第27話 元勇者 パトラの素を理解する
「当然よローザ、彼女はこの世界でずっと生きていたんですもの。綺麗事だけでは生きていけない。身にしみているはずよ。あなただってわからないわけじゃないでしょう」
「……はい、ルシフェルさん──」
ルシフェルの言葉にローザ、しょんぼりしながら首を縦に振る。
まあ、ローザも貴族として生まれ育ったわけだから理解は出来ている。しかし、感情が受け入れられな、そんな感じだろう。
「さあ、有罪が確定したわけですが、とりあえず言い訳を聞く事にしましょうか。弁解を、どうぞ?」
「ケッ──」
幼女は一歩も引かず、にらみつけながらパトラに言い放つ。
「何よ、こんな子供に拷問? ずいぶんと冷酷な王女様ね──。裁判にするわ、言いふらしてやるわ。小さい子供に拷問を加える残虐なお姫さまだって」
「別に? 言いふらすならせればいいわ、罪を犯した者に罰を与え償いをさせるのは当然の事です」
「私まだ12歳よ。そそのかされたのよ。それでもやるっていうの?」
幼女、少しずつ後ずさりしながらパトラを睨みつける。
身体はびくびくと震え、恐怖を感じているのが俺にも見て取れる。
「言ったそばからもう自己弁護。確かにあなたは子供かもしれません。でもいくら12歳だからって自分の意思で首を横に振って断ることは出来たはずです。違いますか?」
「なに? お説教? ずいぶんと偉そうね」
「結局あなた達はいつもそうですよ、いつもは権利だ人権だ自由だなんて言って要求ばかり。そのくせちょっと小銭を得たいからって平気で悪さをする」
幼女が後ずさりした分パトラは歩を進める。彼女を追い詰めているようにも見える。
「それでいざとなったら人権が、権利が──って言って逃れようとする。要するに無責任人間なんですあなたは、そんな人間に優しさなど不要です」
「くっ──」
「とにかくすぐに警備の兵士達に連絡します。ついてきなさい!!」
そう叫んでパトラは彼女の腕をつかみ、この部屋を出る、俺とルシフェルも後をついていく。
その後は彼女の言葉通りだった。警備の兵士の所に少女を連れて行き引き渡す、少女が何をしたのかなどを伝えた。兵士は少女から事情を聴くため、わめき散らし叫ぶ少女を尋問の部屋に連行していった。
「では戻りましょう」
そして俺達はパトラさんの部屋に戻る。部屋に戻るとパトラさんは警戒した目つきで部屋中を見回していた。恐らく何か仕掛けが無いか疑っているのだろう。
「大丈夫そうですね──、座ってください」
そう言って彼女がソファーにつく。俺達もその言葉に合わせ、対面のソファーに座る。
「あなたたちも気をつけてください。あなたが勇者として戦い、魔王との戦いで一致団結していた時代とは違うのです」
俺達はその言葉を聞き、互いにきょろきょろと見つめ合う。足の引っ張り合いみたいなのが横行している。それが現実なんだろうな──。
「今のでわかりましたか? この宮殿で安全など保証されていません。自分たちで守らないといけないんです」
「というかここで重要な会話をすること自体やめた方がいいわね」
ルシフェルの言葉にパトラは一瞬視線を彼女に向け反応する、そして紅茶を一口飲みながら言葉を返す。
「そうです。極秘の情報を伝えるときは必ずあなたたちの部屋に行きます。ここで話す事は極秘ではなく漏えいしてもかまわないことが中心になると思います」
「わかりました」
その方がいいだろう。ここで極秘情報なんてとても話せない、その方が安全だ。
「そして話の本題に入ります。私が依頼した仕事の内容です」
「仕事の内容、本題に入るという事ですね」
そうだローザの言う通りだ。それを知るため、俺達はここに来たんだ。
「まずは私の生まれた地など、王都などで起きている事をご存じですか?」
「王家の権力が及ばない地方で起きている事ですが? あまり芳しくないとは聞いています」
セフィラがその言葉に反応する。彼女もそう言った場所で育ったからなのだろうか。
「オブラートを3重くらいに包んだ言い方です。貴族達は家督争いや資源の争奪戦に明け暮れ、国民たちの事など道端に落ちている石ころくらいにしか考えていません」
「そ、そんなことになっていたんですか……」
その言葉にしょんぼりする俺。確かに俺が勇者だった時もそういうところはあった。
けど政治に携わる人達がそんな考えをしているんじゃそうなるよな……。
「そしてここからが本題です。地方の政情が安定しない、そのためこの王都にも混乱から逃れるため難民たちが押し寄せている状況なんです」
まあ、それも理解できる。
これは俺がいた世界でもあった事だ。アフリカとか中東とか。
「しかし難民達の中には戦乱の中心に傷を追っていたり、まともに教育を受けていない人も多く、王都の治安が悪化しています」
「私もその話は聞いたことがあります、そして親のいない子供たちはストリートチルドレンとなり貧困にあえいでいるとか──」
セフィラもその事は聞いたことがあるようだ。噂として。
「セフィラさん、私たちだって彼らにひどい扱いをしたくはありません。実力行使は本当に最後、どうしようもなかった時に最小限に行いたいのです」
そしてパトラの語調が少しだけ強くなる。
「王都の住民たちが被害をすでに受けています。そして敵対心を持ち始めています。このままでは街中であらそいになり追放されるかもせれません」
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