第10話 私達は補習中である
今日は夏休み登校。
でも、登校といっても全校生徒が来ているわけではない。
日頃の学力を試すために、とある抜き打ちテストでオール教科赤点を取ってしまった負け犬たちの末路がこれ……。
そう、今日は私たち四人は夏休みの補習授業を受ける日である。
まあ、私は数学だけだけど……。
「
「
「じゃあさ、英子はサンドイッチの図形のダイヤ、コサエテ、三重ボルトの計算できるの?」
はて、美伊南ちゃんは何を言ってるのかな?
多分、三角比の計算と思うけど、正式名称はサイン、コサイン、タンジェントでは?
「……美伊南、その程度の計算も出来ないと、世の中渡っていけないぜ」
そういう
イケメンなのに、天は二物を与えないときたものだ。
「そうそうその渡り鳥、コケコー♪」
「
「クックドゥードゥルドゥー♪」
いや、英語の発音で答えてもらっても困るよ。
本当、蛭矢君も無駄な知識が多いんだから。
「……しかし、腹へったな。何か買って食べたいけど、僕お金ないんだよな」
「美伊南も朝ご飯食べてないからお腹ペコペコ……ねっ、英子?」
「えっ、私? う、うん……?」
私もバタバタして食べなかったけど、三人して食べていないとか単なる偶然かな?
やがて、私を除いた二人組が大瀬王子さまの前に
「……な、何だよ? お前たち揃いも揃って?」
「大瀬殿、ワシらに食料を恵んでくだされ……」
「ねえ、美伊南たち、もう三日三晩何も食べてないの……」
私には二人が猫のように目を光らせながら、何かを
美伊南ちゃんたちは親がお金持ち財閥の一人息子でもある大瀬君をたかって、自分らのお金がないことをいいことにタダ食いをするつもりだ。
……大瀬君、お願いだからそんな汚い手に引っ掛からないでよ。
──私は、その飢えたゾンビ二人から離れて、
触らぬゾンビに
大瀬君、頑張って生き残って!
「ガアー。食わせろー、」
「ぐわー。食わして、くれくれ♪」
「──そうか、お前ら、そうまでして苦しい目にあって……今まで
「クーン、クーン……」
瞳にうるうると涙を溜めた大瀬君が、一枚の万札を犬っころに渡している。
ああ、大瀬君、情に流されすぎだよ!
すると、蛭矢君が鬼のような形相で私の方にブンと振り向く。
「……もし、ばらしたら分かってるんだろーな……」
出たよ、二重人格蛭矢君のもう一つの恐ろしい性格。
声は小さいが明らかに
毎度ながらその変わりようにびっくりするよね……。
****
「──へへっ、チョロいもんだぜ♪」
蛭矢君と美伊南ちゃんがバシッとハイタッチをする。
「大瀬、ありがとね。
──ねっ、英子。後から何かアクセとか買いに行こうよ♪」
いや、美伊南ちゃん、ご飯食べるんじゃなかったの?
「──お前ら」
そんな蛭矢君が笑いながらヒラヒラとお札を見せびらかす中、一つのしわがれた指先がそのお札をつまみ上げる。
そこには老体な体つきの、数学の
「これは大瀬のお金だ。きちんと本人に返せ」
「あう、クーン、クーン……?」
「今さら小動物に
「くそ、この頑固教師め……いでで!」
比木割教師が一本釣りのように蛭矢君の耳をグイグイとつまみ上げる。
「おい、蛭矢。ワシが言ったことが聞こえとんのか?」
「いだだ、す、す、すんまそん!」
耳を真っ赤に腫らした蛭矢君が大瀬君にお金を返す。
「──いいよ、気にするなよ」
大瀬君はにこやかに笑っていた。
「大瀬も甘いんじゃ。本当にお金に困っていれば真面目に勉強し、補習なんかに来ないでバイトしてるじゃろ」
「しかし、比木割教師。世の中困った人がいれば手を差し伸べて助けろと……」
「……なら、お主は将来無償で働くボランティアの職にでも就くつもりか?
……違うじゃろ、大手財閥を継ぐものよ」
「はい。そうですね。まさにありがたきお言葉。どうもありがとうございます」
うるうる。
何か、素敵な話だな。
「すげえな。やっぱり後継者は考えることが違うな」
「ならさ、早く勇者になって魔王比木割も仲間に入れたらいいじゃん♪」
……はあ、この二人は本当ダメダメだわ。
こんな調子で四人とも補習受かるかな……。
第10話、おしまい。
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