第35話  元勇者 思わぬ敵に出会う

「わかったわ、私が答えてあげる。あなたたちが納得する内容を──」




 そしてルシフェル、握りこぶしをしながら叫び始める。


「あなたたち、人々の痛みを、幸せを奪われる痛みを知りなさい。どんな人にも素晴らしい人生があるの。そして一人ひとりの人間が持つ幸福を、喜びを、希望や愛その権利を奪う権利は誰にもないの。そして残された遺族に悲しもや苦しみや痛みを与える権利は誰にもないわ。

 だから、命を奪うのは、人を殺すのはいけないことなのよ。逃げたとしても、罪悪感にむしばまれる。今は何も感じていない素振りをしているけれど、心のどこかでその負い目を感じているはずよ」


「うっ──」



 その言葉にセリカの身体がピクリと動く。彼女も心当たりがあるのだろう。他の少年兵も自然にヤジの言葉を叫ばなくなる。懸命なルシフェルの叫び声だけがこの場を支配していた。


「そして罪を犯した人間は必ず報いがやってくるわ。逃げたとしても一生その呵責から逃れることは出来ない。まともな人間からは見放される。あなたに幸福な人生は絶対にやってこないわ。だから──、大切な人のために、あなたたち自身のために大切な命を、絶対に!!!!」



 ルシフェルの圧倒的な迫力、少年達は言葉を失う。

 キョロキョロと互いに顔を見合わせている。想像もしなかった迫力ある言葉、どうすればいいのかわからないのだろう。


 当然だ。

 きれいごとばかり言っている頭にお花畑がついているバカ政治家や聖人気取りじゃない。元魔王の言葉だ。


 重みが違うのだ。



 そして真ん中にいるリーダー格の少年に話しかける。


「あなた、名前は?」


「グラだ……」


 グラはルシフェルの眼力に圧倒され、1,2歩後ずさりしながら答える。ルシフェルは彼を見つめながらゆっくりと接近、そして──。


 ギュッ──!



 ルシフェルはグラのもとに接近、そして自分の想いを込めるように強く抱きしめる。



「絶対に約束するわ──。私は絶対にあなた達を見捨てない」




「だから、もうやめなさい──」


 少年兵たちはうなだれる。自分たちが犯した罪の重さに。


 俺はその光景を見て心の底からほっとした。

 いくらなんでも次から次へと処刑台に彼らを運ぶわけにはいかない。将軍様の恐怖国家じゃあるまいし──、


 まともな教育を受けていない少年兵がどうすれば立ち直るか悩んでいた。


 確かに彼らは罰せられることになってもおかしくはない。


 しかしどれだけ罰を与えても、そもそも悪い事をしたと考えていない。なので何故こんな目にあわなきゃいけないんだという反発心と感情だけが残り、逆恨みの原因になってしまう。


 そしてまた似たような事を繰り返すだろう。


「わかったよ、もうこんなことはしないよ……」


「その一言が、私は聞きたかったわ──」


 少年たちの心の底からの一言、グラを抱きしめながらルシフェルは周囲を見渡しほほ笑む。


 俺も嬉しい気持ちだ、まずは彼らが自分の罪を理解してくれて嬉しかった。

 その事に俺はほっと胸を撫で下ろす。


 政府の奴らから言われたら罪には問われるだろうけど──。それは司法が解決すること、俺達が口を出すことじゃない。



「とりあえず、これで住民たちの安全は守られた。後は黒幕を見つけるだけだな」


「そうか、それなら私も協力したい。力になってもいいか?」


「そうだな、一緒に力を合わせて解決しよう」




 そして安堵の雰囲気がこの場を包んでいたその時──。


「何だ? この音は……」


 後ろから何か音が聞こえる。そしてその音が少しずつ近づいている事に気付き後ろを振り向く。



 誰かがこっちに向かって歩いてくるのがかる。


 その人物は俺と同じくらいの背、マント羽織っていて小さな笛を吹きながら歩いてくる。後ろには漆黒に光る塊がついてくるように存在していた。

 前にもこんな奴、俺は見たことあるぞ……。


 っていうかあいつ、思い出した!!


「貴様、ハイドか。こんなところにいたのか──」



 ルシフェルもあまりに驚愕したせいか言葉を失ってしまう。まあ、あいつの姿を見て一番驚くのはルシフェルだもんな──。


「ほう、元勇者にルシフェル。あれほどいがみ合っていた2人がくっつくとはな」



「ハイド、あんたならやりかねないと思っていたけど。こんなことをしていたのね──」


 ルシフェルがその少年をギッと睨みつけ、言い放つ。


 ハイドリヒ・ダリューゲ、通称ハイド。

 なのを隠そうこいつは魔王軍の元幹部だった。

 圧倒的な種族値から来る戦闘力は数ある強い冒険者をなぎ倒し、倒した冒険者達に<ソウルドレイン>を使い魂を奪い自らのエネルギーに変えた。


 散々手を焼かされたあと、俺との死闘での末、ギリギリで俺が勝利したんだっけ。


 魔王軍の中でも1.2を争うくらいの実力者。


 そしてハイドはグラ達に視線を移す。





「残念だったな。話はすべて聞いた。俺と貴様たちが袂を分れる事になるとは、しかし残念だったよ」


 その眼光に圧倒されるグラ達、しかし何とか勇気を出して震えたような声色で言い返した。


「ハイド、すまないがもう俺達はお前のいいなりにはならない。もうあんなことはしない──」


「だったら貴様たちは用済みだ。使い終わったボロ雑巾のように始末するだけだ」

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