talk1 ギルド


  ←REAL←



種族以外は、凄くいいゲームだった。

いや、自分のミスなんだけど。

多分、これはずっと後悔すると思う。

ゲームを終えて、天井を見る。

家か…………


「……ゲームの中でもいいもんだな」


あの風景を思い出して、感傷に浸ろうとした時、声が聞こえた。


「かーえーりーまーしたよっ!」


俺はその声に返事をする。


「はいはい」


自分の部屋を出て、リビングに降りる。


「おかえり」


「おう、ただいま」


荷物を置いてる親父が机の方を向いてあることに気付く。


「それ何?」


「あぁ、それ今日隣に引っ越してきたミチヅキさんって人から貰った」


「へぇー、ミチヅキさんねぇー」


と言いながら、そのお土産を袋から取り出す。

取り出したお土産を見て、フッと鼻で笑う。


「これ確実にアイツだろ」


おふくろも、横から覗いている。



「なぁ母さんこれ見て、ばっかだろ、アイツ」


「なんと言うか………あの人らしいね」


「ほんとだよ、一応食べ物だけど、顔見知りだからって…………」


その言葉とは反対に、親父とおふくろの顔は凄く嬉しそうだった。

まるで久しぶりに、懐かしい人に会ったみたいに。


「そのミチヅキって人知ってんの?」


その問いには、親父が答えた。


「あぁ、会ったことないっけ?父さんの親友だよ、親友」


へぇー、親父にも友達っていたんだ。


「随分会ってなかったから多少は変わったと思ってたが、引っ越しの挨拶品に"これ"を持って来るところ、全然変わってないな」


と、少し語って例のお土産タピオカ入りたい焼きを手に取る。


「………センスがな」


「そのミチズキって人は、変わってる人なん?」


この問いには、おふくろが答えた。


「変わってはいるけどいい人っているでしょ?そう言う人なの」


「おふくろも知ってんの?」


「知ってるも何も路月みちづき、母さん、父さんは小、中、高校と一緒なのよ?」


これまた初耳である。

仲良し3人組だったとは。

まぁ、特に興味もなかったし。

親父が口を開く。


「そういやアイツ路月、結杜と同じぐらいの歳の女の子がいるって言ってたな」


おふくろは、晩御飯の準備をしだす。

おーい、親父は誰が止めるんだ?

嫌な予感しかしないぞ。


「あぁ、今日の女の子ね、それがどした?」


例のタピオカ入りたい焼きを開ける。


「いやな?父さんと母さんの気持ちにもなってくれよー、結杜の将来が心配なんだよー」


「先に言っとく、やだ」


親父が先に、例のお土産タピオカ入りたい焼きを食べる。


「なんでだよー、いい子だよー、えぇっとななちゃんだったっけ」


「うわ、マッズこれ」とか言いながら食ってる。

マズいんかい。


「会ったことあんの?」


「ちょこっとだけね、パパのおべんと届けに来てたよ」


ほら見ろ、いやな予感が当たった。


「超絶余計なお世話だ」


2つのたい焼き凶器を手に持つ。

そのたい焼き凶器を口にねじ込み、親父を黙らせる。


「ぅぼふぅ!!ほがげっ!!」


晩御飯を作り終えたおふくろが、お鍋を持って来る。

今日はお鍋か。


「もー!2人とも食べ物で遊んじゃいけません!!」


親父は床に転がって、例のブツタピオカ入りたい焼きを咥えたままピクピクしている。


「よくこの状況で言えるわ、殺ったの俺だけど」


「殺ったなんて縁起の悪い!ほら父さんも早く残機減らして復活して」


「ごく一般的な会社員にんな無茶を…………、殺ったの俺だけど」


直後、勢い良く親父が起き上がる。


「死んどらんわ!」


勢いよく飛びあがったせいで、思いっきりテーブルに頭をぶつける。


「いったぁぁ!」


「「ぶふぅ!」」


余りにもテンプレ過ぎて、俺とおふくろは同時に笑ってしまった。

本日も奈倉なそう家は平和である。



  →HEBMDSU→



晩御飯を食べ終えて、部屋に戻ってHEBMDSUを再開しようとした時、変化に気付く。


「ん?………何これ?」


パソコンの右下に、通知が来ていた。

通知の差出人は…………


「榛也か」


榛也は、俺の小学校の後半からの友達だ。

いつ出会ったかは、覚えていない。

榛也曰く、「小4の初めらへん」だったらしい。

今は、あの近所のゲーム店でバイトをしている。

そんなことも、このゲームを手に入れられた1つの要因なんだろうけど。

なんだかんだでいまでも一緒に、ゲームやらをしたりもする。

まぁ、学校に行けばいつでも会えるんだが。

最早、親友と呼んでもいいぐらい仲もいい。

そんな長い事、友達として一緒にいる榛也からの要件は、


『HEBMDSU買ったんだってな!店長から聞いたぞい!一緒にやるぜい!』


との事。

とりあえず、返事を返しとく。


『それはタスカリンクス!まだ色々わっかんねぇから教えてけろ』


と、返信する。

すぐに


『わかった( ´∀`)bグッ!』


と簡潔に返ってきた。

一応、集合場所を伝える。


『場所は、チュートリアルの森すぐ出たとこ』


『おk!』


いっつもどうりっスのー、と心の中で返しながらHEBMDSUに入る。

周りを見渡すと、既に森の近くに数人いた。

しかし、どのアバターが榛也のアバターなのかわからない。

……………そんな心配はしないでいいらしい。

何故なら、こっちに向かって思いっ切り走って来てる奴がいるから。


「おーーーい!!」


ヤベェ奴がいる。

しかも、なんか角生えてるくね?

