桜井学の4週間 その2

 俺はすぐに行動を起こすことはなく、しばらくEクラスの様子を伺っていた。


 せっかく与えられた1ヶ月間だ。この時間をギリギリまで使い、有効に使わせてもらう。万が一早くクリアして新しい試験が出されたら、そちらの対応もしなくてはならないからだ。



 というわけで、俺はクラスの1人1人を観察しつつ、手元にある資料に目を落とす。


 「クラスポイント マイナス一覧例」


 この資料がこの試験で出された最大のヒントだ。ここにはこう書かれている。



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 ここにある行為はあくまで例である。

 それが実際に適応されるとは限らない。全ては学校側や教師の独断と偏見によって判定される。

 しかし、記載されたポイントより多く引かれたり、逆に少なく引かれることは無いものとする。



 1.授業妨害に該当する行為。1回につきマイナス1。

(私語、授業中の携帯の使用、睡眠、立ち歩きなど。教師が妨害だと判断したもののみ適応)


 2.遅刻。1回につきマイナス2。

(教師が遅刻だと判断したもののみ適応。登校はもちろん、授業の遅刻も含まれる)


 3.無断欠席。1回につきマイナス2。

(遅刻と同様)


 4.いじめ。1回につきマイナス5。

(証拠があり、被害者からの報告があった場合に適応される)


 5.異性への性的接触。1回につきマイナス20。

(いじめと同様)


 6.暴力。1回につきマイナス100。また、その生徒を退学処分とする。

(いじめと同様)



 これらはあくまで例である。これら以外にも適応される場合があるため気を付けよ。

 また、4.5.6.については教師、当事者同士での話し合いを行い、処分を決定するものとする。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 


 Eクラスのクラスポイントがマイナス100。最低評価はマイナス120だから、5.6.の例を行えば一発で最低点に届く。

 それでも6.はやめた方が良いだろう。この試験で俺自身が退学になってしまっては意味がない。それに、正直5.も避けたいところではある。後々の処理が大変そうだ。まぁあいつをうまく使えば回避できそうだが、それも一種の賭けになる。


 また1.2.3.の例については、ある程度の協力者が必要だ。しかも、判定が先生や学校側の独断と偏見であるため、確実性に欠けてしまう。


 4.については4人の協力者が必要となるが、証拠と被害者の証言さえあれば適応されるため、実行しやすいだろう。


 現時点で行えそうなのは4.か5.。

 5.に関しては、今すぐに実行できる手立てが俺の頭の中にある。しかし、それでも極力避けたいものであることに変わりはない。

 したがって、これからは4.の例を実行していくための準備をしていかなければならない、か。


 ここまで考え、顔を上げる。

 俺がこのクラスの観察を始めてから4日が経った。明日と明後日は土、日と休みであるため、行動を開始するのは3日後となる。


 既に人選は済んだ。今回だけでなく、次回以降も見越しての人選だ。


 俺は俺が生き残るために使えるものは何でも使う。やれることなら何でもやる。


 ただしそれは目立たない範囲で、だ。

 これからのことを考えると、今目立つのは極力避けたい。目立つことによってもちろん利益もある。が、その分行動が制限されてしまう。


 不確定なことが多すぎるため、これからはいくつものパターンを予測し、行動していかなければならない。

 高校生活ってものは、もっと楽なものだと思っていたのだが…今更悔やんでも仕方がない。変えられるのは未来だけだ。


 今は最善を尽くすしかないだろう。






 そして、それから3日が経ち、俺はついに行動を開始した。


「初めて俺からクラスメイトに声をかけるな…。緊張するぜ!」なんて、そんなくだらないことは決して思っていない。そう、決して…。

 ほ、ほんとだよっ⁉︎




 まず俺が起こした行動。それは七海咲ななみさきへの接触である。

 そう、皆さんご存知の黄土色ショートカットだ。


 彼女に1番初めに接触する理由は、彼女が男女問わず絶大な人気者であるということ。そして、Eクラスの女子のリーダー的存在になりつつあるからだ。


 彼女が手駒にあるかないかでは、戦略の幅が大きく変わる。さらには友好関係が広く、俺の欠点であるコミュニケーション能力の部分を大きくカバーでき、情報も入手できる。


 俺個人の意見から言えば…うん、まぁあまり関わりたくはない。なぜなら、彼女の周りには必ずと言っていいほどあの2人がいるからだ。


 それでも俺は意を決して声をかける。


「七海。少し話をしたいんだが、放課後空いてるか?」


 俺が突然声をかけると、咲は驚きながらも振り向く。そして俺の顔を見てさらに驚いたのか、戸惑いながらも質問に答えてくれた。


「え? えぇーっと…、桜井君、だよね?うんっ!良ーーー」


「ーーーちょっと待ちなよ」


 きっと「良いよ!」と続くであろう言葉を遮った人物。もう誰かはわかっちゃうんだよね!

 この言い方はあれだね、桐崎南きりさきみなみだね! ほら、あれだよ⁉︎ ブロンドポニーテール!


