにドアを開けると、そこには俺が呼び出した相手、桐崎南が立っていた。
「ども」
そう言って、どこかソワソワしながら部屋に入る南。俺は南を部屋の真ん中に敷いてある座布団に案内したが、南は俺のベットに腰を下ろした。
まぁ俺としては彼女が過ごしやすいならどこでも良いため、そのまま注意をせずにお茶を入れる。
「てか、なんか殺風景な部屋だね。本当に高校生?」
「高校生は派手なのが普通なのか?」
そう聞き返しつつ、お茶を手渡す。南は感謝を述べてそれを受け取ると、早速本題を切り出した。
「いや、そういうわけじゃないけど…。まぁ良いや。それで、話でもあるわけ?」
「ああ。今回の試験についてだ」
「試験? え、もうやるの? 明後日からじゃん」
なぜ今試験の話をするのか。どうやら南にはその理解が及ばないらしい。俺はとりあえず理由を説明しておく。
「確かに明後日からだ。が、もう既に今から試験は始まっていると思った方が良い。でなければ、わざわざこのタイミングで俺たちに情報を与える意味がない」
「情報って、他クラスと競うこととその相手がDクラスってこと?」
「そうだ。その情報を今日俺たちに伝えたのには必ず理由がある。その理由っていうのが、多分情報収集だ」
なるほどぉと納得がいったような反応をする南。しかし疑問が浮かんだのか、すかさず質問をしてきた。
「情報収集って、Dクラスの情報を集めるってことだよね。でもさ、たった2日だよ?それだけじゃ全部の情報を集めるのなんて無理じゃない? そもそもどんな情報を集めるの? 試験の内容なんてわからないんだし…」
南が指摘することはもっとものことだ。2日は、全ての情報を集めるのには確かに少なすぎる。そして、どういった情報を集めるのか、それが試験の内容次第になることも事実だ。
ただ、俺には大体の目星はついている。
「確かにそうだ。だから調べる情報を一つに絞る。それは、勉強の得意不得意、得意な教科、苦手な教科についてだ。南にはそれらを中心にDクラスを調べて欲しい」
「別に良いけど、どうして勉強なの? もしかして、今回の試験は中間テストと何か関係があるとか?」
「ああ、俺はそう思っている。本来、学生の本分は学業だ。そして、テストはその学業の成績を測る大きな物差しとなる。でもそこにこの学校独自の試験を無理矢理入れてきたのには、何か意味があるはずだ。だから必然的に中間テストが関わってくると考えられる」
「うん…。その考えはわかるんだけど、もし違ったらどうするの?」
「その時はその時だ。今回集めた情報が無駄になるとは限らないしな。情報は多く持っていた方が良いだろ?」
今回はちゃんと納得したくれたのか、南は大きく頷いてくれた。そして、手に持っていたお茶を飲み干すと、ベッドから立ち上がる。
「じゃあ私は、その情報集めをすれば良いってことだね。用件はそれだけ?」
「ああ」
「わかった。また明日学校でね」
そう言うと南は、玄関に向かい靴を履き始めた。俺も見送りをするため、玄関に向かう。すると南が体を俺の方へ向け、目線を外しながらモジモジしだした。
「ま、まぁさ。私が学にいつでも手伝ってあげるって言ったのが悪いのかもしれないんだけど。その、あのメールの送り方だと、少し勘違いするっていうか…なんて言うか…ね?。あ、あのさぁ。学はどうして直接私と会ってこんな話をしたの? メールでも、よかったんでしょ?」
「さぁ、なんでだろうな。強いて言うなら、お前といると落ち着くからじゃないか?」
「ふぇっ⁉︎」
俺の狙い通りに顔が赤くなる南。なんかここまで反応が良いとかなり面白い。でもまぁ、あまりからかいすぎるのはやめた方が良さそうだ。
「…学って、平気でそういうこと言うよね。そう言うの、やめた方が良いと思う」
「わかった。南だけにする」
「っ……。だ、だから! そう言うところだって‼︎ このばか桜井!!」
やべぇからかいすぎたな。
俺がからかいすぎたせいで、南は顔を真っ赤にして風のように姿を消してしまった。
前に南と別れた時も、同じ感じだったなぁ。学はそんな感想を抱いてしまうのだった。
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