第31話 元勇者 セリカと裸でもみ合いになる

 セリカは何とか自分の今の感情を話そうとするが、言葉がおぼつかない、明らかに頭が混乱、動揺しているな。


「す、す、すまない……。私はどうすればいいのだ。私は間違っていたのか?」



 当然だ。今までずっと戦い続けることが正しいと教えられてきたんだ。急にそれを捨てろというのは無理がある。でも今の彼女は自分がやってきたことが間違っている事。それを薄々気づいているセリカのためにも、何とかしてあげたい──。


 そう考えていると言葉を発したのはルシフェルだった。ルシフェルは優しいまなざしを向けながら、物優しい口調でセリカに話しかける。



「とりあえず私たちと一緒に行動してみない?」


「迷っているみたいだから提案したの? まずは私たちに協力してほしいの。この魂狩りを行っている黒幕を捕らえるために協力してほしいの。私たちと一緒にみんなを救って戦って──、それから答えを出しましょう? あなたにとって何が正しいか決めるのはそれからでも遅くはないと思うわ」



 そう言ってルシフェルがセリカにパッと手を差し伸べる。セリカの視線がきょろきょろと動く。そしてゆっくりと右手を動かし始め、ルシフェルが差し出した手をそっと握る。



「わかった……。協力しよう──、だがどうする? 私が貴様たちの敵になってしまう事を選んでしまったら……」


「大丈夫よ、信じているもの。あなたがその子に向けた優しいまなざし──、私は覚えているもの」


 ルシフェルのその表情に迷いはなかった。信じるしかない、彼女が俺達を信じてくれる時を──。






「とりあえず、もう夜は遅い。私の寝床が近くにある。そこで寝たほうがいい」


 ベニヤ板やがらくたで作っただけの小屋。雨くらいはしのげそうだが、強風なんかが来たら破壊されそうだ。



「私が陽君の隣で寝るわ。言っとくけど何かやってきたら──、分かってるわね」



 ニコッ──。



 ワ、ワカリマシタ……、にこっとした笑顔が逆に怖い。



 そして寝る時の配置が決まり休憩を取る、簡単に今後の行動の打ち合わせなども行った。


「シャワーはみんなで共同だ。今はほかのやつらが使っている。もう少ししたら空くそうだ。ちょっと待っててくれ」



「最初にどうぞ」



「俺は最後でいいや2人が先に入っちゃえよ」


 するとルシフェルが仕方がないという表情で、そっと手を上げる。


「じゃあ、私が先に入らせてもらうわね」


「タオルはそこにある。使って大丈夫だ」


「ありがとう、使わせてもわうわ」


 そう言ってルシフェルはタオルを手に取り、シャワー室へ向かっていく。

 セリカと2人っきりになる俺。どこか気まずい、何か話さないと──。



「まあ、その時は他の小屋も壊れているからな。全員で力を合わせて家を建て直すだけだ」


「ああ、みんなあたしと同じ親も身寄りもなく、この国をさまよいここにたどり着いた。どこかシンパシーのようなものを感じている」





「セリカ。次、シャワーの番だ。俺は最後でいいから先にシャワーを浴びてこいよ」


 そう俺が気さくにセリカに話しかけると、彼女は衝撃の行動に出始めた。



「わかった、では早速入らせてもらうぞ」



 サッ……、ドサッ──。


 何とおもむろに服を脱ぎ始めたのだ。上着を脱いで彼女はすでに下着姿になっている。


 純白の肌、小ぶりだが形の整った胸、程よく引き締まった太もも、美しいその美しさに俺は思わずじっと見てしまいドキドキとしてしまう。




「ああ、そうだったな。まあいい──。」



 腰に手を当て、前かがみになり俺に反論し始める。下着姿、ブラジャーから控えめだが綺麗な胸の谷間が嫌でも視界に入ってしまう。

 まずい、このままでは俺の理性が。とりあえずやめさせなきゃ、そう思いセリカの服をつかみセリカに渡す。


「とりあえず服を着ろ!!」


「別にいいではないか、どうせシャワーを浴びるんだ。そこまで下着姿でいることのどこがおかしいんだ」


 何とか服を着せようとする俺、それに抵抗するセリカ。急接近しもみ合いになる。

 そしてその時、悲劇は起きてしまう。






「セリカ、次はあなたの番よ──」



 恐る恐る俺は首を後ろに向け、声の主を確認。

 そこにはルシフェル。2人とも目の前の光景に固まって、フリーズしてしまっている。



 改めて今の俺の状況を確認。俺は何とかセリカに服を着せようと彼女の服と腕をつかみ、身体が触れそうなくらい接近。そしてもみ合いになっているような光景……、まずい。


 人によっては俺がセリカの服を脱がしているようにも見えてしまう。

 ある意味最悪なタイミングでの登場。悪あがきのように何とかこの場を弁解しようとするが──。


「あ、あの……、ルシフェルさん。これは……」


「うわっ、最低」



 まずい、完ぺきに誤解されている。ルシフェルは──、もうゴミを見るような目つきで俺をじっと見つめている。もう手遅れの気もするがそれでも何とか理由を説明する。


「ち、ち、ち、違うんだこれにはわけがあるんだ」




「だからゴミを見るような目つきはやめてくれ」


「やめて? ゴミを見ているんだからゴミを見るような目つきになるのは当たり前でしょう?」

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