第97話 元勇者 国王に頼み込む

「エミールは、この世界に大きく絶望している。見捨てられた村たちを見てすべてを滅ぼすと強く誓っている」


 感情的で気持ちが強い人物だけに、ここまで思い詰めている。そして発揮する力は今まで戦ってきたどんな敵より強いだろう。


「以前聞いた。けど、俺はこの世界を守るって誓った。絶対、エミールには勝つ」


 ハスタルが興味深い事実を口にする。


「そのエミールだが、明日攻め入っていくと言っていた」


「何それ、どういうことなの?」


 その言葉にルシフェルが驚いて反射的に言葉を返す。俺もそれには驚いた。


「俺もそれは気になる。どういうことだか教えてくれ」


 そしてハスタルの説明が始まる。


「おそらくいざ自分が攻め入った時に、貴様たちがどのような対応をとるのかを見たかったのだろう。そもそも攻め入って勝ち目があるかも図る必要があるしな」


 なるほど。魔王軍が攻めて来た時の俺たちの対応。きちっと連携、組織的な動き。強力な冒険者の数。

 事前に知っておけば敵のどこが弱点か把握することができる。


「結果はどうだった?」


 俺が問いただすと、ハスタルはフッと笑いだした。そして──。


「これなら楽勝だ。と自信たっぷり。障害となるのは貴様だけ、お前を倒せさえすればこの国は俺の物だってよ」


 思わず苦笑いする俺。エミールらしい答えだ。俺以外障害はない。つまり俺が折れたら国自体が滅びるという事か──。重大任務だな。


「──だって、元勇者さん。それで、どうするの?」


 ルシフェルが「わかっているでしょ」といわんばかりに自信たっぷりの笑みを俺に向けてくる。


「決まっているだろ。全力でこの国を守るために戦う。貴様や、エミールに負けるつもりなんてもうとうない」


「ま、そうよね」


「エミールの強さは俺も知っている。俺よりはるかに強く、執念のようなものも持っている。一筋縄ではいかぬぞ」


「そんなことは一緒に旅をしていた俺が一番理解している。理解したうえで言ったんだ。心配しなくていい」


「だな。我もそう言うとわかっていた。貴様ならば、あのエミールにも勝てるかもしれん」


「かもしれないじゃない。勝つんだ」


「そうよ。未来のためだもの」


 当たり前だ。ルシフェルも、同じ意見だ。

 ──もう用もないし、そろそろ帰ろう。ローザとセフィラも心配しているだろうし、明日に備えて体力を回復したいし、何よりやることがある。

 住民たちを傷つけさせないために。


 そして俺たちはこの場所から去っていく。


「じゃあな、もう攻撃をするんじゃないぞ」


「そうよ、次こんなことをしたら、この城が廃墟になるって思いなさい!」


 警告ともいえる一言をルシフェルが言う。ハスタルは、黙って首を縦に振った。


 そして俺たちはこの場を後にしていった。エミール。貴様の想いは十分理解した。それでも、勝つのは俺たちだ。



 俺たちは、ローザたちのところへと戻った。そして状況を説明。

 それから、国王のところに行く。破壊された街の復旧作業をしている人たちを目撃しながら城へ。


「正気か? 口で言うほど簡単なものではないのだぞ?」


「ああ。けれど、攻め入ってくるのがわかっている。通常通りで建国祭なんて絶対できない。だからあらかじめこうして提案しているんだ」


 国王は黙りこくってしまう。こいつ、わかっていない。明らかに器が足りていない。俺はこいつに強く問いかけた。


「早くしろよ! もう安全に建国祭を行うなんて夢物語はすでに破綻しているんだよ。早く大臣たちに伝えないとドンドン時間が過ぎちまって手遅れになっちまうぞ!」早くしろ。懇願なら俺も手伝ってやるから。こんな時くらい国王くらいの活躍はしてくれよ!」


 強きな言葉、数秒ほど沈黙が包んだ後、国王はそっと言葉を返し始めた。


「了解した。確かに明日強敵がやってくる。そんな状況で通常の建国祭など不可能だ。貴様が用意した頼み。それを果たすために、調整、頼むぞ」


「──ありがとな」


 それからの話は早かった。各大臣を至急で集め、俺は会議室でエミールが明日攻め入ってくることも話す。


 大臣たちは互いにきょろきょろと顔を見合わせ、騒然とする。

 そして俺が言い放った。


「だから、皆さんの協力が必要なんです」


 そして俺はとある提案をした。


「確かにエミールが襲ってくるというのはわかった。しかし、だからといってこの時間になって建国祭を1日延期しろというのを受け入れろというのは──」


 困惑し、煮え切らない態度で俺に問い返してくる一人の貴族。

 そう、俺が頼み込んだ案は明日の決戦に備えて建国祭を1日延期にするといった作戦だ。


 明日の決戦。どのみち復旧などに時間がかかり、建国祭どころじゃない。だが、これだけの大掛かりな祭り、簡単にもう1度行うなんてできない。


 大臣や貴族たちは、戸惑いながらも他に対案がないことから承諾。もちろん俺が強く言葉を返して黙らせた側面もあったが。


 それからは、早かった。俺達や国王、大臣や兵士たちが建国祭の1日延期を街中に叫び始める。


 住民の中には文句を言う人もいたが、命が惜しいかと問い直し、強引ではあるが納得してもらった。


 そして家を失った人のキャンプや避難所の割り当てなどを完了し、準備は整った。後は、明日俺が勝てばいいだけだ。

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