第85話 元勇者 怪しい集団に出くわす

 2日後。

 朝食を済ませ、俺達は中央にある広場へ。


 そこからパレードの護衛を続けていた。


 開始から2時間ほど経過。日が昇り始め、混雑はさらに激しくなる。

 現状、特に違和感はなく順調に進んでいる。

 すると、ルシフェルが俺の肩をツンツンと叩く。


「陽君、あの集団、何か怪しいわ」


 ルシフェルに促され、俺たちはその集団を確認。10人くらいの前身と顔をフードでくしている人物が、大通りの路地裏に入っていく姿。そしてルシフェルは感じ始めた。


「感じるわ。あいつから魔王軍の力を」


 犯人確定、というかこそこそとした足取り、明らかに怪しい集団だ。


「では、捕まえに行きますか?」


「いや。敵が現れたからただ行くというのはまずい、セフィラ」


「何でですか? ルシフェルさん」


「先ず陣形が崩れるし、おとりという可能性だってあるわ、ローザ。私達があいつらを追って要人の防御が手薄になった時、それを見計らって別の部隊が襲い掛かる可能性だって十分あるわ」


 俺もそれは思った。俺もルシフェルも、互いにダマしダマされながら戦って来ただけあって、目の前に餌が垂らされても、考えもなしに飛びつくのはまずいとわかっている。


「じゃあ、どうすればいいんですか?」


「2手に分かれよう。俺とローザがあいつらを追う。セフィラとルシフェルはここにいてくれ」


 これならあいつらも追えて、要人たちを危険にさらすこともない。


「わかったわ。行ってらっしゃい」



 まずはローザが弓矢を召喚。

 矢を放ち、黒いフードの不審者たちに当てていく。

 まずは一番後ろを歩いていた男に着弾。


 すると、スライムのようなねばねばした粘液が弓矢から出現、男に絡みつく。

 男はパニックになり、何とか脱出しようともがき苦しむが、どうすることも出来ない。


「水属性・スパイダースライムです。敵を捕らえるのが得意な術式です。秘密裏に習得していたんですよ」


 思い出した。俺の仲間にそんな術式を使うやつがいたな。逃げるやつを捕まえるための術式。矢や銃弾などの術式が相手にあたると、蜘蛛の糸状の粘液がその人物に絡みつき、どれだけもがいても決して身動きが取れなくなってしまうのだ。


 一応魔力消費が通常より多い。矢のスピードが遅くなってしまう。という欠点こそあるが、そんな術式を使いこなしていたのか。


「気づかれた。逃げろ!」


 そして他の仲間達は慌てふためき、動揺し始める。拘束され、地面をのたうち回る男たちを見て、俺は叫ぶ。


「兵士さんたち、そこの不審者を捕まえてください」


 俺の叫んだ言葉に近くの兵士、すぐにその人物たちを捕らえた。


 この時点でとらえた兵士は5人ほど。残りの兵士たちは裏道の奥へと逃げていく。


「あっ、敵が逃げちゃう!」


「絶対に逃がさない。残りは任せて」


 そして俺は一人、敵を追っていく。薄暗く、狭い路地裏をダッシュで走る。

 連中、おそらくここに来るのは初めてなのだろう。確かに隠れ場所や曲がり角が多く、見通しが悪い裏道に逃げるという手段は悪くない。


 しかし、裏道というのは道が狭いうえに、ものが道に置かれたりしていて全力で走れないことが多い。おまけに入り組んだ道でどこに進めば出口にたどり着けるかわからず──。


「しまった。行き止まりだ!」


「よし、見つけたぞ貴様ら!」


 男たちは行き止まりにあたってしまい、袋のネズミ。もう逃げられないぞ貴様ら!


「フッ。追い詰めたっていったってたった一人じゃねぇか。やっちまえ!」


「そ、そ、そうだぁ──! 返り討ちにしてやるぜ!」


 何と男達、俺に向かって一斉に飛び込んできたのだ。確かに追い詰められたネズミは猫をも襲うっていうけどさぁ……。


 俺はすぐに反撃。勝負はモノの数秒で片付く。

 その時、他の警備の兵士がやってきた。物音や走るときの音でここまで追いかけてきたのだろう。


「ありがとう、とりあえずこっちは助かった。捕えておいたからこいつらを取り調べてくれ」


 魔王軍の兵士ならば、敗北した時点で肉体が消滅してしまうが、見た感じこいつらは魔王軍でも何でもない。

 思う存分何があったかを、しゃべってもらおう。


 そして男たちを縄で縛り上げ、取り調べをしようとしたその時──。


「ククククク──」


 男の1人が、奇妙な笑い声を上げながらこっちを見始めた。


「何笑っているんですか? あなたたちは捕まったんですよ!」


 ローザがそう叫ぶと、男はにやつきながら言葉を返す。


「いい気になっていられるのも今のうちだ。『元勇者』」


 俺の名を呼んだか。


「どういうつもりだ?」


「貴様はわが神であるハスタル様の前に消滅する運命にあるのだ。貴様たちはすでに死ぬ運命にあるのだ!」


 ハスタル。その名前を聞いて俺はその男に詰め寄る。


「ハスタルだと? 貴様らの裏には、そいつがいるということか?」


「答えるかどうかは、俺次第だ。もっとも、俺だって死にたくなんかない。答えるわけがないがな」


 奴の残虐性を考えればハッタリではないというのがよくわかる。

 だが、あの態度を考えればあの言葉は本物だろう。


「とりあえず、こいつらを連行してくれ」


 兵士たちは縄で縛り上げた不審者たちを連行していく。魔王軍に寝返っているやつらだ。国としても自由にさせるわけにはいかないだろう。


 そして俺はローザと2人になる。


「陽平さん。1つ聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」


「何、ローザ」


「さっき男の人が言っていた『ハスタル』っていう人、私、聞いた事がないです。どんな人なんですか?」

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