第6話 元勇者 ギルドに帰還
「いらっしゃいませ」
店に入り、服を整理していたおばさんのマスターにルシフェルが話しかける。
「マスターさん、この人の服を買ってほしいのだけれど──」
「男性用の服はそちらです。気になる服がありましたら奥に試着室がありますのでそこを使ってください」
そして男性用の服売り場に移動、ルシフェルがノリノリで服を選び始める。俺の服だというのに……。
俺はサイズが合えば別に何でもかまわないんだが……。
何着か服を選び、俺と重ね合わせる。
「う~~ん、明るい色は何かに合わないわね……。やっぱり黒っぽい方が似合うわ──」
思い出す。子供のころ母親にデパートで服を買うと言われて、もう帰りたいという俺の気持ちを無視。どうでもいい柄や色であーでもないこーでもないと服をいつまでも選ばされてきた事を。
通称、デパート引きずりまわしの刑──。
今回も細かな服の色や柄をじっと見ながら、何着も試着させられたりしてさすがに疲れた。
30分くらい立ってやっと許可が出る。
「うん、これなんかいいかもしれないわ。ちょっと着て見てよ」
そう言って黒と灰色を基調としたローブを俺に渡す。試着するのはこの店に来て3回目。俺はくたびれたような顔つきで試着室で着替えをし、ローブを着てルシフェルの前に現れる。
ルシフェルはその姿を見るなりどこか上機嫌になった。
「うん、しっくりくるわね。じゃあこれにしようかしら」
「わかりました。じゃあ彼に合うサイズに調整しますね」
そう言ってマスターは店の奥でやや大きめだったローブを細かく調整。2~3分ほどで戻ってくる。
よかった、これで退屈な時間が終わる。
そしてルシフェルが代金を支払い俺達は店を出た。
次に行くところ、それはもうすでに決まっている。
「とりあえず冒険者達に会いたい。ギルドに行ってみようか」
「私も行きたい。今のこの国の現実を間近で聞いてみたいわ」
歩きながら2人で相談した結果、まずはギルドに行ってみることにした。
ギルドなら仕事内容から、この国でどういう状況になっているか想像できる。
それにギルドならば冒険者もたくさんいる。彼らなら比較的俺に味方してくれる気がする。
という事でギルドへ。
しかし懐かしい街並みだ。
中世のヨーロッパを彷彿とさせるような見る物をうならせる街並み。
石畳の道に煉瓦の家、風車も時折垣間見える。俺からしてみれば懐かしい風景だ。
さっきの繁華街より静かでのどかな雰囲気、確か中流層が住んでいる地域だっけ。
そんな静観な風景を超え、人通りの多い道に再び入り10分ほど歩くと目的の建物が視界に入る。
この辺りでも頭一つ大きい建造物、煉瓦造りで入口には斧やマスケット銃、剣など多種多様な武器を持った人がたむろしたり、出入りしたりしている。
「ここがこの街のギルドね、初めて見るわ」
ルシフェルは物珍しそうにギルドを眺める。
しかしギルドか、懐かしいな。俺の胸が懐かしさでいっぱいになる。昔は仲間たちと一緒にクエストを探したり、冒険者の話しを聞いて地方の貧しい惨状などを知って何とかしようとしたりしていたものだ。
今は、どんな雰囲気になっているのだろうか。
そんな気持ちを胸に中に入る。
キィィィィィ──。
「こんにちは、何かご用け──、って元勇者様??」
金髪で腰までかかったロングヘアに上品な顔つき。とてもきれいな人だ。
俺が勇者だったころと何も変わっていないな──。ギルドの案内をしているフィーナさんだ。
フィーナさんが俺の顔を見るなり、驚いて視線をくぎ付けにする。
そしてフィーナさんの「元勇者」という言葉に、周りの冒険者たちが反応して視線を向けた。
「本当だ、元勇者だ──」
「帰ってきたんだ、俺達のために!!」
「しかも何だよ、あの女、彼女か??」
「女作ったのかよー、爆発しろよ」
明らかに、僻みの言葉が入っている。
周囲の視線が吸い寄せられるように俺に向かってきた。っていうかルシフェルは彼女じゃないし、3年前までお前たちが絶対に倒すと誓っていた魔王だし──。まあいいや。
まずは冒険者カードの再発行からだな。
「わけがあって冒険者カードが無いんです、再発行できますか。そしてこちらのル──、エルネストさんの冒険者の手続きもお願いします」
「──そうですか、分かりました」
そう言ってフィーナさんは奥の棚を開け、2枚のカードを取り出し、俺とルシフェルに見せる。
「まずこれが冒険者カードです。指紋登録となっています。こちらの右下の余白の部分に指を強く押すと登録が完了になります」
俺とルシフェルはカードを手に取り余白の部分に指を当て強く押す。すると2人のカードが強く光り始めた。
「これで登録は完了です。奥に掲示板があるのでそこからクエストを選んでください」
「わかりました」
そして俺は礼を言って、奥のクエストの紙が貼られている掲示板の所へと歩を進める。
掲示板には何枚ものクエストの張り紙が貼られており、俺はその紙のクエスト内容や報酬など確認。
「まあ、あの国王(置物)じゃこうなるだろうな」
その内容を見て俺はため息をつき、肩を下ろす。
俺の苦労はどこへやらと呆れるばかり。そんな思いを胸にしながらこの掲示板を指差し隣にいる冒険者に質問をする。
「この報奨金、以前よりかなり下がっていないか?」
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