「え⁉︎ ど、どうしたの?南ちゃん…」


 困惑した様子で尋ねる咲。

 うん、そうなるよね。俺もそうなるもん。なんなら縮こまって卵になるまである。いやなったらどうなんだよそれ…。


 咲の質問に対して、南は俺のことを睨みつつ答えた。


「咲がこいつの言うこと聞く必要無いよ。こいつ、入学式の日に私たちのこと助けてくれなかったし」


「そうだよ、咲ちゃん。聞く必要無いですよ」


 そう言いながら現れたのは、石橋愛花いしばしまなかだ。ほら、あの穏やかセミロングの奴。

 微笑んでるように見えるけど、目が全然笑ってない。俺、何も悪いことしてないだろ…。


「あ、あのなぁ。あれは俺が助けに行っても解決したとは到底思えないぞ?」


 たじろぎながらもなんとかそう言い返すと、すぐに南から言葉が返ってくる。なんか壁打ちしてる気分だ。


「それでもさぁ、助けるっていう姿勢を見せるものじゃ無いの? あそこで動いてくれたのあんただけだったし、助けてくれんのかなって勘違いもするでしょ」


 結局お前らの勘違いかよ…。でも、そんなことを言っても何かを言い返されることは明確だ。ここは素直に謝ることにしよう。そして、ついでにこいつらにも手伝ってもらおう。


「その件に関しては、本当に悪かったと思ってる。すまなかった。そのお詫びに、次からはお前たちを守ると誓おう」


 俺が頭を下げながらそう言うと、先程まで勢いのあった2人がキョトンとしてしまった。

 数秒間が経過して我に帰ったのか、愛花が不思議そうに聞いてくる。


「守るって…何からでしょうか?」


「そりゃあ、お前たちが退学の危機になった時とかな。俺にできることとかあるかもしれないし」


「退学って…今の状況じゃん…」


 俺の言葉を聞いて、南がぼそっと呟いた。

 うん、待ってたよその言葉。俺はこの言葉を引き出すために謝ったのだ。

 自分が話題にした話なら、俺がこれからする話を無視することなどできまい。


 あぁなるほどなぁ。会話って相手の思考を操作しながら、うまく主導権を握っていくものなんだね! やっとわかったよ……いやちげぇなぁ。そんなことしてたら友達できねぇよ。


 しかし、この機会を無駄にすることなどできない。俺はすかさず口を動かした。


「まぁそうだな。けどな、結果的に俺がしたかった話がお前たちを守ることに繋がるかもしれない」


 俺がそう言葉を発すると、ずっと黙っていた咲が目を輝かせながら俺の手を握った。


 や、やめて! そんな簡単に俺の手を握らないで! そういう軽率な行動がですね、世の中の男子を狂わせ悩ませるのですよ。

 まぁ俺にそんな経験ないんだけどね。

 もはや俺の癖なのだろうが、そんなくだらないことを考えていると、俺の手を握っている咲がさらに目を輝かせていた。


「ほ、本当に⁉︎ な、何っ⁉︎ どんなはなしっ⁉︎」


 そう言いつつ顔を近づけてくる。あなた、パーソナルスペースという存在を知らないんですかね…。まぁこの際そんなことどうでも良いか。


「正直ここでは話しづらい。あまり目立ちたくないしな。だから放課後に近くのファミレスに集合、それでいいか?」


「うんっ! 良いよ!」


 そう言うと、咲は俺から離れて100点満点の笑顔を見せる。うん、人気なのも頷けるな。容姿もさることながら、圧倒的なコミュ力の高さも兼ね備えている。

 多分、人との距離を一気に詰めるのが得意なのだろう。現実的な距離ではなく、心の距離の話だ。


「俺としてはそっちの2人にもこの話し合いに参加して欲しいんだが、駄目か?」


 そう言いつつ南と愛花の方を見る。人手を増やすチャンスだ。逃したくはない。

 しかし、どうやら2人とも悩んでいるようだ。少し戸惑いながらも愛花が質問してくる。


「本当に、私たちのことを守れるのですか?」


「一応、それなりの策を用意している。2つほど策があるが、1つは人手がないと実行できないし、もう1つの方は…最終手段として取っておきたい」


 俺がそう言うと、俺の真剣さが伝わったのか、2人の顔に決意が宿った。


「…わかりました。入学式の件は別にあなたが悪いわけじゃないですし…。こちらにも非があります。すみませんでした」


「ま、まぁそうだね。私たちも勘違いして悪かったと思ってる。…ごめん」


 そう言って謝ると、2人は俺に対して初めて笑顔を向けてきた。


「それじゃあ、私も参加させていただきますっ」


「わ、私も話だけは聞いてやる」



 こうして俺は、退学阻止に向けて一歩前進したのであった。




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 あとがき


 あとがき失礼させていただきます。高校2年生(現時点)のかさたです。本名じゃないですよ!


 さてさて、この話、かなり時間軸が前後しており、少々わかりにくくなっているかもしれません。


 それでも、そうしているのには一応理由があります。


 この話は、課せられる課題に対して、主人公がどう動き、何をしたのか。そこが1番の魅力になると考えています。


 色々考えた末に、


「課題の結果を見せてから、そこに行き着くまでの過程を見せた方がこの魅力が伝わるのでは?」


 と思い、このような形を取らせていただきました。



 またこの話では、登場してくるキャラクターを1人1人大切にしていきたいと思っています。



 「このようなキャラクターがいたら」や「こういう展開があれば」など良い提案があればぜひぜひ教えてください‼︎



 読者の皆さんとともに、この作品を良いものに仕上げていけたらと思います。


 長くなりましたが、あとがきは以上となります。



 これからもよろしくお願いします‼︎



 かさた

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