第3話 ハツが痛いです四十万さん
「――おはよう
「おはよう
朝、席に着くと隣の席の四十万さんは僕に今日の気分を教えてくれる。ブルーから始まった彼女との何気ないやり取りは少しずつ色を変えつつある。
ひまわりの気分……ってことは機嫌が良いって事かな?
若干、周りの女子生徒が僕達の会話を聞いて赤くなってそっぽを向いた事以外は至って普通の挨拶だと思う。
「今日の体育は体力測定なんだって。二句森くんは自信ある?」
「う〜ん……実はあんまりない」
四十万さんに言われて自分の体を改めて見る。僕の実家は肉屋を営んでいて精一杯食べているんだけどなかなか大きくなれない。
店主である父さんは岩のような体格の人。あの丸太のような腕に憧れて僕も父さんみたいに……と思っているけど道のりは遠い。
「四十万さんは中学時代どうだった?」
「私の人生に興味があるの?」
人生ってまた妙な言い回しをしてくるなぁ。とはいえ確かに興味があるのは事実。謎多き彼女はどんな風に育ってきたのだろう。
「私、中学は女子校だったから。あんまり運動してこなかったんだ」
「えっ!? 四十万さん女子校だったの?」
衝撃の事実だ。
何が衝撃かわからないけど、女子校出身ってだけでイケナイ妄想が働く僕の思考回路が衝撃だ。
「そうだよ。だから"淑女として〜"みたいな事はやってきたけど、運動はさっぱりなんだ。まぁ苦手意識があるっていうのが本音なんだけどね」
彼女はいつにも増して自分語りをしてくれた。日頃は僕の事を聞きたがるのに今日はなんだか上機嫌、これがひまわりの気分の効果なのか。
「……あのさ四十万さん」
「な〜に?」
ゆけ漢
「ぼ、ぼぼぼぼ……」
「んふ?」
笑われてるぞ十蔵。
落ち着け僕のハツよ!
せっかく少し仲良くなりつつあるんだ。
ここで挫けては過去の自分に逆戻りだ。
「僕で良ければ……その、お手伝いというかなんというかですね。四十万さんさえ良ければですね……」
「私さえ良ければどうしてくれるのかな? かな?」
うぅぅぅ。四十万さん近いです。あとそんなに見つめられると目のやり場に困る。
「こ、コツを教える……みたいな事をですね」
バカ野郎!
体力測定にコツも何もないよ!
何言ってんだ僕は。これじゃあ四十万さんも呆れて……
「手取り足取り?」
「へ?」
えっと四十万さん?
「二句森くんが私に手取り足取りコツを教えてくれるって事でいいんだよね?」
ちょっともしもしお姉さん。その言い方は色々誤解を産むというかですね。
「「「――――っ」」」
ほら見て周りの女子生徒の頬がさっきより赤い。前の席の男子は前屈みで机に突っ伏してるじゃないか。
「……えっと」
「教えてくれないの?」
そんな目で見つめられたら僕のハツが限界突破。
「どうなの? ねぇ二句森くん。私に上達するコツを……お・し・え・て?」
工事現場より大きな振動が僕の胸を打つ。
「……はい」
自分の言葉には責任を持て、今日僕が学んだ大切な事だ。
「うぇへへへ、やった♪」
笑い方さえ気にしなければ彼女の笑顔はひまわりのようだ。
「ちょっとお花摘みに行ってくるね」
お花? あぁもしかして中庭に咲いてた花を摘みに行くのかな。
「僕も一緒に行くよ」
もし中庭にひまわりが咲いてたら四十万さんにプレゼントしよう。でも、一緒に行くならプレゼントも何も無いか。しかし僕の言葉を聞いた瞬間、周りにいるクラスメイトが一斉に僕を向く。
「えっと……ん?」
はて、僕は何かしたのかな?
「二句森くん、私と一緒に行きたいの?」
「え? うんまぁ、お花摘みに行くんでしょ?」
「そうだよお花摘み」
「だったら僕も一緒に行こうかなって……ダメだった?」
僕の返答を一字一句聞き逃さないようにクラスメイトが聞き耳を立てる。今度は女子だけじゃなく男子まで顔が赤い……いや耳まで赤い。
「ううん嬉しいよ。じゃあ一緒に行こうか。うぇへへへへへ」
「ありが……」
一緒に校内探索していたらもっとお近付きになれるかも。僕は感謝の言葉を言おうと口を開こうとして開けなかった。
「ちょっとストーップ!!!」
間に入ってきた女子生徒はボクシングの試合でテクニカルノックアウトを見極める審判のような動きを見せる。
「
「えぇ〜」
女子生徒が固まる方へ連れて行かれる四十万さん。一方僕は……
「二句森、お前は天然なのか?」
「ある意味勇者だ」
「やべぇヤツが現れた」
「流石に俺もあの返しはできねぇな」
近くの男子からそんな言葉を言われた。
「えっと……なんの事?」
僕の言葉にガクッと首を折った彼等から肩を組まれて真実を聞いてしまった。
「――っ!」
その後僕は授業中、机とずっとお友達になった。これがズッ友ってやつなんだね。
「お花摘みはまた今度ね。うぇへへへ♪」
「うぅぅ……ひどいよ四十万さん」
あぁ、
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