第26話 登校日

 今日は夏休み中唯一の登校日。夏休み明けは一週間後なので、一部課題の提出や生活リズムの改善などを目論んでいるのかな。俺は課題はとっくに終わっているし、毎朝六時前には起きる生活はほぼ変わりないので特に登校日があっても問題なかった。


「おまえは問題ありありだな。恋春。はやく起きろ」


 ここ数日残した宿題のプリントを片付けるのに躍起やっきになって夜ふかししたりした挙げ句、昨日は終わった開放感からか夜遅くまで友だちと長電話していたようだ。


「ふあぁい。お兄ちゃん、だっこ」


「朝から煩いな、はやく起きて朝食とれよな」


「うわぁお兄ちゃんが酷い。新しい女ができたから私なんて用無しでポイされるんだ」

 おい、言い方!

 もう面倒くさいし時間もないので、恋春をお姫様抱っこしてダイニングテーブルまで運ぶ。

「うへへ」と恋春はグリグリ頭を擦り付けていたけど、甘やかしでなくただのですから勘違いしないでさっさと起きるように。



 なんとか通学時間には間に合って、俺はいつもの待ち合わせ場所に向かう。


「おはよう、香織。早いね、待ったかな?」


「あ、おはよう悠くん。久しぶりの待ち合わせだから気が急いちゃった」


「そっか。じゃ、行こうか」

 手をのばすときゅっと握ってくれる。


「えへへ。なんだか新鮮だね。お付き合い始めて初めての登校だよ」


「前、手を繋いだ時は写真を撮られて大変だったしね。もう、堂々と校門まで手を繋いでいけるな」

 うっれし~なぁ~と、手をブンブン振る香織がカワイイ。こころなしかスキップしているように歩いてもいる。めちゃくちゃ可愛い。


 俺はもう我慢できなくて、物陰に香織を引き込んだ。


「香織、もうムリ」

 キスした。可愛い香織に何もできないで昼の下校時まで待つなんてできそうになかったんだよ。


「もう、悠くんのばか」

 香織も顔を赤らめていたけど、嫌がってはいなかったので良いでしょ!



 教室に入ると既に七割方は登校していた。見るとどうやら陽気なグループとどんよりグループとに分かれているような気がする。休み中有意義に過ごせたグループとそうでなかったグループ、か? 一歩間違えばあっちのどんよりグループに自分もいていたのかと思うと肝が冷えるぜ。


 などとくだらない事を考えているといつものメンバーがやっていた。


 郁登は当然ながら陽気なグループ。彼女と海やキャンプなど結構遊んでいたみたいだし、彼は成績優秀者なんで夏休みの課題だって余裕だったみたいだ。

 それに引き換え、負のオーラを撒き散らしているのが二人。言うまでもなく与一と榊だけど。

 告白も何もする前に恋破れた与一とその対象が自分の姉だった榊。しかも未だ課題が終わっていなくてあちこちに頼みまわってきたそうだ。ドヨドヨした空気感が暑苦しい。


「悠、おまえはどうだったんだよ……って聞くまでもないか! この陽気な夏野郎」

 意味のわからない蔑みを投げかけてくる与一。


「なあ悠、あの娘か? あの娘なんだろ? 今朝見たぞ。仲良くお手々繋いでランランラン……ってか! チクショウ」

 榊は血涙を流して壊れているようだ。南無。


「へ~ちゃんと付き合うようになったんだ。おめでと」

 やはり余裕の郁登は言うことが違う。


「ありがと。郁登と彼女さんには感謝だな。今度何かおごるぞ」

 最後のウジウジを二人して後押ししてくれたのだから感謝しか無い。


「それじゃ、夏休み最後の日ダブルデートと決め込もう。悠たちのイチャイチャぶりを堪能させてもらわないとな」


「OK郁登。だがそこまでだ。口を閉じておけ?」


「?」


「郁登、周りを見ろ」

 俺たちの恋バナ(?)を聞いてしまった与一と榊をはじめとした、どんよりグループが更に沈み込んで溶け出す勢いになっている。


「こ、これは……」


 キーンコーンカーンコーン


 担任が教室に入ってきてホームルームが始まるので馬鹿話は終了です。

 提出物や逆に配布物などの受け渡しをおこなったり、残り一週間の注意事項などを聞いたあと、なぜか教室などの清掃を行い正午ちょっと過ぎに解散となった。



 LINEを香織に送ると向こうも同じように解散になっていた。

 こっちの郁登と同じように香織の方も郁登の彼女さんの優美さんとダブルデートの約束をしていた。郁登のやつがこっそりと連絡していたに違いないな。


「それじゃ、行くか。悠」

 郁登がそんなことを言う。


「どこに?」


「何を言っているんだよ。ダブルデートの計画をたてるんだよ。優美の方も香織さん誘って校門のところに行っているはずだから急ぐよ」


 いつの間にやらそこまで話が進んでいるんだか、郁登は全くもって強引なやつだが、憎めないし許されちゃうんだよな()ってやつか?


「バカなこと考えてないでさっさと用意して」

 むむむ。



 郁登の言っていたとおり、既に香織と優美さんは校門の横に立っている欅の日陰の下で待ってくれていた。


「ゴメン。俺がグズグズしていたせいで暑い中待たせてしまった。ふたりとも大丈夫?」

 着いた早々に俺は謝る。今日もしっかり暑いので、いくら日陰でもかなり暑かっただろう。


「香織、あなたいい人見つけたね」


「そうだよ。相手のことを先ず考えて気遣ったりできるんだからすごいよね」

 何かを優美さんと郁登が伝えて、香織が真っ赤になって「あうあう」言っている。


 やっぱり暑かったんだろうな。悪いことした。香織には俺が持っていた水筒のお茶を少し飲ませておいた。



「じゃ、叶堂でいい?」

「わお、久しぶりだ。パフェ! パフェ!」

 郁登が言うと優美さんは郁登の腕にしがみついてはしゃいでいる。


「行こうか」

 俺たちもしっかりと手を繋いで二人を追うのだった。





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