第100話 元勇者 最後の戦いへ
「1つは、魔王軍と組んだこと──。この時点で貴様は俺たちの敵になった」
俺は決して復讐を否定はしない。彼らだって悪行をしてきたし、それに対して復讐は何も生まないなんて言うのはきれいごとに過ぎないからだ。
だが、復讐をするなら一人でやればいいし、貴族たちだけを殺せばいいそして魔王軍と組んだ時点で、彼女は打倒さなければならない敵となった。
魔王軍と手を組み、無関係な人たちを傷つけている今の彼女は。彼女自身が死ぬほどに組んでいる、自分たちの村を消滅させた貴族たちとやっていることは何も変わらない。
「もう1つは、見せしめに何の罪もない国民たちを傷つけ、恐怖に陥れてしまったこと」
昨日の騒動、俺たちが必死に魔王軍と戦い何とか街を守り抜いたものの、たくさんの冒険者や住民たちが傷ついてしまった。
それだけでなく街の一部が破壊され、住処を失ってしまった人が出てしまった。
この時点で、彼女はどんな理由があろうと、俺たちを傷つけ、住処を破壊していった悪の存在となった。
だから、彼女とは戦わなければいけない。だが、最後に一つだけ気になることがある。
「エミール、一つ聞きたいが、いいか?」
「なんだよ」
「お前、もし俺を倒すことができたらこの世界をどうしたいんだ? 世界をどうするつもりなのか、教えてくれてもいいんじゃないのか?」
エミールは平然な表情で言葉を返した。
「簡単だ。今まで、権力を持っていたやつをすべてなくす。俺たちを苦しめてきたやつらを、全部破壊するんだ」
確かに、エミールの考えそうなことだ。彼女が受けてきた苦しみ、十字架を、他の奴らや当事者にも受けさせる。
けれど、そんなことをしたらどうなるか、俺にはすぐにわかる。
虐げられた奴らの誰かが、今のエミールの様になり、同じように暴力に頼ってこの世の中を破壊していくだろう。
そして──、繰り返す。その過程で、罪のない人が苦しみ、傷ついていくだろう。させない、そんな地獄のような輪廻は繰り返させるわけにはいかない。
当然だ。俺は、勇者だから。
「わかった。これで、俺はお前と戦わなければいけないというのが本当に理解した」
「──そうだな」
心置きなく、俺はお前と戦える。天空で対峙した俺とエミールは、1歩1歩近づいていく。
互いにじっと見つめあい、無警戒に──。まるでかつての戦友だった時のように。
住民たちも、冒険者たちも感じ始める。互いに存亡をかけた死闘が始まるのだと。
お互いに見つめあいながら、臆することなく接近何をするのかは理解している。だからわざわざこれ以上言葉を交わす必要なんてない。
ドォン!
示し合わせるように、同じタイミングで大きな一歩を踏み込み、刃を交える。
たった数回の攻撃で、二人の交えた場所から、巨大な衝撃波が飛び交う。
衝撃波が衝突した地面がクレーターのようにえぐれ、並の人間が軽く吹き飛ぶくらいの突風がこの場に突き抜ける。
やっぱり、この場所にきて正解だった。地上で戦ったら、たとえ勝っても街は壊滅して犠牲者だって出る。
激しい戦いが数分ほど続いた。
二つの武器が衝突するように火花を散らし、互いに全力で力をぶつけ合う。
「へへっ、やっぱりお前は強いな」
「奇遇だな。俺も同じことを考えていたところだ」
正義感が強い似たような性格。勇猛果敢な戦闘スタイル。緯線から思っていたが、シンパシーを感じ、互いに考えていることが理解できるのだ。
俺の剣を受けながら、エミールがにやりと笑みを見せる。
互いに全力を出した死闘。最初に一撃を与えたのは。
「もらったぜ、元勇者!」
エミールだった。俺は彼女が出した攻撃を受けきれず、激しい攻撃を浴びてしまう。俺に肉体が建物にたたきつけられる。建物は半壊。激しい痛みで全身の感覚がなくなる。
「「「陽君!」」」
ルシフェルたちがたまらず俺に声をかける。大丈夫だ。
互いの武器が飛び交うごとに、互いの表情が見える。そしてそれを見ると、2人で冒険し、戦っていた記憶がよみがえっていく。
自分たちよりはるかに強い敵を倒した時、見たことがないくらい綺麗なお宝をエルフから譲り受けた時。
ハイタッチをしたりして、心の底から喜んでいた。
思い出せば俺とエミールは、パーティーの中でも1番の仲良しだった。
肩を組んで酒を一緒に飲んだり。遊んだりしていた。
だからか、戦っていて互いの考えがいつも理解できていた。
そんな俺たちが、こうしてすべてをかけて戦っている。
戦いながらエミールがつぶやく。
「なんか、お前の動きが読める」
「偶然だな。俺もなんだ」
互いにどこか笑っている。そして以心伝心しているかのようなこの会話。
だが、これは摸擬戦でも、ふざけての取っ組み合いでもない。世界をかけた大切な戦い。
このままでは負ける。しかし速さもパワーもエミールの方が上。どうしたものか。
「何やってんのよ! 元仲間だからって手加減してんじゃないのよ。頑張りなさいよ!」
下からルシフェルの叫び声が聞こえだす。んなわけないだろ。本気で戦っているよ。俺が向きになって心の中で叫んだ時、とある言葉が脳裏に浮かんできた。
元仲間、そして──。彼女をよく知っているということ。そうか、そういう事か、これならいけるかもしれない。
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