第15話 敵を愛せ……

 倒した敵の武器・防具を漁る……

 片手剣、革鎧、鎧の胸元に3本のナイフ、ブーツ左右に更にナイフ、腰ベルトに暗器(T字型の武器、我等の呼び名では『丁字寸鉄』) 武器は以上。


 これらが彼等の標準装備だろう……

 俺は敵の装備から寸鉄を奪う……

 寸鉄には色々な形が在るが、基本は拳の中に握り込み、飛び出した先端が相手を殺傷する武器だ……

 武器の大半が拳の中に埋もれる為に非常に目視し難い暗器だ……まぁ、暗器なんだから当然か。


 ……そして敵の首から掛けた魔法金属が鈍く光っているのを見付ける……通信用か……声を拾う為の魔法金属が付いている……奪うか……放置か……しばし考え魔法金属を掴んで町の外壁面を走り、俺がナイフを避けた場所まで戻る……魔法金属を路地裏の建物の窓から投げ入れる。

 そして速やかにそこから離れた……持っていても仕方無い……通信で会話出来ず……また魔法の種類によっては下手をすれば俺の位置情報が相手に伝わる。

 何れにせよ、敵のリーダーから定時連絡が来た段階で、俺が殺した事がバレる。

 それは、俺を殺しに追加の敵が来る可能性があるという事……ならば俺は急がなくては、バレれば追撃を覚悟せねば成らぬ、折角俺が後方から仕掛けようとする暗殺が意味を成さなくなる。

 俺は敵軍の後を追うため小走り。

 耳を澄ます。

 動体の気配はない。

 既に正門から侵入した敵は、先程俺が殺した敵を除き、全て港や他の剣匠の班を抹殺すべく動いている様だ。


 敵は俺を始末したものとして、他の班の殲滅と港の占拠を行いに町の中央に向かっている筈……


 町の地図を思い出す……

 そして相手の行動を想像する……想定する……

          

         出入口

 城壁ーーーーーーー□ーーーーーーーーーーー

|      ロイズ・ライ         |

|  ナイフ     繁華街        |

|        |  |           |

|  敵死体   |  |          |

|  ーーーーーー|俺 |ーーーーーーーーー  |

 正門 メイン通り   メイン通り 敵本隊 |

 正門     メイン通り   メイン通り  |

|  ーーーーーー|  |ーーーーーーーー|    |

|        |  |        |    |

|        |  |        |   |

|    官庁街 |  |      管理    |

|                事務所   |

 ーーーーーーーーーー□出入口ー港港港港港港

 崖 崖 崖 崖 海岸 海岸 海岸 海岸


【道は大きい道のみ記載、横路・路地は未記載】


 多分……

 敵は二方向に別れる……

 少数と多数……

 少数は官庁街……

 多数は港……

 メイン通り街の外壁に当たるまで進む……

 そして、右に曲がれば港だ……


 俺の想像の中で敵軍は動く……


 だが、ならばメイン通りの班レオン・オズはどうなった??戦闘音は聴こえなかった……それでも戦闘が終わっているなら、おそらく殺されている……

 相手は暗殺部隊なのだから……

 しかしレオン・オズの 二人……中年の剣匠だった……メイン通りを任されている彼等は、暗殺にも集団戦にも明るかった筈、峡谷の戦闘を見てもヴィンスに比肩する実力の持ち主達だった。

 だから俺は死んでいないと判断する。

 遠方からの戦闘のみで暗殺されたのなら、無音での暗殺とも考えられるが、彼等の実力でそれはない……

 少なくとも数名を巻き添えにして死ぬか、剣での戦闘に持ち込む筈だ……なら、剣戟音……足音……する筈……これ程無音の筈がない。


 ……おそらく二人は、正門と港からの挟撃ちを考えて重要拠点である港管理事務所へ立て籠りを考えたのか……

 或いは、ヴィンスから連絡を受けて……メイン通りの守備を諦めたのか……まぁ、何にせよ……敵がスムーズに進行し過ぎている……戦闘していない証拠だろう。


 ④ケビン・ラース班 ◆第4エリア(官庁舎周辺)

 ⑤コナー・キーロイ班 ◆第5エリア(港周辺)

 ⑥カシム・アイン・フィリ・シュレーン班 ◆港管理事務所


 どこに応援に行くか……決断は即。

 ④は捨てる……多分ヴィンスが港に行く途中に連絡している筈……それに、我等が守るべき物は港であり、ケビン・ラースではない……

 彼等も40歳を越えた古参の剣匠だった……生半可な敵では彼等を殺せない。


 幅5m程度のメイン通りを軒先や建物の影に隠れて進む……今、俺に追撃を掛ける気配はない。


 月夜だが……そこそこ高い建築物のお陰で、影に隠れるには最適……それは敵も同じ。


 だが、大人数な敵軍はどうしても索敵が容易。

 単独で動く俺とは比較にならない。


 メイン通りと交差する四辻に到達する。

 そして四辻の向こう側、正面に敵軍の殿を見つけた。

 アイツだ……俺を屋根から見下ろした奴……


 ……殿を務めているなら、敵の隊内でそこそこの実力者だろう……床屋の看板に隠れて観る。


 そして右側の官庁街に向かう道に数名の敵軍をみる……敵の後ろ姿が観える……

 ケビン・ラースを葬る為の人員か……

 しかし逆に葬られるだろう……

 路地裏にケビン・ラースが待ち受けている……二人は敵を既に捕捉していた……ケビンは敵本隊との距離を計り、ラースは裏路地に何やら細工をしている……逆に敵は二人を索敵出来ていない。

