アプリケーション・ウイルス
読天文之
第1話募る不満が殺意に変わる
「あー、くそっ!!今日も負けた!!あと一勝すればダイヤモンドクラスだったのに・・・。」
三月三十日、名古屋市昭和区三丁目のマンションの一室に住んでいる天山寛太郎が、ベッドの上で拳を突きながら叫んだ。何故寛太郎がこうなのかと言うと、寛太郎がしているスマホゲーム「大逆転オセロシアム」のシーズンマッチで負けたからである。ちなみにシーズンマッチは月末に結果を集計するので、やることが出来ないのである。
「あーあ、俺もとうとう降格か・・・・。ちくしょう、今までこういうの無かったのに・・・。」
悔しさを噛みしめていくうちに、寛太郎の心から不満が沸き上がった。
「そもそも最初は新鮮で楽しかったのに、やり込んでいくうちに不満を感じるんだよな・・・。第一通信が切断された場合に、AIが代打ちするというのがマジであり得ないんだよな・・・。」
事実、寛太郎は勝てると思った通信対戦で通信切断に遭い、AIが代打ちした結果負けたというのを何度も経験している。勿論勝ったこともあるが、それは奇跡の確率でのことだった。
「インターネット上とはいえ人同士の勝負なんだから、AIが割り込んでくるなっつーの・・・。」
そして寛太郎はそのままベッドの上で仰向けになり、無気力のままボーっとしていたが、あることを思い出しベッドから起き上がった。
「そうだ今日は藤野と、坂大のリモートバースデイパーティーだった。」
藤野は寛太郎の親友で二人は、今日誕生日を迎える坂大のためにパーティーを開く予定だったが、新型コロナウイルスによる外出自粛のため、急遽リモートでやることになった。パソコンを起動し、藤野に回線を繋ぐ。
「藤野、準備できたか?」
『もちろん、OKだよ。」
寛太郎は机の引き出しからクラッカーを出して身構えた、バンダイが出た瞬間にクラッカーを鳴らす作戦だ。
『じゃあ、今から坂大を呼ぶね。』
藤野が言ってから三分後に、坂大がリモートに出た。そして寛太郎と藤野は、クラッカーを鳴らした。
〔うわあ!!な・なんだ!?〕
画面の向こうで、坂大は腰を抜かした。
「坂大、誕生日おめでとう!!」
『坂大、誕生日おめでとう!!』
〔えっ・・・誕生日祝ってくれるの!!・・・・凄く嬉しいんだけど・・。〕
「坂大、今年はお前の家に行けなくてごめんな。」
『プレゼント、渡したかったなあ・・・。』
〔いいよ、新型コロナウイルスが流行っているんだから。それより今日は、リモート飲み会をしよう!!〕
『いいなそれ!じゃあ用意してくるから、一旦失礼します。』
「僕も失礼します。」
そして三十分後、寛太郎はビールとレトルトのカレーライスを用意してパソコンの画面に戻ってきた。リモートをつけ、藤野と坂大で乾杯をする。
『ていうか、寛太郎のビールのお供がカレーライスって・・・笑えねえ・・。』
〔僕も同感です。〕
「何かごめん、ていうか藤野の奴、パエリア作ったの!?」
『違うよ、デリバリーしたんだ。』
「最近はそんなのもあるんだ・・・。」
〔ちなみに僕の定食は、手作りです。〕
「うわあ、豚の生姜焼きに白和えもあるよ。さすがは料理人!!作るの大変だったでしょ?」
〔いいえ、朝と昼の残りを温めただけです。〕
『残りものかい!(笑)』
「それにしても、まさかこの時期にウイルスが流行するとはなあ・・。」
『そうそう、四月から非常事態宣言が発令されるそうじゃないか。これからオリンピックだっていうのに・・・。』
〔非常事態宣言がでたら仕事休めるかな?〕
「休めると思うよ、まあ僕はユウーチューバーの仕事が続くけどね。」
『そういえば、お前のチャンネル。最近登録者数が伸びてないじゃないか。』
「でもこれから、ゲームのイベントがたくさん来るし、新しいゲームも開拓するつもりだよ!」
こうして三人は、他愛ない雑談で盛り上がっていた。
四月一日・エイプリルフール、遂に大逆転オセロシアムを始めてから初めてクラスが下がったという現実を受け入れた、毎日十回まで引けるガチャのクラスも下がった。
「あーあ、やっぱりこうなったか・・・。しかも今月のアウトドア全部パーだよ・・・、今月は気が滅入るなあ。」
寛太郎はユウーチューバーとバイトで生計を立てている、YouTubeで上げる動画の内容はゲーム実況とアウトドア企画。アウトドアに関して、今月は他のユウーチューバーと飛騨山脈遠征のコラボ企画があったのだが、四月七日の非常事態宣言発令により中止になってしまった。
「年初めに予告して、視聴者から楽しみだというコメント来ていたのに・・・。」
今日はそのことについての動画を上げる予定だ。動画再生機能を起動し、カメラに向けて話す。
「みなさん、おはよう・こんにちは・こんばんわ、寛チャンネルです。今日はエイプリルフールだけど、嘘じゃない残念なお知らせがあります・・・。」
そして動画を投稿し終えると、バイトに出かけた。
四月三日、朝食を終えた寛太郎は「大逆転オセロシアムガチャチャレンジ」という動画を上げた、ちなみに寛太郎は課金者であり、ガチャを引くのに必要な星のかけらも購入済みである。
「みなさん、寛チャンネルへようこそ!!さあ今回は、大逆転オセロシアムのレア駒パレードガチャを引きたいと思います。今月のアウトドア企画が無くなっちゃって、凄く悲しいからいいのが欲しいです。」
しかし結果は惨敗と言える程、酷いものだった。投稿を終えバイトに向かおうとした時、スマホが鳴った。
「もしもし?」
「天山君、今日バイトだよね?」
電話の声はバイト先のコンビニの店長だった。
「はい、今から向かうところです。」
「そうか、実は来週のシフトについて言わなきゃいけないことがあるんだ。」
「そうですか、かしこまりました。」
「じゃあ、気をつけてきてね。」
通話が切れると、スマホをカバンに閉まってバイトに出かけた。
四月五日・午前八時に寛太郎は大逆転オセロシアムのシーズンマッチをやることが、始めてからのルーティンになっている。
「さあ、勝つぞ・・・。」
寛太郎は神駒のデッキ、対する相手も同じデッキである。互いに考えながら駒を置いていく、優勢は寛太郎の方にあった。
「よし、この調子ならいける・・・いけるぞ・・・!!」
だがここでまさかの通信切断が起きてしまった・・・、寛太郎は五秒間の沈黙の後、発狂した。
「うわああああああああーーーーーーーーっ!!さーいーあーくだーーーーーーっ!!」
近所迷惑になりかねない声を出し、挙句にはスマホをベッドに投げた。そしてふと冷静になり、ほんの少し前の自分が嫌になる。
「はあーーー・・・こりゃ今日も敗北確定だな・・・。」
ちなみにAIが代打ちしている間は通信対戦は出来ない。
「どうせ負けるんだから・・・ていうかどうしてAIが勝負すると、大抵負けるんだ?もしかして、AIの代打ちは嘘で本当は試合放棄で両者を敗北扱いしているのか?」
沸き上がる疑念が心の中で不満と交わり、殺意になった。
「このゲーム、運営がクソだな・・・・。」
そして殺意を秘めたまま見た試合結果は、案の定敗北になっていた。
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