第13話 青と橙と緑

 昼食時間のピークをうに過ぎた一三時半。レストラン街に来たがあっさり入店でき、三人それぞれが注文した料理がテーブルに並ぶ。


 俺の注文が鯛のアクアパッツァ。

 恋春がエビドリア。

 香織はイカスミパスタ。


 水族館帰りなのは関係ないからね、と各人とも思っていることだろうけど、まあ、そういうこと。



「お兄ちゃん、ソレ美味しいの? 私食べたことない」


「ああ、美味いぞ。食べるか?」


 俺は鯛を一口大に切り分けフォークに挿して恋春に差し出す。


「あ~ん、パク。うんうん、美味しいね。代わりにこっちもあげるね」


 恋春はスプーンにドリアを掬い、ふーふーと息を吹きかけ冷ました後、「あ~ん」と言いながら俺に差し出す。


「パク。おっ、結構美味いな。ん~もうちょっとくれないか?」


 気に入った味なのでもう少しねだってみる。


「え~、いいよ。でも、私もそっちのもう一口ほしいな」


 上目遣いで恋春がねだってきたので、かわいいし、否はないからもう一口切り分ける。



「…………あんたたち恋人同士か? ああん?」


「「兄妹だけど(ですが)?」」


 頬を大きく膨らませ香織が剥れている。


「あ、香織も食べたかった? ごめん、今切り分けるな」


「もう、違うし、いらないよっ」


 イカ墨で黒くなった歯で、『イ~~~ッだ!』って拗ねてしまった。


 よくわからないけど、後でご機嫌取りしないといけなくなったみたいだな。やれやれ。


 ☆


 本日の第二ラウンドが始まるようです。そう、お買い物。お洋服などです。

 俺はあそこに見えるカフェでまったりと待ったりとはいきませんかね?はい、いかないんですね。


 一フロアごとに全部見るのですか? 全部ではない? 良かった。ポケ○ンには興味ない。ああ、そういったところは除く、という意味で全部ではないということですね。


 サンシャインシティの案内パンフレットがあったので、開いて見てみるとファッションと雑貨のお店がそれはそれはたくさんあります。見るのですか? どうぞ。


 香織と恋春はパンフレット見て「ここがいい」「これも見たい」とかしましい。三人寄って無くても姦しい。


「じゃ、行くよ悠くん。ちゃんと付いてくるんだよ」


「お兄ちゃん、迷子にならないようにね」


「へいへい。荷物持ちはおまかせくださいませ」


 折しも夏物から秋物に変わるためのバーゲンの真っ最中だった。値頃手頃な服がたくさんあるみたいで、人がホントいっぱいいる。冗談でなく迷子にならないように注意しないと。



「ねえ、悠くん。こっちのとこっちのどっちがいいかな?」


 出た。よく聞く定番中の定番の質問。もう既に女の子の中では答えが決まっているという噂があるアレだ。


「そうだなぁ、そっちのショート丈のリネンも可愛かった。こっちのマキシ丈はコットンリネンか、これも良かったな。う~ん、悩むな。ショート丈の方はいつもの明るく活発さが現れているようでほんと似合っていると思うし、マキシ丈はたまに見せる落ち着た雰囲気の香織にぴったりなんだよな。何を着てもかわいいと思うけど……」


 クイックイッと肘が引っ張られる。


「お兄ちゃん、やりすぎだよ。香織さん赤くなって固まっちゃっているよ。もういいから、ちょっとあっち行ってて」


 え~折角の【どっちか選んで】イベントだったから頑張ったのになぁ。そうだ、片方を香織が選んで選ばなかったほうを俺が今日誘ってもらったお礼にプレゼントすればいいんじゃないかな。

 なのに再起動した香織は両方自分で買っちゃった。片方俺が買うって言ったのに。


「買ってくれるなら、悠くんが見つけて選んでくれたのを買ってよ」


 なんてそんなにハードル上げてくるんだろう。せめてヒントくれないと。


「なんでもいいんだよ。それこそ靴下でもハンカチでもアクセサリーでもいいよ。あ、下着は止めてね」


 了解。そういうのだったら頑張れば選べるかもな。下着は最初から無理よ? お店入れないよ。


 一回買ったから終わりではなく、次から次へとお店回りは続く。恋春は、香織にどっちがいいか選んでもらったりと順調に買い物ができているようだった。こう見るとホントの姉妹みたいだな。


 俺もただついて回っているだけでなく、香織へのプレゼントと一応恋春のプレゼントを探している。


(あ、あそこのアレなんかいいんじゃないかな? あいつらは……試着に夢中だな。今のうちに買ってきちゃおう)




「いやぁ~今日は張り切っちゃたよ。悠くんも恋春ちゃんも付き合ってくれてありがとう」


「いえいえ、お義姉ちゃん。私も普段来られないようなお店でいっぱい色んな服見られましたし、かわいい服もいっぱい買えたので良かったです」


「……疲れたな。まさか三時間以上ショップ周りするとは思わなかったぞ」


「「えへへ」」


「ふたりとも満足したんだろ? なら良いか。そろそろ帰ろうか? 香織は? 一緒に帰れるのか?」


「うん。ありがとね、悠くん。今日はお父さんたちも家に帰ってるから一緒に帰れるよ」


 おっと忘れちゃいけない。

「あと、はい。これ、プレゼント」


「えっ、ほんとに買ってくれたの?」


「もちろん。そんなに高いものじゃないから軽い気持ちでね。受け取ってほしいな」


「ペンダント?」


「うん、革紐でね。香織のイメージで青い石のカイヤナイトってやつ。で、こっちは恋春にオレンジカーネリアンというの。俺も欲しくなっちゃって緑色の翡翠。みんなでお揃いなんだけどね」


「…………ありがとう」


「お兄ちゃん、私もいいの? ありがとう」


「ん、喜んでくれたら嬉しいんだけど」


「「もちろん」」




 石の効能ってポップに書いてあったけどカイヤナイトは精神の安定と強い意志、迷いの払拭。オレンジカーネリアンは高揚感や元気の素。翡翠は人徳向上、災難除け、願いを叶えるなんだって。


 色のイメージだけで選んだけど、案外と合っているかな。

 願い。叶え。

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