 ……ケビン・ラースは敵を監視し続け、殺さない。

 今殺せば、音が敵本隊まで聞こえる可能性が有る……本隊が離れるのを待つ。

 海岸に近い為、波音も鳴り……暗殺には好都合……

 結果の観えた二人の監視を止める。


 俺は本隊に近づく……注意深く……港までショートカット出来る脇道に入る……


『……!!……』


 脇道に隠れて進む俺に、敵が2名物陰に隠れてながらこっちへやって来る。


『もうバレた……早い……』俺は樽の後ろに隠れる……確実に仕留めに来ている、2名体制なのがその理由……前衛が索敵をしながら前進し、後衛が前衛の索敵の補完及び側方や後方を警戒しているのが判る。


 このまま、進めば数分で俺が隠れた樽の前まで来るだろう。


 ……後衛から殺す。


 俺は腰から、薄汚いマントを引き出す。

 頭から被る、右手に寸鉄を握り込んだ上から小刀を握る……左手は空けておく。

 樽に隠れながら四つん這いで後退り、細い路地に入る。建物に隠れて立ち上がる、路地を奥へ進み、直ぐに右折、そして建物が途切れ、先程の繁華街を左手に見る通りに面する、右側のメイン通りを確認して直ぐに路地に隠れる……



 ……『!!!』……


『おい、おい、聞いてないぞ、何故お前まで来る……』


 ……視線の先に先程の殿が歩いている、敵が3人に成った……クソッタレ……管理事務所に到達するのが遅れるじゃないか……


『無駄な事考えずに、殿の役目を果たしとけ』俺は心で毒付く。


 ……考える事が増えた……


 前述の二名に比べコイツは手強い、1対1なら負ける事は無いだろうが……めんどくさいな……と思っていると……月明かりに照らされて、屋根の上の際には見えなかった殿の全貌が見える……

 褐色、

 豹の様な身体、

 長身、

 自分の技量に自信がある……

 そんなふてぶてしい歩き方……


 ……才能に恵まれていたのだろう……

 ……負けずに生きてきたのだろう……

 ……皆より少ない努力で成果を出してきたのだろう……


『殿よ、お前が判るぞ……』俺は観察する、相手の気持ちを汲み取る……


 俺の実力を屋根の上から把握した気になったお前は、先鋒の2名では役不足と感じたのだろう。

 そしてリーダーに進言した「コイツらだけでは無理だから自分も行くと、それなら確実に敵を死留められる」と、おおよそそんな事を申し伝えたのだ。

 或いは、自身の読み違いで隊の1名を喪った事への自責の念から「自分で死留めます!」と進言した?

 ……違う、そんな殊勝な心持ちなら、あの様にふてぶてしく歩きはしない……

 まぁ、どちらにせよ、リーダーはその提案を受け入れた。


 ……しかし本来受け入れてはいけない……


 ローレン大将ならそんな提案は受け入れない。


 トラバー隊長もそんな提案は受け入れない。


 そして、師匠もそんな提案は受け入れない。


 敵の求めるべき目的はなんだ、港の奪取ではないのか?

 俺の排除ではないだろう?そこに3名も人員を裂く必要が無い。

 俺はこの点に、奴等の隊の力関係を感じる……

 リーダーなのにこの間違った采配……

 いやその様に采配せざるを得ない力関係……


 ……真の権力者はこの殿か?

 そしてコイツは隊を纏める気はない……

 隊の中で好き放題動く異分子……


 ならば、ローレン大将の敵では無いかもしれない。


 俺の背後に気配はない、先鋒の2名は俺が放り投げた魔法金属の位置情報で奥に進んでいるのだろう……

 引っ掛かってくれた……

「魔法は便利だが、鵜呑みにしてはいけない……使うのは良いが、使われてはいけない……」

 魔法を余り信用していない師匠の言葉……一理ある。


 殿もスタスタ歩いて俺に気付きもしない……

 殿がメイン通りを先に進む二人を見ながら少し後方を距離を取って歩く……そして、正門に到着して右折する……もう少しで途中の死体に気付くか?……或いは、気付かずに魔法金属の場所まで行くか?行ってくれと願う……


 まぁ、時間は少ない……さぁ、行こう……敵が三人に成った時点から俺の対策は『暗殺』から『逃走』に変わっていた。


 あの二名ならヤれたが……

 三名となると相手にするのが面倒だった。

 だから放っておく……

 有難い、お陰で管理事務所の敵が一時的ではあるが三名減ったのだ……好都合……


 スルスルとメイン通りに出て見ると、ケビンが、敵の口を塞いで首にナイフを突き立てる瞬間だった……

 ラースは敵の下っ腹からあばら骨の隙間を通過して細身の剣を突き入れていた……斜め下から上に向かい差し込まれたそれは、正確に内臓を貫いている……どうしたら警戒している敵のそんな場所に剣が刺さるのだ……ラースが地面に埋まって隠れていたとしか思えないが、流石にそれは無いだろう……

 おまけに周囲に音を立てぬ様に空いた手足でヘビの様に絡み付き、周到に相手の口や手足を押さえている……刺した剣は己の身体で相手に押さえ付けている。


 ……数瞬で相手の息の根が止まる……二人は静かに敵を地面に置き、ケビンは俺の顔を見ずに手信号で『本隊に合流せよ』と指示する……

 そして『あいつらは自分達が相手する』と続ける。


『……この二人は……師匠側の人間だった』俺は『了解』と手信号して進む。


 こんな俺達を相手はどう思うのだろう、敵はまだ、俺達の『狂気』に気が付いていない。


『……敵よ、囲むつもりが、囲まれているぞ……』


 早く気付かないと、奴等は退転の時を越える……

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