ライラック

目を覚ました俺は、一体どうしたら彼女と再開を果たせるだろうか。と、天井を眺めて考える。

とりあえず、彼女はこの病院から出ることはできない筈だ。

はあ、と短く息を吐きベットから足を下ろす。

考えたって仕方がない、と腰を上げ体を伸ばす。

取り敢えず散策でもしようかと歩みを進め扉を開く。

眩しい光に驚きそちらを向けば大きな窓が目に移った。

その窓に吸い寄せられるように足を向ければ後ろからパタパタと軽い音が廊下に響く。


「ゆ、い?」


音の軽さに思わず名前を口にし振り返れば息を切らし笑う彼女の姿が目に映る。

ゆっくりと彼女の方を向き歩みを始める


「おれ、ゆいのこっ……と、まもれ……っ」


息が詰まる。

苦しい。

まるで水の中に……。

いや。あの時のようだ。

ポロポロと漏れ出る雫を止めもせずに一歩一歩確実に結衣のそばによる。

でもその足は彼女の一言で止まってしまうことになった。


「全部思い出したんだね。さっくん。」


耳に入ったその言葉を処理する暇もなく俺は膝を着いた。

体から力と血の気が引いてゆく。

認めたくなかった事実を肯定されて、息が出来なくなる。

地面に涙で小さな水溜りができる。


「私はね、不幸だなんておもってないよ。だってあの日、すっごく楽しかったもん!」


元気な明るい結衣の声が振ってくる。

おれはそれを受け止めようと必死に手を伸ばす。

彼女はその手を取り勢い良く引き上げ俺に抱きつく。

力一杯しがみつくように抱き締める。

いつだって暗い所に沈む僕の事を引き上げてくれるのは彼女の明るい声だ。

だったのに、俺はあの日引き上げる事ができなかった。

今更後悔したって意味がないことぐらい、頭ではわかっているのに。

話さなければ、と、唇をパクパクとさせる。

気が動転するとはこういうことかと実感してしまう。


「なあ、どうして君は、ここに囚われたままなんだ?」


やっと口にした言葉は余りにも弱々しかった。

彼女の視線は俺を通り抜け外に向く。

眩しい光に目を細める。


「今日は、とっても明るいね。さっくん。」

「は、え?」


情けない声を漏らせば彼女は俺の目を静かに見据え、優しく笑った。

あの日と余りにも同じ笑顔で、再び視界がにじむ。


「ねえ、私をまだ、愛してくれてる?」

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