翔の場合
俺はさっさと朝飯を済ませ、テーブルの下にあるティーシャツに袖を通す。
『翔は直ぐ部屋散らかすから混ざらないようにこれからここに置いていくね』
そんな風に言う颯人の顔を思い出そうとウンウンと唸ってみたがやっぱり顔は出てこなかった。
でも何となく笑っていたことだけは覚えている。
周りに舞う埃さえキラキラと颯人を取り巻くように輝き、彼を照らしていた。
ソレがあまりにも綺麗で、その空気と笑っている颯人だけは鮮明に思い出せる。
俺の数少ない‘友達’の大切な記憶だ。
朝飯つくらせて働かせて洗濯物まで畳ませて、、、。
……たまには食器ぐらい片すか。
そう思い立ち食べた後のコップやフォークをフライパンに乗せ、持ち上げる。
俺はそれを洗い場に出しそのままスニーカーを履き家を出た。
―――――。
――――。
―――。
まだまだ暑い日差しに焼かれながら俺は項垂れ歩く。
やっぱ外出しなきゃ良かったかな……。
ふ、と、ヒンヤリと冷たい空気が肌に触れる。
その涼しさに誘われるように、、、いや、吸い込まれる様に冷気が満たす部屋に入っていく。
「あれ?翔じゃん。おひさー」
「うぉ!珍しいな!」
だんだかと重く響く音楽と仲間達の声。
何だか最近はここに来る気になれずずっと敬遠し疎遠になっていた。
でも、これだ。これが俺の居場所だ。
あんな狭くて汚い(俺のせい)男と二人っきりの部屋なんて俺のいるべき場所じゃない。
「よー!久しぶり!」
そう口にしながらブロンズの髪の女の子に近付き肩を組む。
鼻腔を満たす濃いラベンダーの香水の匂い。
その濃ゆくて刺激のある香りにクラクラとする感覚を覚え、首筋に鼻を押し付ける。
「里奈ちゃん、また一団と可愛くなった?」
「えー、そんなことないよ。本当に翔は口が上手いんだから!」
言葉とは裏腹に少し上がる声とテンション。
今日は里奈ちゃんかぁ何て、考えながら体を離し手近にあったグラスを口に運ぶ。
そして俺はそのままゴホゴホと噎せ返った。
「かっら!はぁ?こんな時間からもう飲んでるわけ!?」
口端から漏れ出る酒を手の甲で拭い取り、仲間達の方を睨むように見上げる。
ケラケラと嘲笑するように嗤い仲間の一人が声を出した。
「里奈っぺそれ、何飲んでるのぉー?」
「んーっとね、焼酎ー」
ヘラヘラと嗤う姿に溜息を漏らす。
色が着いてないから水かと思ったわ……。
「匂いで分からなかった?」
こんなに濃い匂いが側にいて気付けるわけないだろ、、、。
「里奈ちゃんのあまーい香りに当てられて、クラクラして気付けなかったよ。」
そう告げ髪をサラリと手に取り口付ける。
そうやって甘くかわせば彼女は頬を染め照れたように笑う。
ああ、女の子ってちょっと簡単すぎるよなぁ、何て考え俺は逃げる様に店を出る。
「えー、もう帰るのかよ!」
「おう、また今度な」
そんな叶うかも分からない約束を口にしながら。
―――――。
――――。
―――。
時間は過ぎ涼しい風が昼間にかいた汗を冷やしていく。
ちょっと肌寒いし次はどうしよっかな、何て考えながら歩けば、気が付けば足はゲームセンターに向いていた。
自動ドアを潜り抜け、煙たい奥の方へと進んで行く。
奥にたむろしている人集りを見つけ、そこを目印に歩く。
「圭太先輩。よっす。」
「おおー、翔くんじゃん。何しに来たの?」
「先輩、いるかなぁ。って。」
そんな乙女みたいな言葉を照れた風に漏らせば、急に眼前の彼の目がギラリとまるで獲物を狩るかのような目に変わる。
きた。そう、俺が欲しいのは、この目、だ。
ドクンと胸が高鳴り恍惚の表情を浮かべれば彼は俺にキスを落とす。
「お前の部屋、空いてる?」
その言葉に小さく頷けば再び先輩は口を開く。
「なら、準備して待ってて、夕方行くから。」
突き飛ばされるように身体を跳ね返され、彼はおもむろに席を立ち歩き出した。
その背中を見送り、自分もゲームセンターを後にした。
──────────。
─────────。
───────。
────。
「んっ、は、ぁ。」
漏れ出る吐息に上がる体温。
本来なら感じるハズのない場所に、押し寄せる快感の波。
彼氏と同居している部屋でこんな事をしている罪悪感と背徳感。
颯人の顔を思い出しては、俺は別に好きじゃないから浮気ではないと正当化していくこの感じ。
この感覚は何回経験しても慣れることはなく、俺の中の空洞をじんわりとゆっくりと満たしてゆく。
「あ、や、、ばッ……。せ、ぱ、い」
先輩が腰を打ち付けるたびに、自分のものとは思えない様な声が理性を乗り越えて漏れ出る。
その自身の喘ぎにさえ興奮を刺激され段々と気持ちが昂揚していく。
「はっ、ちょっと、黙って」
そう言われ口を塞がれ更に激しい動きに変わっていく。
その行動に鳥肌が立つぐらいの快感を覚え、俺は導かれるまま果てる事になった。
………………。
ガチャリと音がして颯人が帰宅したのはその十分後のことだった。
俺は余韻に浸る暇もなく慌てて服を着る。
「ただいまー。さっきここから出てった男の人に会ったけど、あれは?」
そんな声に気付かれていないと安堵し笑いかける。
「安心してくれよ。ただの友達だからさ」
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