第93話 元勇者、魔王軍の本拠地へ
次の日、俺とルシフェルは彼女の術式を使って目的の場所へ。
灰色の空。荒涼とした大地。その中心に例の場所はあった。
魔王軍の本拠地シャールノス城。黒檀の宮殿のような形状をしていて、圧倒的な存在感を放っていた。
「懐かしいわ。私はあの城でずっと暮らしていたわ。そしてずっと部下たちと暮らしていたもの」
確かに、ルシフェルにとってはかつて暮らしていた場所。故郷のような感じなのだろう。
俺にとっても懐かしさはある。俺が、以前この世界にいた時。ここでルシフェルたちと死闘を繰り広げたのだ。
そして俺たちは入り口の城門に立つ。
「何だ貴様たち。ここに立ち入ることは許されぬぞ」
門番の兵士たちがやってきて、話しかけてきた。当然止められる、しかし──。
「元勇者よ、戦うならばそこの荒野でよかろう」
「決戦? どういうことですか、ハスタル様」
決して忘れないどす黒い声。ハスタル。
「ありがとな、話が早くて助かる」
「我と貴様はどうせ戦う運命にある。であればさっさと決着をつけた方が良いだろう? だが貴様と我がこんなところで暴れまわれば城はがれきの山へとなる。それだけは避けさせてもらう」
「賛成よ。下手にここを壊して、残党たちが暴れまわるのは嫌だもの」
ルシフェルもこの案には賛成。ということで俺たちは人気がいないところまで移動開始。歩きながら、ハスタルはルシフェルに話しかける。
「ルシフェルよ。貴様がいなくなった後、私が魔王軍を束ねてわかったことがある。貴様、よくあんなはねっ返りの奴らを束ねていたな」
「当たり前じゃない。まともな価値観を持って育てられた奴はそもそも魔王軍なんかならないわ。苦労したのよ、あいつらをまとめげるのは」
「その言葉、この立場になった今だからこそ理解できる。とりあえず聞いてみよう。もう一度こいつらをまとめ上げる気はないか?」
ルシフェルはやれやれとあきれ顔を見せて一言。
「冗談? だったらこうして人間になんかなってないわ」
「考えて見ればそうだな」
同じ魔王軍のトップを経験した者同士の話。やはり苦労があるのだろう。どこか腹を割って話す様に会話をしている。
「この辺りでよかろう」
歩いて30分ほど。俺たちは戦いにふさわしい場所へと足を運んだ。
一面荒涼とした大地が広がっている。人の気配はない。まさに決戦にふさわしい舞台。
「──そうだな」
俺たちは特に会話を交わさない。そんなものごときで物事が解決するとは考えていない。
互いに死力を尽くし、勝った方が望みをかなえられる。
それを理解していたからだ。
俺とハスタルの戦いが再び始まる。
「敗北という結果を知っていて我に挑むとは、勇者というのも大変なものだ」
吠えずらを書くのはどっちか、わからせてやる。
「変な前置きなんていらない。さっさと決着をつけよう」
「そうだな。ここに来たということは、それ早々の覚悟を持っているということだろう。行くぞ」
話が速くて助かる。何もない荒野で、武器を召喚し、向き合う俺とハスタル。そしてそれを見つめるルシフェル。
「じゃあ、行かせてもらうぞ」
「来い、元勇者」
変な説得なんてしない。そんなことをしても無駄で戦うことになっているのは目に見えている。だから戦う、立ち向かう。それだけだ。
そして俺は一気にハスタルへと突っ込んでいく。
ハスタルの動きは通常に人間ではありえない反応ができる。俺はその動きに警戒しながら時折反撃。
そしてハスタルに無理気味に突っ込んだ時、それは起こった。昨日戦った時より魔剣が引き気味になっている。
俺の思考に気付いたのか、ハスタルは自慢げに話してきた。
「元勇者よ、同じ手が通用すると思うなよ」
「そんなことしないよ」
それは理解している。こいつは相当頭の切れるやつ。同じ手は2度食わない。昨日俺がこいつにやった刺し違えて勝つという方法は、間違いなく通用しないだろう。
常人離れしたこいつを真っ向からねじ伏せる必要がある。でも、それができるから俺はここに来たんだ。
俺はハスタルから一歩引いて間合いを作る。そして一瞬だけ目をつぶった後、魔力を体内に強く込めた。
深呼吸をしてリラックスをする。
そして──。一気にハスタルの方向へと突っ込んでいく。
「無策で突っ込むとは、勝負あったな元勇者」
ハスタルは自信満々に叫んで、突っ込んでくる。彼の思い通りに曲がる剣。そして人間ではありえないほどの反応速度。
普通の冒険者ならば、まともに反応できず勝負は決まってしまうであろう一撃。それに対して俺は……。
「無策だと? なめているのか貴様! 細切れになるがよい」
特に変な動作をすることもなく突っ込む。その姿にハスタルは高笑い。
勝負は決まったと俺に攻撃を仕掛ける。
よけようがない、目に見えない速さとよけようがない曲線を描いた一撃。
しかし──。
「何故だ? なぜ我の攻撃が当たらない」
驚愕するハスタル。こいつの仕掛けた攻撃を、全てかわしていったのだ。
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