なんだアイツ?

ん?ちょっと待って。

1つ聞きたい事が出来た。


「いやー、探すの疲れた」


「なんで俺のアバター知ってんの?」


場所しか言ってなかったはずなのに、どうなって俺を見つけたのか。

もしかして、ストーカー?!


「何思ってんのか知らんが、違うぞ?」


「あ、あぁ、そなの?」


心を読まれた。

さすが、伊達に長い事一緒にいるわけじゃない。


「お前、どのゲームでもキギルっつー名前なんだから探しやすいんだよ」


「確かにそうだな」


俺は、どのゲームにおいても"キギル"と言う名前を使っている。

理由は単純。

覚えやすいから、はい単純。


「……にしても、ホントにそれだけで探したの?」


「名前がそんな名前だし、ある程度の場所さえ分かれば、探せれるってもんよ」


「すげぇな、お前…」


榛也をフレンド登録しておく。

ついでに、ステータスを見とく。


「ぉおわ、スッゲ!」


[鬼梗  武士]

 族:獣禽族

 錬度:20

 『体力:1002

  魔力:648

  速力:920

  攻撃:963

  防御:785

  特異:000』


「こんな感じなんだ!武士だから和風っぽい服着て髪も赤いのか!」


「ん、赤いのは関係ない。ステータスは大体こんなもんだな」


「へぇー、この"特異"ってやつは?」


「それはよく分からん、聞いた所じゃ特異これがMAXになると、"特異属性"なるものが発現するらしい」


「"特異属性"って何ぞや?」


「本来は無い属性、このゲームじゃ9つの基本的な属性がある、発現すると、基本的にはその特異属性以外は使えない、そして、似たような属性は出ても、同じ属性はない。」


「つまり例外の属性、その人だけの属性って事?」


「そゆこと」


そんな例外が、そもそもの全ての人にステータスとして"備わっている"って言う事は、”文字通り"全ての人が、"例外無く"強くなれると言う事。


「運営は、特異属性の軍団でも作るつもりか?」


「さぁね、でもお前もMAXだけどな…………"特異"」


「?!!」


耳を疑う。

コイツ、今、何て言った?

特異がMAX?


