第11話揺らぐ会社
五月十九日、寛太郎はリモートで昨日の事を、池上に報告していた。
「まさかあんなことするなんて・・・、正直ショックなんだけど、これでDNAにかなりのダメージを与えられた。」
〈寛太郎さんの言う通りですが、最後にとっておきのをDNAのコンピューターにぶちまけるつもりです。〉
「えっ!!まだ何かするの!!」
〈実は僕が父に隠れてあるものを作っていました、これなら最後の大一番はいけますよ。〉
堂々と自身を込めて言う池上、寛太郎は大人でありながら頼もしく見えた。
「いやあ・・・池上君は『人じゃないんじゃないか?』と思う程凄いよ。そのコンピューターのスキルはやっぱりアメリカ仕込みですか?」
〈うん、父に紹介されたパソコンの先生がかなりの専門家で、パソコンの表と裏のいろはを全て教えてくれたんだ。〉
「でも君は父が許せないんだよね。」
〈はい・・・、自分の都合ばかりで僕や母さんにも振り向かない態度です。何のために家庭を作って、僕を生ませたのか父に問い詰めたいです。〉
池上の言葉の一つ一つから、理不尽による憎悪が込められていた。
「ふう・・・、何だか君を見ていると僕も自分の親を思い出すよ。世間じゃ『親子仲良しが当然』という風潮があるけど、結局親と子は別人でいつまでも仲良しというわけじゃないのにな・・・。」
〈確かにそうです、それを言う連中は他人に指摘する前に、自分の両親に感謝するべきじゃないのでしょうか?〉
「ああ、話しがそれてしまったね。君はアメリカで、パソコンについて学んだよね。」
〈はい、日本に帰国してそれからは、父に毎日午後五時から八時まで、更に十時から十一時までパソコンの勉強をしています。〉
子供に午後十一時まで夜更かしさせる親ってどうなんだと、寛太郎は感じた。
同じ日のインターネット・D・Tでは、社長にして池上神の父・池上御守がイラつきながら、社長室の椅子に座っていた。
「この前の個人情報流出事件についで、イラストの流出についで、ガチャのトラブル・・・。我が社のセキュリティーをかいくぐって、こんなイタズラをするとは・・、一体犯人はどんな奴なんだ・・・?」
すると秘書の日名子が入室してきた、日名子によると警察が事情聴取に来たという。御守は通せと秘書に伝え、そして秘書と一緒に古井と柳崎が社長室に入ってきた。
「初めまして、警視庁捜査一課の古井です。」
「同じく池袋所轄の柳崎です。」
「インターネット・D・Tの社長、池上御守です。」
御守は古井と柳崎をソファーに座らせた、御守がソファーに座ると話が始まった。
「株式会社DNAのインターネットセキュリティーにお宅が携わっているそうですね?」
「はい、我が社では企業のセキュリティーを守る業務をしています。」
「我々はこれまでのDNAのインターネットトラブルの犯人について、この会社の元社員の可能性を考えています。お宅で何かトラブルはありませんでしたか?」
「はっきり申し上げます、そのようなことはございません。我が社から退職した人は何人もいますが、全て正当な理由です。」
「なるほど、ではあなた自身が誰かに恨まれている心辺りはありますか?」
「全くありません。」
「ではDNAのセキュリティーを担当しているのは誰ですか?」
「蓑宮昭です。」
「彼から話を聞いてもいいですか?」
「ええ、何ならここへ呼び出しましょうか?」
「はい、ではお願いします。」
御守は秘書に命じて蓑宮を呼び出してもらった、二分後に蓑宮は秘書に連れられ社長室に来た。
「蓑宮君、警察の方が君と話がしたいそうだ。」
「分かりました。」
蓑宮がソファーに座った。
「捜査一課の古井と池袋所轄の柳崎です、あなたが蓑宮昭さんですね?」
蓑宮は頷いた。
「あなたはDNAのセキュリティーを担当していると伺いました、個人情報流出事件で初めてハッキングされた時の事を話してください。」
「はい、あの時DNAから呼び出しを受けて駆け付けました。やり口を見る限り、ハッカーの中でもかなりの腕前に間違いありません。」
「では、イラスト流出事件について尋ねます。ソフトウェアの使用履歴を調べた結果、ハッキングされた時刻が五月十三日午後十時十五分という事が分かりました。その時、あなたはパソコンを起動させていましたか?」
「その時は自宅に居ました。パソコンは、趣味の動画を見るために起動させていました。」
「アリバイを証明することは出来ますか?」
「うーん、僕は一人暮らしですが、ソフトウェアの使用履歴を見せてもいいですよ。」
それから四十分後まで、古井と柳崎の捜査は続いた。
同じ日の株式会社DNA、松原が出社すると他の社員の冷たい視線が松原の心に突き刺さった。
「はあ・・・ハッキング事件が相次いでからこうなんだよな・・・・。何でこんな噂で、人はああなってしまうんだろうな・・・。」
松原はそんな人の愚かさに嫌気がさした、松原が部署に入ると矢島の姿が無いことに気が付いた。彼女は松原よりも早く出社しているはずだ。松原は高守に尋ねた。
「高守さん、矢島さんは今日休んでる?」
「ああ、松原さんは昨日休みでしたからね。矢島さん、ノイローゼになってしまったみたいです。」
「ノイローゼ!!どうして・・・・。」
「まあ、原因はこの環境ですね。僕らの誰かが何か悪いことをしたわけじゃないのに、僕らは『会社に泥を塗った奴ら。』というレッテルを貼られていますから。」
高守は現実を受け入れているようで、淡々と言った。松原が仕事を続けていると、大門に肩を叩かれた。
「松原君、ちょっといいかい?」
「はい、何でしょう?」
「実は我が社のスマホゲームの収益が、非常に激減しているんだ。その原因は、大逆転オセロシアムのアクシデントによるものだ。」
それは当然の事だ、更に「お詫びイベントのガチャが発表されたものと違う。」という事件のせいで、大逆転オセロシアムの信用は急降下。インターネットでの評価も最低を極め、インストール数もものの二週間で五割も減少した。スマホゲームの運営は課金者が支払う金が全てなので、これは痛恨と言える痛手である。
「更に大逆転オセロシアム以外のスマホゲームのインストール数も、相乗効果で減少している。本当に災難な事だ・・・。」
「その通りです・・・。」
松原はこれが現実だと言わんばかりに項垂れた。
「そこで大逆転オセロシアムのサービスを終了しようという案が出たんだ。」
松原は強いショックを受けた。大逆転オセロシアムは自分が一番思い入れしているスマホゲームだ、企画と運営に誰よりも携わってきた故に私心がとても痛む一言だった。
「そんな・・・大逆転オセロシアムを終了させる・・・。」
「ああ、そうすればあのハッカーから狙われなくなる。」
「僕は嫌です!!これから人気ゲームの軌道に乗ったゲームを、無くしたくないです!!」
「甘ったれたことを言うな!!」
自分の気持ちを伝えた松原は、大門に怒鳴られた。
「いいか?大逆転オセロシアムは社会的レッテルを張られたんだ、これから誹謗中傷が嵐のようにやってくる。それを防ぐにはレッテルを抹殺することだ!!それが遅れたら、取り返しがつかないことになるぞ!!」
大門は荒くため息をつくとその場を去った。松原は悔しさを抑え込むのに時間を要した。
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