「………なんで?」


「多分、未知族だからじゃね?」


「あ!そう言う事か!」


「未知族は種族自体が"特異"みたいなもんだしな」


「あぁナルホド、じゃ、俺も特異属性使えるって事?」


「ある程度レベルをあげなきゃなハズだったけど、使えるハズ」


「ほぉー」


未知族については、本当になんとなくだけだが分かってきた。

そんな事よりも榛也のアバターが、どことなく現実の榛也に近い。

違うとこと言えば、角と赤毛髪位である。


「なぁ榛也、お前それホントに獣禽族か?」


「あぁこれ?獣禽族だぞい、正確に言ったら獣禽族の中の幻動種っつーやつ」


「なんだと!種族ってそんなに細かいの決めれんの?!」


「決めれんの、人間族でも確か、純人間とかハーフエルフとかにも出来たハズ」


「マジか…………因みに未知族は…………」


榛也は、少し口を閉じる。


「……どうなんだ」


聞いてみる。

まぁ、気にしたところでもう遅いんだが。

そう考えていると、榛也が口を開ける。


「無い、キャラ設定の時無かったろ?」


きっぱり言われた。


「デスヨネー」


うん、未知族だし、なんとなく気づいてた。

どんなことでも、このゲームにおいては、未知族と言う理由がつく。

ある意味、未知族になって正解だったのかもしれん。


「なぁ結杜、良からぬ事考えてないよな?」


「ハッハッハ、ソンナコトナイヨ」


「ゼッテー嘘だな」


「ウソジャナイヨー」


「もういいわ、街行くぞ」


と言って、左手の親指で街の方を指す。


「結構遠くないか?」


「そんなに遠くないぞい、時間は………まだ大丈夫だよな?」


そうか?なら……と、着いて行く事にした。

今の時間は…………

夜8時か……


「勿論!大丈夫だ!」


と返した瞬間に、違和感に気付く。


「わざわざ時間聞くってことは全然遠いっつーことじゃ?」


「誰も"近い"何て言ってないじょ?」


榛也の口が怪しく歪む。

と言うか、ちょっと「ふへへ」って聞こえたぞ。


「っぅあ!騙したな!」


「はっはっはっ!!、勝手な勘違いだろう!」


そんな言い合いをしながら、街に足を向けて歩いて行く。

街とは一体どんな所なのか、年甲斐もなくって言う程年老いてはないが、わくわくする。



  ←REAL←



「そーいやさー」


「ん?」


榛也が、聞いてくる。


「いつまで"榛也"って呼ぶつもり?ここHEBMDSUぞ?」


「わりぃわりぃ、つい癖で、えっと………」


「はぁー、さっきステータスで見ただろ、鬼梗ききょうだ」


「あぁー、そうそう鬼梗」


「忘れんなや」


「はいはい」


適当に、返事する。


「それとさー」


すると、はる……っと違う鬼梗から、もう1つ質問が来る。


「ギルド作んないの?」


「んー」


ギルドは、色々な種類がある。

その規模も、様々だ。

しかも、結構気軽に作れる。

しかし俺には、こう言う事にはちょっとしたこだわりがある。

  

「いいけど……出来ればなんだけど、少人数で………」


「確か………ギルドは最低2人からっだったから…………」


「じゃあ、10人弱ぐらいでいいかな?」


「いいだろ、どーせどでかいの作るわけじゃないんだろ?」


「手に負えなくなるからな」


色々と、ギルドの設定を考える。

まぁ、ギルドを作るのは明日の予定だから、全然変更も利く。


「レベルの設定もできるぞい」


「レベルの設定?どゆこと?」


「募集するメンバーのレベルも設定できんのよ」


「へぇー、じゅあ同じぐらいの人と一緒に強くなる事もできるんかー!」


中々にいいもんじゃないか、うんうんと頷く。

待って、誰目線だこれ?


「じゃ、同じぐらいのレベルに設定して…………こう?」


「ん!そうそう!」


「フムフム………なるほど…」


歩きながらで物凄く危険だが、は……鬼梗に教わりながら、頭の中でギルドの設計を立てる。

……ん?………レベル……?って……


「あ」  「あ!」


気付いた。気付いてしまった。そうだった。

驚きすぎて、木にあたりそうだった。うわぁぁぁ!!

後から榛也も気付いたみたいだ。


「「お前未知族アンノウンじゃねーか!!!」」


あーあーあー、こう言う時、ホントに未知族で最悪だったと思ってしまう。

未知族は、メリットよりもデメリットの方が多い事を、再度実感してしまった瞬間だった。


「……どしよ?」


「もう、適当にレベル1~5とかでよくね?」


「あ……あぁ、そうする」


そうやって色々考えていると、1つ疑問が湧いた。


「なぁ、お前ギルド入ってんの?」


「いんや、入ってない、どした?」


「ほら、指南役とか街の案内役とかいてくれた方がいっかなーって」


「指南役はともかく、街の案内役って………」


榛也は、「なんだよ……案内役って……」と、ぶつぶつ言ってる。

ちょっとだけ脅してみるか。げへへ。


「ど・う・な・ん・で・す・かー?榛也くーん」


口を物凄く歪ませる。げへへ。


「きもいわ!怖いわ!わかったわかった!はいはい、やりますよ!やればいいんだろ!案内役!」


「わーお!榛也くん、イッケメーン♡げへへ」


「わかったから近づくな!きめぇし怖ぇ!」


「おう、ありがと」


「急に普段に戻んのも怖ぇわ、なんなんだお前、それに何に対してのありがとなの?」


「俺なんだわ、俺」


と、訳のわからんやり取りをしながら、街に行く。

もう街が結構近くに見えた。

もうこんなに歩いたのか。


「あぁ、そういや街に未知族の知り合いがいるハズだから、その人に未知族の事聞けば大体返ってくるハズだぞ」


「そーれはいい事聞いた」


「ま、確実にお前も知ってる人だぞ」


俺が知ってて、コイツ榛也も知ってる人……。

誰だろ。


「しかもその人、中々おっきめの商業ギルドのマスターだから、情報とかも持ってるハズだ」


「え?商業ギルドでしょ?」


コルンで情報買ったり、確か酒場とかも経営してるから、情報もバンバン入って来るって言ってた」


「商業じゃなくない?それ」


情報の売買に関してはなんとなく解るんだが、酒場ってどうなんだろ?

どうしても、イメージが湧かない。


「そんな事ないぞ、結構どこのギルドも酒場やってるし、情報に関しては商業ギルドが図書館みたいな情報管理施設を持ってたりもするから………」


「情報専門のギルドとかはないの?」


「全然あるけど、商業ギルドみたいに多くはないかな」


「へぇー、一番多いギルドは?」


「多分、プレイヤーギルド」


「プレイヤーギルド?冒険者とかじゃなくって?」


「あぁ、と言ってもほとんどプレイヤーが管理してんだけどな、まぁ感覚的には冒険者ギルドでいいでしょ」


「モンスター倒してお金貰うギルドって事?」


「そゆことだ、わっかりやすいでしょ」


などと、榛也にギルドのイロハを教わりながら、その"ある人"のところに向かう。

ようやく、街の目の前に来た。

………ところで、俺も会った事ある人って誰だろう?

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